学校教科書に採用された、唯一の木の話です。 情報提供者 小原二郎先生 |
楽器では、話がもう一つ神秘的になる。バイオリンにしても琴にしても、科学技術が長足の進歩をした今日でも、木を使った古い伝統の製作技法は、いささかの改良案も寄せ付けない。弦楽器(12)の響き板(13)には、今のところ木に代わる材料は見当たらないし、それも天然の木の中からよいものを選び出すよりほかに方法がないという。 このように考えてくると、木は実は最も高級な神秘性を持つ材料と言ってよい。今見直されようとしている理由はそのためである。 我々は木の香も新しい白木の肌を好むだけではない。時がたてはやがて灰色にくすんでくる木肌を、今度は「さび(14)」といった独特の世界観の対象にして、別な立場から愛でている。更にまた、木肌の魅力を生かす技とセンス(15)、加うるに鑿のさえによって、美意識はいっそう高められることになる。だから我が国では、木は単なる材 料というよりも、銘木(16)のように美術品として取り扱われることが多い。一般の用材の中にもそうした考え方が入ってくるから、日本人の木に対する評価は理性よりも感情が優先するのである。
その一例に木材規格がある。一等材は二等材より特に強いわけではないし、腐りにくいのでもない。ただ表層の見てくれが少しばかり美しいか、美しくないかだけの差にすぎない。それなのに価格はべらぼう(17)に違う。こういう評価の仕方は合理性に欠けていて、工業材料という立場から見ると、たいへんおかしいのだが、木についてはそれが当たり前のこととして通っている。つまり木材は工業材料ではなくて、工芸材料であり、ある場合には芸術材料ですらある。 木のいちはん大きな特徴は、木目(もくめ)があるということであろう。気候に寒暖の差がある地帯に生える樹木には、一年ごとに年輪ができる。年輪の幅は、樹齢・土壌・気温・湿度・日照などの記録であるから、年輪にはその年の樹木の歴史が刻み込まれる。
【学習の手引き】
1.「本文は大きく三つの段落に分けられている。それぞれの段落ごとに、筆者が述べていることを整
理してみょう。
2、筆者は「木の魅力|」とはいったいどのようなものだと述べているのか、一で整理したことをもと
にして考えてみょう。
3、「二十世紀は機械文明の時代だが二十一世紀は生物文明に移る。」という
意見について、各自の考えをまとめ、話し合ってみよう。