学校教科書に採用された、唯一の木の話です。 情報提供者 小原二郎先生 |
近ごろ、コンピュータよりも人ピユータのほうが頼りになるとか、エンジニア(10)よりも勘ジニアのほうが高級だよ、という意見を吐く人があるが、味わい深い言葉だと思う。
お菓子の折り箱を前にするたびに思うことだが、羊羹(ようかん)をスギの箱に入れると、一段とおいしく感ずるのは不思議である。プラスチックとチョコレートとはしっくりするが、羊糞はどうも肌が合わないらしい。すしについても同じことが言える。握りはヒノキの一枚板の上で食わないとうまくないが、すし足のおやじさんは、あの白い木肌を美しく保つために、毎日たいへんな苦労をしている。合成樹脂(11)を張った板の上で食ってくれたら大いに助かるのだが、それではお客が承知しない。これも自然の木肌の持つ神秘性のゆえんである。ビフテキの肉はステンレスの上で切るが、刺身はヒノキのまな板でなくては駄目である。ビフテキと刺身の味の距離は、金属と木材、そしてまた西洋と日本との違いと言ってよい。
建物を造るとき、設計者はたいへん細かい神経を使って材料を選ぶ。タイルの色の濃い淡いや、ちょっとした汚れで、職人さんはけっこう泣かされる。ところが、いったん建物が出来上がると、正面の入り口には、ヒノキの一枚板を削って、墨太に「○○○」などと書いた看板を掛ける。一雨降ればすぐに汚れることは分かっているのに、白木の汚れは一向に気にならない。むしろそれによって、風格が付くという日本的な安心感が得られるらしい。これも木肌の持つ神秘性であろう。
【学習の手引き】
1.「本文は大きく三つの段落に分けられている。それぞれの段落ごとに、筆者が述べていることを整理してみょう。
2、筆者は「木の魅力|」とはいったいどのようなものだと述べているのか、一で整理したことをもとにして考えてみょう。
3、「二十世紀は機械文明の時代だが二十一世紀は生物文明に移る。」という意見について、各自の考えをまとめ、話し合ってみよう。