学校教科書に採用された、唯一の木の話です。 情報提供者 小原二郎先生 |
木を取り扱ってしみじみ感ずることは、木はどんな用途にもそのまま使える優れた材料であるが、その優秀性を数量的に証明することは困難だということである。なぜ なら、強さとか、保温性とか、遮音性とかいった、どの物理的性能を取り上げてみても、木はほかの材料に比べて、最下位ではないにしても、最上位にはならない。どれ をとっても、中位の成績である。だから優秀性を証明しにくい、というわけである。 だがそれは、抽出した項目について、いちばん上位のものを最優秀だとみなす、項目別の縦割り評価法によったからである。今見方を変えて、横割りの総合的な評価法をとれば、木はどの項目でも上下に偏りのない優れた材料の一つということになる。 木綿も絹も同様で、縦割り評価法で見ていくと最優秀にはならない。しかし「風合 い(8)」まで含めた繊維の総合性で判断すると、これらが優れた繊維であることは、実 は専門家のだれもが肌で知っていることである。総じて生物系の材料というものは、 そういう性質を持つもののようである。
以上に述べたことは、人間の評価の難しさにも通ずるものがあろう。二、三の縦割りの試験科目の点数だけで判断することは、危険だという意味である。確かに今の社会は、縦割りの軸で切った上位の人たちが、指導的役割を占めている。だが実際に世の中を動かしているのは、各軸ごとの成績は中位でも、バランスのとれた名もなき人たちではないか。天は二物を与えない。頭のいい人というのは、とかく癖があってなじみにくかったりするものだが、バランスのとれた人は人間味豊かで親しみやすい。 頭のいい人は確かに大事だが、バランス(9)のとれた人もまた、社会構成上欠くことの できない要素である。思うに生物は極めて複雑な構造を持つものだから、縦割りだけ で評価することには無理があるのであろう。
【学習の手引き】
1.「本文は大きく三つの段落に分けられている。それぞれの段落ごとに、筆者が述べていることを整
理してみょう。
2、筆者は「木の魅力|」とはいったいどのようなものだと述べているのか、一で整理したことをもと
にして考えてみょう。
3、「二十世紀は機械文明の時代だが二十一世紀は生物文明に移る。」という
意見について、各自の考えをまとめ、話し合ってみよう。