2005年の統計1)によると、チリの国土面積は7,448万㌶(日本の国土面積の約2倍)であり、森林総面積は1,612万㌶(国土面積の21.6%)、植林面積は266万㌶(森林総面積の16.5%)である。2000年~2005年の森林面積の年変化率は0.4%増で、森林面積は年間平均5万7千㌶づつ増加している1)。北から順に13の行政区があり、森林林業行政は国家林業機構(Corporaci?n Nacional Forestal:CONAF)が行っている。
林 分 型 | 所 在 地 | 面積(ha) | 主要な樹種 |
---|---|---|---|
(1) 硬葉樹林 (Escler?filo) |
南緯30度50分から38度30分の
海岸山脈地域、 中央渓谷、アンデス山脈 |
403,417 | espino, quillay, mait?n, litre |
(2) パーム林 |
南緯34度30分付近の限られた地域 (世界のパーム林の南限) |
673 |
palma chilena, litre, peumo, quillay, aspino, mait?n, boldo |
(3) Roble-Hualo林 |
南緯32度50分から36度30分の海岸山脈地域、
アンデス山脈 |
184,359 |
roble, peumo, haulo, peumo, radal,mait?n, quillay, litre, |
(4) Cipr?s de la cordillera林 |
南緯34度35分から44度のアンデス山脈で、 まばらに存在 |
46,526 |
cipr?s de la cordillera, peumo, litre, boldo, mait?n, quillay |
(5) Roble-Raul?-Coihue林 |
南緯36度30分から40度30分の アンデス及び海岸山脈 |
1,446,043 |
roble, raul?, coihue, tepa, ma??o de hojas cortas, lenga, array?n |
(6) Lenga林(ナンヨウブナ属の森林) |
南緯36度50分から56度のアンデス山脈の 高山地帯に限定 |
3,391,421 |
lenga, coihue, roble, araucaria, ?irre, coihue de Magallanes |
(7) Araucaria林 |
南緯37度27分から38度40分までの海岸山脈
及びアンデス山脈 |
261,083 |
araucaria, coihue, roble, ?irre, canelo, lenga |
(8) Coihue-Raul?-Tepa林 |
南緯38度から40度30分までの海岸山脈
及びアンデス山脈 |
562,593 |
coihue, raul?, tepa, trevo, tineo, olivillo |
(9) 常緑樹林 : (Siempreverde) |
南緯38度30分から47度の海岸山脈 及びアンデス山脈 |
4,138,536 | tepa, luma, canelo, tineo |
(10) Alerce林 |
南緯39度50分から43度30分の 海岸山脈及びアンデス山脈でまばらに存在 |
260,976 |
alerce, coihue de Magallanes, canelo, coihue de Chilo?, tepa, ma??o de hojas punzantes, ma??o de hojas cortas |
(11) Cipr?s de las Guaitecas林 |
南緯40度から54度まで湖沼に多い | 970,326 |
cipr?s de las Guaitecas, coihue de Chilo?, ma??o de hojas punzantes, coihue de Magallanes, canelo |
(12) Coihue de Magallanes林 |
南緯47度から55度30分まで | 1,791,860 |
coihue de Magallanes, lenga, tineo, ma??o de hojas punzantes, canelo, cipr?s de las Guaitecas |
合 計 | 13,457,141 |
チリもアルゼンチンと同様に南北に長く(4,329km、東西の幅は平均175km)、気候差が大きいことから森林植生は多様であり、砂漠等の乾燥地帯を除いて天然林は北から南に向かって12の林分型に分類されている(表9) (13)。
1974年に森林法が制定されたことにより、チリの植林活動は組織的に実施されるようになったが、ラジアータ・パインは1974年の時点ですでに30万㌶植栽されている。1980年代後半には、NZのカーター・ホルト・ハーベイ(CHH)グループとフレッチャー・チャレンジ・グループがチリに進出している。図2にみられるように、1988年までは年間の植林面積の85%がP.radiataであったが、1989年からユーカリ類の植林が増加し、1993年には4万6千㌶(植林面積の37%)に達している。その後、やや減少した時期もあったが、2004年には5万2千㌶、40%を占めるに至っている。なお、ユーカリ類としては、E.globulus、E.nitens、E.grandisが多く植林されている。
CONAFの調査結果で造林可能な面積が300万㌶あることが判明し、1998年に林業振興のための森林法の改正が行われた。その結果、零細な農家である小・中規模の森林所有者に対しての造林補助政策が進められるとともに、CONAFは伐採・更新の施業と適正な森林保護管理に関する方法を定めて、天然林資源の回復と維持に積極的に取組んでいる (15)。
植林は中南部が中心で、特にコンセプシオン市のある第Ⅷ州は、植林地合計の約30%を占めている。また第Ⅶ州から第Ⅹ州を加えると約85%に達する。また、図5と6は2006年度の州別植林面積を示しているが、第Ⅷ州でのラジアータ・パインの場合は伐採後の再植林の比率が高く、新規植林の3倍近くになっている。一般的に伐採後の再植林はラジアータ・パインで特に顕著であるのに対して、ユーカリ類の多くは新規植林が多い ( 14)。
・木材生産における生産性が高い(年間成長率が大):カナダやロシアの針葉樹材の成長速度は非常に遅く、それぞれ年間1.5?/ha と1.6?/ha に過ぎない。スウェーデンや米国も森林資源大国であるが、それぞれ5?/ha、7?/ha 程度である。一方、チリのラジアータ・パインのそれは、20~25 ?/ha/年で、圧倒的に高い成長率となっている。
・コスト優位性:針葉樹を原料とする長繊維パルプの生産大国である米国、カナダ、スウェーデン、フィンランドと比べて、チリの生産コストは1~2割低い。チリ木材コストは1トン生産当り120ドルと、米国やカナダの半分以下、スウェーデンやフィンランドの1/3以下である。またユーカリなどの広葉樹を原料とする短繊維パルプの生産コストは長繊維パルプほどでもないが、カナダ、米国、フィンランドやブラジル等の主要生産国に比べて低い生産コストを実現している。
・国の優遇政策:植林事業は、1969年の「植林協定」及び1974年の「林業振興法」による優遇政策が大きく貢献している。「植林協定」では、私有地に契約に基づいて国が植林を行う分収植林が多くあり、分収歩合は土地所有者が45~55%、政府が55~45%であった。「林業振興法」ではこの比率が土地所有者25%、政府75%となり、また林業企業に対する不動産税の免除と法人税の減免等の優遇措置があり、この時期から植林面積が大幅に増加している。この優遇措置は1997年に失効したが、1998年に「新林業振興法」が発布され、小規模企業に対して森林事業コストの75~90%を助成する措置がとられている。
林産業における主要企業としては、アラウコ社 (Celulosa Arauco y Constituci?n S.A.)18)とCMPC社 (Compa??a Manufacturera de Papeles y Cartones S.A.)がある19)。両社は、新規植林だけでなく、他企業の吸収合併あるいは外国企業との合弁事業で植林面積を拡大してきている。なお、2グループの合計した植林面積のシェアは1970年代後半に25%であったが、1996年には44%にまで拡大している。チップなどの産業用材生産量でも両社で45%のシェアを占めている。紙・パルプの生産量では、1920年創業のCMPC社が伝統的に紙の生産が主力で生産量のシェアが34%となっているが、アラウコ社はこの部門には全く参入していなくて、輸出向けなどのパルプ生産のシェアが41%となっている。
主要パルプ工場は、第Ⅶ州~第Ⅸ州の中南部で9社が創業し、その内アラウコ社が4工場、CMPC社が3工場、その他にインフォルサ社とビオビオ製紙の工場が第Ⅷ州にあるが、この2社は新聞用紙を製造し、アルゼンチンやペルーに輸出している。
いずれの企業も国際化に積極的で、アルゼンチンやブラジル等で植林・製紙事業を行っている。2008年5月の時点では、アラウコ社はチリ国内に721,799㌶、海外に209,921㌶の人工林を所有している。また、所有する人工林の内75万㌶ (81%)がラジアータ・パイン、13万㌶がユーカリ、その他5万㌶となっている(18) アルゼンチンにパルプ工場、製材はアルゼンチンに2工場、ブラジルに1工場、パネル工場は8工場稼動している。CMPC社は第Ⅶ州~第XI州に468千㌶のラジアータ・パインとユーカリの人工林を、またアルゼンチンに67千㌶のPinus taeda及びPinus elliottiiの人工林を所有している( 19)。
なお、1989年に大王製紙・名古屋パルプ・伊藤忠商事グループがフォレスタル・アンチレ社を第Ⅹ州に、1990年に三菱製紙・三菱商事グループが第Ⅷと第Ⅸ州にフォレスタル・テイエラ・チレナ社を、1991年に日本製紙・住友商事グループが第Ⅷ州にボルテラ社を設立し、主にユーカリ植林を行っている (20)。