アルゼンチンは世界で8番目に広い国土(日本の約7.4倍)を有し、中央部には農牧業に適する広大なパンパがある。20世紀の初頭には国土の1/3に近い約1億㌶の多様で価値の高い森林で覆われていたが、その後無差別的に天然林を伐採してしまった。特にケブラッチョ(Schinopisis lorentzii)等の硬木は鉄道枕木や土木建築用材として利用された。2005年の森林面積は約3,300万㌶で、南米ではブラジル、ペルー、コロンビア、ボリビア、ベネズエラに次ぐ6番目の大きさであるが、国土面積に占める森林面積の比率では、南米の平均の47.7%に対して僅か12%に過ぎず、ウルグアイ(8.6%)に次いで低い値を示している(1)
アルゼンチンは南北3,800kmと長く、亜熱帯から寒冷気候まで変化に富み、6種のタイプの森林が存在している(2002年)(2),(8)。
森林帯 | 面積 (千ha) | |
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パルケ・チャケーニョ | 23,368 (70.4%) | パラグアイ、ボリビアに広がるグラン・チャコ・ アメリカーノ (アメリカ大草原)のアルゼンチン国の部分 |
トゥクマン-ボリビアナ森林 | 3,727 (11.2) | 丘陵性熱帯気候、丘陵性乾燥気候 |
エスピナール | 2,657 (8.0) | 南緯28~40度のブエノスアイレス州の外側に分布 |
アンデス・パタゴニア森林 | 1,985 (6.0) | |
ミシオネーラ森林 | 1,453 (4.4) | |
モンテ | (42,969)** | リオ・ネグロ州、パンパ州、メンドーサ州、サンファン州、 リオハ州に広がる乾燥・半乾燥地の主として潅木林 |
合 計 | 33,190 (100.0) |
天然林は面積的にはチャコ森林(パルケ・チャケーニョ)が多く、この地域で産出される広葉樹は、タンニン抽出用材として使われるケブラコ(Quebrachia spp.)にかわってアルガロボ(Prosopis spp.)が製材用丸太あるいは薪炭用材として利用されている。天然林からの木材生産量は6万m3程度である。その他、cedar(Cedrela spp.)、araucaria (Araucaria araucana)、guatanbu (Balfoudendron riedelianum)、algarrobo (Prosopis spp.)等の良質木材。リオパラナ・デルタからはニレやヤナギのような軟材をパルプや梱包用材に、ミシオネス州の家具用材(cadar)、サルタ-トゥクマン地域はcedarとoak、パタゴニア地方はaraucaria、マツ、cypress、larch、やoakを産出するが、量は少ない。
州 | 1988年 | 1998年 | 2002年 | 比率(%) |
ミシオネス | 257 | 254 | 372 | 36.4 |
コリエンテス | 123 | 217 | 283 | 27.7 |
ブエノスアイレス | 96 | 92 | 92 | 9 |
エイントレ・リオス | 79 | 117 | 114 | 11.1 |
コルドバ | 37 | 47 | 30 | 2.9 |
その他 | 127 | 53 | 132 | 12.9 |
合 計 | 719 | 780 | 1,023 | 100 |
一方、産業造林は、約60年前にパラナ河とウルグアイ河の三角州にポプラとヤナギを植林、1858年にユーカリ類の植林がは じまり、自家用材や燃料に利用、あるいは放牧地の日陰樹や防風林として植林された。1960~1970年代に本格的に植林が開始され、当初は紙パルプ用材の供給を目的としたが、1990年代になって品種改良、植栽密度等の施業方法の改善、枝打ちの実施等により植林面積は急速に拡大した。また材質が向上し、家具用材として市場にでるようになった。1992年に林業振興策が実施されるとともに、チリ系などの外資系企業が進出している。
樹種 | 年平均成長量 (m3 /ha/年) |
平均輪伐期(年) | |
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ミシオネス州 | Pinus taeda | 35 | 18~25 |
Pinus elliottii | 30 | 18~25 | |
Araucaria augustifolia | 18 | 40 | |
Eucalyptus grandis | 42 | 7~12 | |
Eucalyptus dunnii | 42 | 7~12 | |
コリエンテス州 | Pinus taeda | 35 | 18~25 |
Eucalyptus grandis | 38 | 7~12 | |
エントレ・リオス州 | Pinus taeda | 35 | 18~25 |
Eucalyptus grandis | 38 | 7~12 | |
パラナ州デルタ地域 | Populus deltoids | 22 | 12 |
北 西 部 | Pinus patula | 30 | 20~25 |
Pinus taeda | 21 | 20~25 | |
クジョ地域 | Populus spp. | 20 | 10~12 |
サンタ・フェ州 | Eucalyptus saligna | 30~35 | 10~12 |
ブエノスアイレス州 | Populus deltoides | 22 | 12 |
E. globulus, E. dunnii | 30 | 10~15 | |
E. tereticornis | 25 | 12 | |
パタゴニア地域 | Pinus ponderosa | 18~25 | 35 |
Populus nigra | 29 | 12 | |
Populus euroamericana | 29 | 12 | |
Pseudotsuga menziesii | 30 | 35 | |
Salix spp. | 15~20 | 10~15 |
アルゼンチンには、植林適地が約1,800万㌶あるとされ、ブエノスアイレス州には約600万㌶、メソポタミア地域は、エントレ・リオス州、コリエンテス州及びミシオネス州をいうが、植林適地は500万㌶、アンデス・パタゴニア地域(ネウケン州、リオ・ネグロ州及びチュプト州)には400万㌶ある5)。しかし、現在植林総面積は約123万㌶に過ぎない1)。
農牧水産食糧庁によると6)、植林面積は92年の2万㌶から、97年に5万㌶、99年には12万㌶を超え、2000年の植林面積は13万㌶で、ブラジルの14万㌶に近く、チリの9万㌶を上回っている。2005年の累積植林面積は
122万9千㌶で、ブラジルの538万4千㌶、チリの266万1千㌶に次いで南米では3位である1)。地価がブラジルよりも安いこと(550US$/ha)(チリやオーストラリアの半分)、樹木の成長速度が大きいこと、92年の林業振興策、外資系企業が進出による植林、木材、紙・パルプ産業への投資等により、政府は今後10年間で現在の2倍の200万㌶の植林面積となるとみている。
樹木の年平均成長量は、針葉樹では年間約35 m3/ haで、米国や豪州などの主要林業国の2倍近い値である。木材生産国であるチリやニュージーランドでも25 m3/ha程度である。ユーカリは42 m3/haで、ブラジルよりは低いが、アルゼンチンのユーカリはブラジルやチリより優良な品質とされている。伐採可能年数は、針葉樹では種類にもよるが20~25年、ユーカリでは8~12年である。
92~96年 | 97年 | 98年 | 99年 | 00年 | 01年 | |
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木材、同製品 | 280 | 253 | 135 | 163 | 130 | 338 |
パルプ、製紙 | 929 | 529 | 443 | 410 | 322 | 73 |
植 林 | 135 | 61 | 92 | 119 | 127 | 314 |
合 計 | 1,344 | 843 | 670 | 692 | 579 | 725 |
林業・林産業への外資系企業の投資活動が活発で、1992年~1999年で35億4,900万US$、この内65%がパルプ・製紙分野である。2000年は前年比17%減の5億7,900万US$であったが、植林への投資が拡がっている。2001年は25%増の7億2,500 万US$で、特に植林は2.5倍、木材・同製品分野が2.6倍と急増している。植林分野では、スイス企業(ユニオンバンク)、米国(MENASHA)、米・カナダ系のSUDAPなどの林業投資信託基金の投資が目立っている。1990年~2000年の外国企業投資(約30億US$)の内、チリ系企7が46%を占め、次いで米国系31%、カナダ系15%であり、外資系企業による植林面積は80万㌶に達している。
1998年 | 1999年 | 2000年 | |
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生 産 | 1,159 | 1,130 | 1,213 |
消 費 | 2,042 | 1,952 | 2,019 |
輸 出 | 45 | 28 | 48 |
輸 入 | 928 | 649 | 854 |
パルプ・製紙産業では、2000年の時点では62工場、生産能力は210万㌧、南米3位である。2000年のパルプ生産量は78万㌧、製紙は121万㌧である。現在ではパルプは輸出産業であり、原料生産の優位性、再利用繊維の入手の容易性(年間70万㌧)、サトウキビカス(同18万㌧)などの代替原料の存在、豊富な電力・水資源など、優位な条件が整っており、2000年は25万㌧を記録している。製紙産業は、林業の開発以前から存在し、原料パルプはほとんど輸入していて、工場は輸入港、大消費地のブエノスアイレスやロザリオに多く存在している。90年代の経済成長で紙の消費量が年率6.8%増加し、2000年は1人当たり54kgになり、メキシコやチリとほぼ同水準で、今後はさらに増加するとみられる。しかし、2000年の生産量は121万㌧に達したが、この10年間の平均増加率は3%に過ぎず、輸入品が国内消費の5割を占め、特殊用紙は9割、印刷用紙は6割、新聞用紙は4割輸入に頼っている。なお、輸出はほとんどないといってよい。主要パルプ・製紙工場の多くは外資系であり、2001年~2005年にかけて20億ドル以上の投資計画が発表されている。
製材・ボード産業もチリやNZの投資により製材・ボード産業の生産能力は拡大している。また植林事業との関係で、工場はミシオネス州、コリエンテス州、エントレリオス州に集中している。90年代後半は、内需の低迷とブラジルの為替切下げの影響を受け、2000年の生産量は97年に比べて1%増の245万m3である。製材産業は2,000社存在するが、ほとんどが中小企業である。合板産業は11社、FBは3社、PBは6社である( 10)。
ボード類市場は、建築家具産業向けの内需及びブラジル向けに発展してきたが、99年のブラジルの為替切下げ後、輸出は減少している。輸入も減少傾向にあるが、2000年は8,900万ドルで、国内消費の18%を占めている。