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- ID:
- 33273
- 年:
- 2015
- 月日:
- 0612
- 見出し:
- 木彫仏の「鉈彫」…成立に新説
- 新聞名:
- 読売新聞
- 元UR(アドレス):
- http://www.yomiuri.co.jp/culture/news/20150604-OYT8T50144.html?cx_thumbnail=06&from=ytop_os_tmb
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- 【写真】
- 記事
-
平安時代の木彫仏には、表面を滑らかに仕上げず、ノミ跡をくっきり残した特異な像がある。
「鉈彫なたぼり」と呼ばれ、仏像研究の一テーマとなってきたが、文化庁主任文化財調査官の奥健夫さんが相次いでその成立に関する新説を専門誌で発表した。
それぞれ鉈彫像の種類と製作過程から捉え直しを図っている。
まずは、鉈彫とはどんなものか。
神奈川県立金沢文庫(横浜市)の特別展で14日まで、代表例である日向薬師ひなたやくし(神奈川県伊勢原市)の薬師三尊像が展示されている。
通常は年5日間しか公開されない秘仏だ
薬師如来像は、顔や体は平滑で、衣に覆われた部分にノミ跡が残る。
両脇の日光・月光菩薩像は、顔から足の爪先まで切れ間なく、ノミ跡に覆われている。
仏教伝来以来、金銅仏、粘土による塑像など多様な素材で造立された仏像だが、平安時代、木彫像が主流となった。
背景の一つには、樹木に聖性を見いだす古来の感覚があったとする見方もある。
木彫像では、彩色や金箔きんぱくで飾らず、木の素地を生かすことも行われた。
鉈彫もその一つと言えるが、あえて荒々しいノミ跡を残す理由は謎めいている。
仏教では“不完全な仏”を造ることは禁じられており、かつては未完成品と片づける見方もあった。
近年は、木から仏が現れ出る様子を表す手法とい
う説が有力視されてきた。
奥さんが注目したのが、鉈彫の技法が用いられた対象だ。
鉈彫はまず9世紀、四天王像に踏まれる疫病神「邪鬼」の表現として登場する。
四天王像自体は鉈彫ではない。
厄災をもたらす邪鬼の本性を表現したのが鉈彫と考えられるという。
その後、荒ぶる神の側面を持つ天神像や、天神と密接な関係のある十一面観音像にも広がっていく。
奥さんは「当時、絵画で鬼神を描く際、荒々しい線で輪郭や体毛を表現しており、それを彫刻で試したのが始まりかもしれない。
ノミ跡自体が鬼神の表現となり、神像や観音像に転用されたのではないか」と
語る。
ただ、奥さんはまた別の説も提示している。
こちらで注目したのは、1日で仏像を仕上げる「一日造立」の造像作法。
その一部始終を人々が見る行事もあったとみられ、一刀刻むごとに響く音にも功徳があると考えられていた。
鉈彫像のノミ跡には、それを視覚的に追体験させる機能があったのではないかという
のだ。
奥さんは「鉈彫像の成立には、複数の起源が想定されていい」と考えている。
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