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- ID:
- 27049
- 年:
- 2013
- 月日:
- 0306
- 見出し:
- 木くずから水素 新技術、燃料電池車に活用
- 新聞名:
- 日本経済新聞
- 元UR(アドレス):
- http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0300S_U3A300C1000000/
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- 【写真】
- 記事
-
木くずや下水汚泥などから水素をつくり出す新技術が注目されている。
ドイツからの技術導入をもとに実用化技術を磨いてきたベンチャー企業、ジャパンブルーエナジー(東京・千代田)を中核に、岩手県宮古市で水素を利用する地域復興プロジェクトが始まった。
同社の堂脇直城社長に新技術の潜在力など
を聞いた。
堂脇直城ジャパンブルーエナジー社長
――宮古市のプロジェクトはトヨタ自動車などの大手企業と組んでの挑戦ですね
「宮古市のほか12社の企業とともに、宮古市ブルーチャレンジプロジェクト協議会(会長・西村真名古屋大学教授)を昨年11月に設立した。
これから特別目的会社(SPC)を設立して発電施設『ブルータワー』を建てて間伐材の木質チップ(日量70トン)を原料に水素が主成分の改質ガスを製造、ガスエンジン
発電(出力3000キロワット)に取り組むと同時に、熱利用(重油換算で1日3500リットル相当)と純度の高い水素の利用(毎時40立方メートル)も試みる」
「電気は固定価格買い取り制に基づき電力会社に売却、熱はハウス栽培などに利用、水素は燃料電池車の燃料に用いる。
燃料電池車約200台を動かせる」
「東日本大震災の被災地では被災時から電気の供給が止まって大変な目にあったとの思いが強い。
宮古市も1週間くらいは電気の供給を絶たれてもエネルギー自立ができる町にしたいと要望が強い。
それには電気自動車ではなく燃料電池だとトヨタは考えているようだ。
燃料電池車はわずか3分間の水素
充填で600キロ以上走れるという。
有事の家庭用発電機に使えば1週間は供給可能、避難所なら燃料電池搭載のバスをつなげばよい」
「水素は石油に代わる燃料ともいわれるが、木くずなど有機廃棄物から製造できる技術を持つのは世界でも当社だけだ。
森林を保全しながら化石燃料を使わず水素供給ができる」
――どのような技術なのですか
「カギとなるのはアルミナセラミックスの小さな球体(直径約1センチ)だ。
これを加熱して木質チップなどバイオマス原料の中に落とし接触させる。
バイオマスは熱分解しメタンなどのガスが発生する。
このガスを高温のアルミナボール、水蒸気に接触させて改質、水素をつくり出す」
「アルミナのボールがプラント内で熱を運ぶ媒体(ヒートキャリアー)として働き、同時に木材などから出るやっかいなタール分を吸い取り、装置の中に残留しないようにする。
アルミナボールは反応過程で生ずる副生ガスの燃焼で加熱するためシステム全体の熱効率が高い。
熱分解器など心臓部は常圧でよ
く、原理的には非常に簡単な仕組みだといえる」
――ドイツからの技術導入が根っこにありますね
「もともとはドイツの鉱山会社、DMTの2人の技術者が社内ベンチャーで開発した。
小さな実験プラントをつくっただけで資金集めが思うようにいってなかった。
私はある企業の紹介で技術のことを知り、実地にみて日本で使えると思い、2002年に日本での独占的な実施権を買った」
木くずや汚泥などから水素ガスをつくる技術の仕組み(ジャパンブルーエナジーの資料をもとに作成)
「ただ買ってきたはいいが、商用プラントにつなげるデータがない。
そこで新エネルギー・産業技術総合研究所(NEDO)から資金を得て徳島県阿南市に実証プラントを建てた。
また当社の株主でもある土木工事会社のライト工業が環境省の補助金をもとに島根県出雲市にも実証プラントを建設、実用化に必
要なデータやノウハウを蓄積することができた」
「阿南市のプラントは実証試験を終えて解体したが、出雲市のプラントはライト工業が国から払い下げを受けたうえで当社に売ってもらった。
自分のプラントにできたので補助事業の枠を超えた様々な実験ができ用途も広がっている。
また最近は北米やアジア、欧州から見学者が絶えず、国内だけでなく海外
からも注目されているようだ」
「ちなみにドイツのベンチャー企業は太陽光発電事業会社に吸収合併されたが、1年ほど前にその発電会社自体の倒産が伝えられた」
――補助事業から商用化への課題は
「コストを抑える改良が大事だ。
当社はプラントメーカーではない。
発電事業を考えているので、補助事業でプラントさえ売れればいいとは思っていない。
固定価格買い取り制度を利用しながらも長期的に利益のあがるビジネスモデルを考えていかなくてはならない。
実証プラントでは3段のタワー型の構造だっ
たが、これを2段にして構造を簡素化、より熱効率の高いものにする改良をする」
「出雲のプラントを使って大和リースや豊田通商、三井化学とともに、下水汚泥を使って水素を製造する技術の実証に取り組んでいる、また宮古や出雲のほかにも自治体や地元企業と手を組んで商用プラントの建設を国内5、6カ所で計画中だ」
■取材を終えて
堂脇社長は大手電機企業に勤務した後、父が興したコンサルティング会社に転職した。
そこで地域再生や環境関連の調査やコンサルタントに携わるなかで、新技術の存在を知った。
ものづくりが好きで「コンサルティングなど虚業では」と腹の底では思っていたそうで、たちまち新技術の潜在性に魅了されたと
いう
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