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今村祐嗣教授 研究のあゆみ

2010年3月の最終講義 [木質ボードの腐朽と虫害]

[木質ボードの腐朽と虫害]
合板やLVL といった単板を積層した材料の生物劣化では、素材に近い状況がみられるが、接着層が腐朽菌糸の侵入やシロアリの食害のバリヤーとなり、単板が剥がれるように劣化することが多い。 小さなエレメントを接着剤で再構成したパーティクルボード、MDF といった木質ボードは、一般的には素材に比較して腐れや虫害に対して抵抗性が高い。 しかし、 この傾向はボード製造の諸因子によって大きく左右され、 また抵抗性が高いというものの、通常は腐朽菌やシロアリによる劣化をまぬがれることはできない。また、いったん腐ると強度低下が著しく、これは面材として厚さが薄いという材料としての寸法効果と、腐朽菌がエレメント間に侵入して接着性を低下させるというボード独特の劣化挙動に起因している。
ボードの耐朽性に影響を及ぼす各因子の効果をまとめると、原料樹種の耐朽性が低いほど腐りやすい。この点からは、本来的に耐朽性の高い樹種を原料として用いると、製板後のボードもこの性能を反映して腐りにくいものとなる。しかし、現実的には耐朽性の高い樹種のみを選別収集することは困難であり、むしろ廃材、未利用樹種や早生樹などを原料として考えるべき状況下では、原料樹種そのものに性能向上の期待をかけることはできない。また、エレメントの形状が大きいほど腐りやすく、特にシロアリ抵抗性の点からいえば、大きな寸法のエレメントでは加害が促進される。
ところで、パーティクルボードなど木質ボード類では、接着剤のタイプや製板条件がボードの耐朽・耐蟻性に与える影響が大きい。接着剤の添加率(含脂率)を上げることは、一般的にボードの生物劣化抵抗性を向上させる。これはボードの厚さ膨張を抑制し、菌糸のボード内部への侵入を防ぎ、機械的性質の劣化を抑える役割をも担っている。また、その効果は接着剤の種類によっても異なる傾向がみられる。ボードの密度については、一般的に耐朽・耐蟻性の向上が認められる。3 層構造のパーティクルボードではシロアリよって表層の高密度部分は加害されず、低比重、低含脂率でチップが粗い内層部が食害を受ける。ボードの密度が耐朽・耐蟻性にそれほど大きな影響を及ぼさない場合があるのは、腐れやシロアリの加害に関連してボードの水分状態が向上し、結果的に厚さ膨張を引き起こすためで、一方で高密度ボードほどその傾向が大きいことによる。


腐朽したパーティクルボードではエレメント間へ腐朽菌糸の侵入し強度低下を引き起こすことがある。

ボード類のシロアリ食害の様子 合板

パーティクルボード

密度の低い中層部の食害

●化学修飾による木材の耐久性向上の研究に高橋旨象教授、農学部の湊 和也助教授(現 京都府立大学教授)、京都府立大学の梶田 煕教授(現 同名誉教授)、米国ウィスコンシン大学のRoger Rowell 教授(ForestProducts Laboratory, USDA 兼務)と取り組み、アセチル化、ホルマール化、樹脂処理木材の生物劣化抵抗性の向上機構を明らかにした。この研究で特筆できることは、腐朽菌の木材分解機構と化学修飾の様式とが密接に関連していること、シロアリにおける摂食阻害が生じていること、樹脂処理では細胞壁へ侵入できるか否かが重要であること、等を見いだしたことである。また、これらの材料を、素材以外の木質系材料に展開する技術開発を行った。

[木材の化学修飾]
木材の細胞壁の非晶部分には活性な水酸基が数多く存在しており、外からの水分がここに吸着して木材の寸法変化を引き起こす。もしこの水酸基をほかの安定な官能基で置き換えると、水分子がくっつく余地が無くなって吸水や吸湿による寸法変化が抑えられ、また、腐朽菌の分泌する酵素の攻撃に対しても、その作用を受けない分子構造になる。写真 木材を無水酢酸と高温で反応させるアセチル化処理では、どの腐朽菌に対してもほぼアセチル化率が20%を越えると、劣化による質量減少が認められなくなる。しかし、シロアリに対する抵抗性は加害するシロアリの種類によって異なり、ヤマトシロアリはほとんどこれを食害しないが、イエシロアリは無処理木材に比べると少ないものの、これを食害する。しかし、アセチル化木材だけを食餌とした場合は、イエシロアリといえども日を経るにしたがい死亡する。特に興味深いのは、スターベーション(食餌を与えない)の場合と同様な生存個体の減少傾向を示すことである。写真 イエシロアリの腸内には3 種類の原生動物が共生しており、セルロースの分解にはこれらの原生動物が関与しているといわれている。しかし、スターベーションの場合もアセチル化木材を食害した場合も、腸内に原生動物が全く認められない状態になった。シロアリは当初アセチル化木材を食餌として錯覚して食害するが、原生動物がこれを分解代謝できないため、原生動物の消失→食物補給の遮断→餓死へと至るのであろう。


木材の化学修飾

●耐久性向上あるいは複合化技術の確立のためには、木材への薬剤注入性の向上が重要であるとの認識に立ち、そのための技術開発を行った。これは、大学院時代での壁孔の組織構造の研究にもつながるものであり、「ピット再考」と題した総説においてもその大切さを訴えた。これ以降、注入性向上に関連したプロジェクトがスタートすることになる。

[ピットと水分移動]
樹木において根から吸い上げられた水分(樹液)は幹の辺材細胞を通って上昇し枝や葉に供給される。細胞から細胞への通路にあたるピットの壁孔膜はトールスという弁をぶらさげた特異な構造をしていて、それがニュートラルの位置にあれば水分が隣り合った細胞間を容易に移動し、水が無くなると弁でピットの口に蓋をしてその細胞だけを隔離する。網目状の壁孔膜の精妙なつくりにはいまだ樹木の不思議さを感じている。写真 木材の乾燥は細胞の中に入っている水分を如何に外に出すかという点で、また、逆に防腐剤の注入などはどのようにして内部に薬液を浸透させるというところで、通路となるピットが重要な役目を担っている。辺材部分は乾燥しやすく、薬液も注入が容易なのはこのピットの弁が開きやすいためであり、また樹種によって心材の乾燥性や薬液注入性が異なるのはピットの口への弁の固着度の違いに起因している。針葉樹の場合、このピットは一つの細胞あたり数十個、場合によってはそれ以上備わっていて、そのほとんどが細胞の先端部、すなわち上下方向に隣り合う接点に存在する。したがって、部材の側面より木口から薬液が浸透しやすいのは先端部のピットを経由する移動が主体であることによる。写真 精妙なつくりの壁孔膜のトールスがピットの口を塞ぎ、その塞ぎ方が堅固であったり、樹種に特有の成分でも沈着すると薬剤の注入はきわめて難儀になる。スプルースやカラマツの注入が難しいといわれるのはそこに原因がある。これらの難注入性の木材に内部まで薬剤を注入するため色々な取り組みが行われてきた。インサイジングはその代表的な手段であり、部材の側面に細胞の木口切断面を一定の深さ 写真 木材の化学修飾 - 12 - まで人為的につくり、それを数多く分散させて浸透性を確保しようというものである。また、木材の側面から圧縮の力をかけてピットのみを破壊する方法も実用化されている。 樹木の精妙なつくりにわれわれがどのように対処していくか、乾燥と注入という古くてかつ今日的な技術にはまだまだ多くの課題が残されている。


ピットの構造

スギの壁孔膜

黒心スギの細胞沈着物
[注入性向上技術]
木材を薬液中にそのまま浸けても、あるいは表面から塗布しても、薬剤の浸透は表面部分に限定される。処理液を木材内部に行き渡らせるためには、通常、缶の中での減圧・加圧注入法が用いられる。
しかし、木材では辺材への注入性は良好であるが、心材へは液体が入りにくいのが一般的である。現在、建築部材等に使用されている樹種で一般的な減圧・加圧注入処理によって、心材まで十分な薬剤浸透性が得られるのはラジアータパインとサザンイエローパインの仲間だけであるといっても過言ではない。また、木口からの浸透に比べて側面からの薬剤の浸透性は極端に低い。このため、防腐木材においては、薬剤そのものの効力ではなく、浸透性や注入性が悪いことによって、期待される耐久性が発揮されない場面がしばしばみられる。あるいは、本来は浸透性が良好な辺材部位であっても、乾燥が不十分な状態で注入処理工程に廻したことによって、材中の水分が阻害要因となって薬剤の浸透が損なわれる場合も起こり得る事象である。 このため、注入性を向上させる前処理技術の開発が求められている。
ピットの攻撃戦略
●住宅の耐久性向上に環境負荷の低い方法を導入する社会的気風が高まってきたこと、ならびに非破壊検査技術の分野における技術進歩をうけて、木材の劣化診断法の開発研究に着手した。シロアリの木材食害によって発生するAE(アコースティック・エミッション)をモニタリングすることによって、シロアリの活動を検出する研究は、当初農学部の野口昌巳教授(現 京都大学名誉教授)とともに開始したが、同研究室の藤井義久助手(現 准教授)が参画されて飛躍的に発展し、ポータブル検出器の実用化にまで成功するに至った。

[劣化診断]

ポータブル型AE 検出器
住宅の耐久性向上の手法としては、低毒性保存薬剤の使用や薬剤の使用量の削減、シロアリの生理・生態の特性を利用した物理的防除法の模索など、ますますレスケミカルの方向に向かっている。一方で、木材の低い環境負荷性や高いアメニティ感覚からエクステリアとして用いていこうとする動きも強い。 そこでは、腐朽や虫害などの劣化が発生しているのか、あるいはその進行がどの程度であるかを的確に知ることが、重要になってきている。信頼性が高い劣化診断法の確立は、効率的な保守管理にも役立つ。 劣化の診断法としては、目視、打音診断などが主なものであるが、経験を要したり、診断が主観的にならざるを得ない。客観的な診断を行うには適切な治具を利用する必要がある。しかし、化学的な識別法、あるいは木材内部への物理的なボーリング方法(ピロデインやレジストメーター)、音響伝播を利用する手法が試みられているが、現場で安定した判断を下すにはまだ課題を抱えている。
われわれは、アコースティック・エミッション(AE)を利用したシロアリ被害の非破壊的な検出方法に取り組んできた。AE は固体材料の微小な変形や破壊によって発生する超音波のことで、シロアリ職蟻が木材を齧ることによって発する超音波をモニタリングしようというわけである。このシロアリ聴診器は、圧電型センサ、ろ波、増幅、弁別、データ処理部から構成されているが、もしシロアリが木材を齧ればAE 波が検出され、食害活動が激しいほど発生するAE 事象数も増加してくる。実際の住宅や文化財建築物の蟻害診断を行う上で有力な診断武器になっているが、また、リモートセンシングで測定できることから、木材加害昆虫の食餌活動の変動や環境条件の影響解析など、行動生態を明らかにする上にも役立っている。
●この間におけるその他の共同研究としては、西本教授が中心となって行った産地別ヒノキの耐朽・耐蟻性に関する研究や、二重拡散法による木材細胞中でも無機質生成による難燃化木材の開発などが特記される。特に後者の研究は木材の機能性を高める新技術としてマスコミでも取り上げられ、社会の注目を浴びた。[低分子フェノール樹脂処
●また、特筆することとして、京都新聞の依頼により科学欄に「木材革命」のシリーズ記事を、“木の良さを探る”、“木の欠点を検出する”、“腐らない木材”、“燃えない木材”、“木を超えた木材”、と題して連載した(1989 年11 月18 日~ 12 月16 日)。
♢ 西本孝一教授、高橋旨象教授、角谷和男教授(当時)は、その後退官され、現在は京都大学名誉教授。

1991 - 2000 年

1991 年4 月の木質科学研究所への改組により木質材料機能部門木質複合材料分野(石原茂久教授)の助教授に移動する。1998 年4 月に石原教授の退官に伴い教授に昇任、2000 年まで同分野主任を務める。
●化学修飾による木材の耐久性向上の研究に関連して、次の2 氏に京都大学から博士(農学)の学位が授与されている。
[低分子フェノール樹脂処理]
フェノール樹脂の含浸処理では、注入する樹脂の分子量を小さくすると、木材細胞の壁中に安定な形で樹脂を沈着させることができ、硬さだけでなく寸法安定性や耐腐朽・耐シロアリ性も向上する。重合前の遊離フェノールの毒性は高いが、木材中で硬化させた場合は安全な3 次元構造体をつくる。したがって、木材の細胞壁の中にいかに効率よく含浸させるかがこの手法のポイントになる。樹脂の分子量が約500 のところが細胞の壁の中に浸透するか、 それとも細胞の内腔面でトラップされるかの境界で、 それより大きな分子量の樹脂はいくら注入しても、寸法の安定性はもちろん耐腐朽性などには何ら効果は得られない。

樹脂鋳型を残して腐

朽細胞壁内に樹脂が沈着して保護
* 柳 在潤(学位論文):
Improvement of Biological Resistance and Some Physical Properties of Wood by Resin-Based Treatments and Its Application to Particleboard Production, 1993(主査:高橋教授)
* Yusuf Sulaeman(学位論文):
Properties Enhancement of Wood by Cross-Linking Formation and Its Application to the Reconstituted Wood Products, 1996(主査:高橋教授)
また、兵庫県工業技術センターの藤村 庄氏とのアクリルコポリマー処理した木材の研究、島根大学教授の古野 毅教授(現 名誉教授)とのコロイダルシルカ等の無機質を木材に複合化させて高機能を付与する研究等に取り組んだ。
●木材への薬剤注入性向上技術の開発に関しては、京都府立大の飯田生穂講師(後 助教授、退官)と横圧縮前処理法によって、東京農工大学の服部順昭助教授(現 教授)とレーザインサイジングを用いて、小林好紀教授(秋田県立大学木材高度加工研究所、現退官)と水中バクテリアを援用して注入性を向上させる研究に取り組んだ。特に、飯田生穂氏と協力して行った横圧縮前処理法については、実用化技術として企業化され、現在では信頼性の高い加圧注入処理の前処理法として活躍している。
[横圧縮前処理法]
木材への薬剤注入製の向上を目的とした横圧縮前処理法は、物理的な力で木材中に浸透経路をつくろうとするもので、インサイジングが木材の表面層に人工的な木口切断面を多数つくることとすれば、この手法のねらいは木材内部に液体の通路となる微小クラックを人工的に創り出すことといえる。横圧縮を負荷すると木材細胞壁の壁孔(ピット)の周辺が特異的に破壊される。壁孔周辺ではセルロース・ミクロフィブリルがまわりと異なる配向をしていることから、この部分に限定されてクラックが生じることに起因するのであろう。この処理を施すことによって、木材の木口面以外の側面からの液体浸透性を飛躍的に促進することが可能となることから、実用的な長尺の製材品であっても内部への浸透性を確保することができる。

圧縮変形した細胞壁

破壊した壁孔膜

ローラによるプレスの状況

●木材の劣化診断法の開発研究は、共同研究グループに農学部の奥村正悟教授、藤井義久助教授、簗瀬佳之助手、同僚の吉村 剛助教授が加わってさらに大きく発展し、実際の建築現場における有用技術としても評価されるに至った。このAE モニタリングを利用した研究は、住宅におけるシロアリ検出という当初からの目標だけでなく、異なる環境下におけるシロアリの行動生態を明らかにする上で大きな役割を果たし、さらに、シロアリ以外の昆虫の食害活動を検出する研究にも応用されるようになった。
[リモートセンシングでシロアリの行動を探る]
AE を利用したシロアリ発見器 われわれは、アコースティック・エミッション(AE)を利用したシロアリ被害の非破壊的な検出方法に取り組んできた。AE は固体材料の微小な変形や破壊によって発生する超音波のことで、シロアリ職蟻が木材を齧ることによって発する超音波をモニタリングしようというわけである。このシロアリ聴診器は、圧電型センサ、ろ波、増幅、弁別、データ処理部から構成されているが、もしシロアリが木材を齧ればAE 波が検出され、食害活動が激しいほど発生するAE 事象数も増加してくる。実際の住宅や文化財建築物の蟻害診断を行う上で有力な診断武器になっている。
AE モニタリングでシロアリの行動生態を解き明かす
シロアリ発見器として開発したこの機器はリモートセンシングで測定できることから、木材加害昆虫の食餌活動の変動や環境条件の影響解析など、行動生態を明らかにする上にも役立っている。 ここに掲載した2 枚の図のうち、最初の図はシロアリが異なる樹種を摂食した際に発生するAE 事象数の変化を示している。もちろん事象数は摂食頻度に対応すると考えて良いので、これは好きな木、嫌いな木を与えられた際のシロアリの食餌行動を表している。好きなベイツガ材は最初からほぼ変化なく活発に摂食していることがうかがえるが、嫌いなベイヒバ材ではほとんど摂食活動が生じていないことがみてとれる。ラワン材も摂食はするもののあまり好ましい木材ではないらしく、当初は高い頻度でAE の発生がみられるものの、時間の経過ととともに発生頻度は低下してくる。
下の図はシロアリが暗い場所で摂食していた環境を瞬間的に明るくすることで、AE の発生がどう変化するかをモニタリングしたものである。シロアリの職蟻、兵蟻の目は退化した形態をしていて外表面からは痕跡器官として認められるが、実際は光に反応した行動をとる。この光に対する反応を確認してみようとしたのがこの実験である。周囲を明るくした時を矢印で示してある。その結果、確かにシロアリには明るい環境にすることによって一時的に摂食を停止し、停止時間は「明」の時間の長さに対応していた。
その他、温度環境による影響、摂食リズムの経時的な変化、等シロアリの行動生態のモニタリングを行っているが、まだまだ興味が尽きない研究内容である。

木によってAE の発生の仕方が異なる
好きな木、嫌いな木によってAE の発生の仕方が異なる
木によってAE の発生の仕方が異なる
暗い場所で摂食していた環境を瞬間的に明るくすることでAE の発生が停止する。
●木材の屋外用途(エクステリアウッド)への展開には、風化による表面劣化の防止技術が重要であるとの 認識にたって、木材の耐候性(ウェザリング)の研究を開始した。㈳日本木材保存協会の中にプロジェクトを立ち上げ、木口 実氏(森林総合研究所)を中心に、北海道立林産試験場、富山県木材試験場、鹿児島県工業技術センター、沖縄県林業試験場らの協力を仰いで、木材劣化の気候因子(Climate Index) の策定を実施した。このプロジェクトはその後、科学研究費補助金(企画調査)を得て、英文冊子“High Performance Utilization of Wood for Outdoor Uses”, ed. by Y. Imamura,, pp.204, 2001 を刊行するに至り、同年に奈良市で開催された国際木材保存会議(International Research Group on Wood Preservation)日本大会で参加者に配布された。

[木材の風化]
古い寺社仏閣の雨ざらしの場所にある木材は、彫刻刀で削ったように表面が粗くなっているのを目にすることがある。木材はその化学構造から非常によく太陽光を吸収する物質である。構成成分のうち、とくにリグニンやポリフェノール類からなる抽出成分は、紫外線を吸収しやすい構造をもつため、光分解作用を受けやすい。分解された成分の多くは水に溶けやすく、雨水により容易に木材表面から流れ出る。さらに溶出後に現れる内部の新鮮な部分も同様に光分解を受け、結果として木材表面は早材部を中


屋外で暴露した木材

細胞間層のリグニンの分解

心に劣化が進行する。これは風化と呼ばれる現象であり、針葉樹材の風化速度は100 年で5 ~ 6 mm ともいわれている。 風化した表面には、その後、薄い灰色からカビなどの付着による斑点状の黒色のシミが発生し、これが進行して最終的には樹種に関係なく暗灰色化する。これらのカビなど変色菌は、いわゆる腐朽菌のように木材の強度を低下させることはないが、光分解で低分子化した木材成分を好む。また、カビ類はたとえ塗装してあっても微小なピンホールなどから塗膜を通過し、その下に繁殖することもある。

[木材の屋外保護塗料]
屋外使用の木材では塗膜とそれによる耐久性維持が大変難しい。これは、木材が親水性材料であるこ と、軟らかく複雑な表面形状をもっていること、それに紫外線の劣化を受けやすいことなどによるが、 塗膜の下に繁殖するカビ類などの微生物が発生しやすいことも原因となっている。 木材の保護塗装は、塗膜を形成する造膜タイプと浸透性の含浸タイプに分類できる。塗装面の耐久性 という点では、造膜タイプが含浸タイプに比べてやや長いが、含浸タイプのものは木材の質感をある程 度残すことができ、メンテナンスが比較的容易であるという利点をもっている。一般的にいうと、紫外 線を防ぐことが耐久性向上のためには重要であり、光安定化剤を加えることによってももちろん向上す るが、顔料の多いものほど、色の濃いものほどすぐれている。ただ、ここで問題なのは日本人にとって 木目基調の白木塗装が好まれるということだ。暴露実験を行うと、歴然と透明系のものは紫外線で劣化 しやすい。
塗料そのものの性能以外に、塗膜の耐久性には基材である木材側の状態が大きな影響を及ぼすよう だ。熱や水分によって寸法変化が小さいのが望ましいことはいうまでもなく、いかに基材の寸法安定 性を上げるかを考慮すべきである。また、木材の表面性状が塗膜の耐久性に大きな影響を及ぼす。うっ かり見過ごしてしまう点は、表面を削ってからすぐ塗装せずに放置しておくと、前に述べたように紫外 線によって表面組織の劣化が生じる。塗装直後は意識されないが長期間置いておくと塗膜の耐久性に大 きな違いがでてくる。一方、表面の仕上げは平滑であればあるだけ良いとは限らない。特に含浸タイプ の塗料の場合、木材表面に付着される量が粗面の方が多く、結果的に耐久性も高くなる。まさに、塗装


各種塗料で塗装した合板の屋外暴露後

特に保護塗装こそ思いやりと気遣いで慎重にやるべきであろう。だが最も大切なのはメンテナンスであり、一度塗ったら放っておくのではなく、診断と保守を忘れてはいけない。早め早めの塗り替えが結果的に耐久性を向上させることになるのは、お肌のお手入れと同 様であろうか。

引き続き [木材劣化の気候指標] はコチラ

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