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今村祐嗣教授 研究のあゆみ

2010年3月の最終講義より

[木材劣化の気候指標]
木材の耐久性を減じる大きな要因は腐朽や虫害といった生物劣化であることから地域によって劣化の速度も変動する。すなわち温暖で雨量の多い地域ほど腐朽菌や加害昆虫の種類も多く、それらの加害速度も一般的大きい。日本は先進国のなかでは平均気温、温度とも高く、特に気温の高い夏場での雨量が多いことからヨーロッパ諸国に比べても腐朽の速度は速い。また、北方の国にはみられないシロアリも生息している。 耐候性についても、熱帯地方は別として同様に劣化速度の速い地域とみなされているが、この場合は温度や雨量以外に日射量の大小も影響を及ぼす。わが国でも最近では、これらの気候因子をもとに地域ごとの劣化指標を策定する試みも行われるようになってきている。 また、化学修飾を利用した木材の耐候性向上技術の研究を、当時インドネシアから留学してきたY. Sudiyani さん(現 インドネシア科学院LIPI 化学研究所)を中心に、高橋旨象教授、京都府立大学の湊 和也 教授らと開始した。


木材風化の気候指標(Climate Index)森林総合研究所 木口 実氏作成


●石原教授が長年にわたり取り組んできてこられていた木材の難燃・防火に関する研究をサポートし、留 学生の蘇 文瑜さん、畑 俊充助手と、ホウ素化合物による木材の燃焼抑制機構の解明とその応用等の研 究に取り組んだ。

* 蘇 文瑜(学位論文): Development of Fire Retardant Wood Composites Using Boron Compound and their Evaluation Methods, 1997(主査:石原教授)
●この時期、石原教授が中心となって展開してきた木質炭化物の研究が大きく前進し、畑 俊充助手らとチームを組んだ研究には、受託研究員の山根健司氏(当時 新明和株式会社、現 退社)、井出 勇氏(リグナイト株式会社)、浅野典男氏(長野県教諭)等、全国から多くの研究者が参画した。また、大学院学生として西宮耕栄氏(現 北海道立林産試験場)が木質炭化物の化学構造の研究を、フィリッピンからの留学生であるL. Pulido-Novicio さんが木質炭化物による水質浄化の研究に取り組んだ。 木質炭化物-木炭-については、それらがもつ環境調和性と新たな機能が社会の関心を呼び、「環境に調和した伝統的先端材料-木炭」、「木炭からの機能性カーボン材料の開発」等の総説を発表するほか、NHK 番組の“オモシロ学問人生-「木炭で地球をきれいに」”(1999 年7 月)や“生活ホットモーニン グ-「炭のパワー再発見」”(2000 年1 月)、テレビ東京の”テクノ探偵団「炭で環境をきれいに」”( 2000 年6 月)等に出演した。
* L. Pulido-Novicio(学位論文): Characterization of Carbonized Wood and Its Application to the Adsorption of Heavy Metals, 2000(今村主 査)
●その他、韓国の慶北大学から姜 愛慶氏さんが水浸出土木材の寸法安定性に関する研究で、トルコから M. K. Yalinkilic 氏が木材の複合化技術による耐久性向上について、ブラジルのサンパウロ大学からS. K. Ozaki さん(現 マトグロッソ連邦大学)が木材の機能性向上に関する研究で、それぞれ研究所に滞在し、 共同研究を実施した。
また、積水ハウス株式会社から大羽伸和氏(現 退社)が受託研究員として、外装材料の藻類汚染の 研究に取り組んだ。 * 大羽伸和(学位論文):外装材料の藻類汚染とその評価法に関する研究、1998(主査:石原教授)
●佐々木 光教授(後 秋田県立大学木材高度加工研究所長、現 退官)、川井秀一助教授(現 教授、生存 圏研究所長)、瀧野眞二郎助手(現 退職)らの木質構造材料分野の研究に協力し、留学生の張 敏氏(現 浙江林学院教授)、王 潜氏(現 株式会社ウッドワン)、D. A. Eusebio 氏(フィリッピン林産開発研究所)、 大建工業株式会社からの受託研究員の吉田弥寿郎氏、等の木質材料の開発プロジェクトに参画した。
♢ 佐々木 光教授、石原茂久教授、高橋旨象教授(当時)は、その後退官され、現在は京都大学名誉教授。
♢ なお、研究所の同僚については当時の状況のみを記したが、現在の職階等については研究所ホームページをご覧ください。
2000 年以降~ 2000 年4 月に木質劣化制御分野に移動する。当分野の構成は、他に角田邦夫助教授、吉村 剛助教授であった。その後、2004 年4 月に生存圏研究所への改組により、居住圏環境共生分野を担当し、角田邦夫准教授、吉村 剛准教授のほか、畑 俊充講師が加わる。
●木材の劣化診断法の開発研究では、その後農学部の藤井義久准教授、簗瀬佳之助教の精力的な活動で各種の非破壊検査法が木材の腐朽やシロアリ被害の検出に試みられた。さらに、昆虫の放出する匂い物質をマーカーにして検出を行う技術開発へと進展している。
[シロアリを匂いで検出]
フランスやイタリアの人にはトリュフが究極の香りをもつキノコとして珍重されている。見つけるのが困難な地下生菌類であるトリュフを探すのには牝のブタが活躍するが、キノコの香りが牝ブタを性的に誘引するらしい。ブタだけでなく犬やハエも有力な発見者であるようだ。これはよく似た事例で犬が地中に巣をつくり生活するシロアリを見つけるという。この犬はビーグル犬であるが土の中に生息するシロアリの発見に役立っている。 われわれは、ピーグル犬にならい、匂いによるシロアリ探査を試みている。確かにシロアリを飼育している部屋に入ると、いわゆる“シロアリ臭”がするので、何とかこれを利用してシロアリ集団を発見できないかと思いついたわけである。 そこで、シロアリに由来する代謝ガスに注目し、実際に実験を行った結果、シロアリが活動することによって水素、二酸化炭素、メタンの濃度が上昇することを明らかになった。住宅の床下などの構造上主要で、かつ腐れやシロアリ被害などが発生しやすい箇所に『マルチにおい検出センサ』を取り付け、そこから発信する劣化情報を集中管理して、きわめて早期に、かつ信頼度の高い劣化診断を判定するシステムを構築することを描いている。

匂いで探す
Y. Fujii


●木材の耐候性(ウェザリング)の研究では、秋田県立大学の山内 繁教授、土居修一教授(現 筑波大学教授)らとの紫外線劣化と木材の化学変化、微生物の発生との関係を明らかにする研究へ発展した。 * Yanni Sudiyani(学位論文): Characterization of Untreated and Chemically Modifi ed Wood after Outdoor Exposure, 2003(今村主査)
●畑 俊充講師が中心となり、木質炭化物のナノ構造の解明と機能性開発の研究が展開されている。

[木炭のナノ構造]
木材を3000℃まで焼成加熱しても、基本的な細胞形状や配列様式はほとんど変わらない。しかし、木炭の構造の特徴は細胞壁にあり、諸機能の発現もそれと密接に関連している。焼成に伴い、木材の強度を受け持っていたセルロース・ミクロフィブリルの結晶構造は崩壊し、木炭の破断面はきわめて平滑なガラス状の様相を示してくる。X 線回析のチャートをみると、300℃付近でセルロース結晶によるピークが消失し、1400℃まででは明瞭なピークを確認することはできない。しかしながら、徐々に新たなピークが形成されていくようなスペクトルを示し、炭化温度1800℃では黒鉛の結晶構造によると考えられる鋭いピークが認められる。セルロースやリグニンの分解と並行して、熱力学的に安定な方向に炭素原子の再配列が生じ、黒鉛状の結晶構造に変化していく過程が推察される。
炭素材料は、ベンゼン環が縮合したシート状構造である炭素六角網面(以下、網面)を最小構成ユニットとする構造体である。炭素化・黒鉛化が進行して、網面が三次元規則構造を形成した炭素材料が黒鉛である。その一方で、網面が不規則に配向した結果、網面間に無数の細孔をもつ多孔質な炭素材料が活性炭や木炭である。木炭のように網面が未発達で、なおかつそれらがランダムに配向した微細構造は、いたるところで網面のエッジ部が露出しており、多くの含酸素官能基が存在する。一方、炭素化が進行するにつれて、含酸素官能基などの化合物が遊離して炭素六角網面は非常にリジッドな架橋構造で結合されるようになる。木炭の網面の大きさや積層枚数、および付随する含酸素官能基の状態や量は炭化温度によって異なることが考えられる。
そこで、700℃・1 時間で熱分解を行ったスギ木炭を電子顕微鏡によって直接観察したところ、様々な形状のナノカーボン構造が観察された。その一つは、木炭の微粉末試料中に観察された、オニオン状炭素粒体である。さらに、高分解能透過電子顕微鏡によって木炭中にダイヤモンド構造が見いだされ、その電子回折パターンから[110]におけるダイヤモンド構造であることが確認されている。また、木炭中に黒点のように見えるものが観察され、平均径が約10 nm であることから試料表面に存在する微細空隙メソ孔に相当すると考察されている。

炭化したスギ。木炭の機能は細胞壁のナノ構造と関連


* 石丸謙吾(学位論文):Formation Mechanism of Microstructure in Carbonized Wood, 2007(今村主査)
* 藤澤匡志(学位論文): Development of Novel Silicon Carbide Thermoelectric Materials from Carbonized Wood, 2007(今村主査)
* Joko Sulistyo:Electrical and Thermal Properties of Carbonized Wood Based Composites, 2009
●シロアリの行動生態に関する研究は吉村准教授を中心に精力的に展開されている。 * 中山友栄(学位論文): Water Dependence of Japanese Subterranean Termites, Coptotermes formosanus Shiraki and Reticulitermes speratus(Kolbe), 2004(今村主査) * Yuliati Indrayani(学位論文): The Invasive Dry-Wood Termite, Incisitermes minor(Hagen), in Japan: Infestation, Feeding Ecology and Control Strategies, 2003(今村主査)
●CCA 処理木材からの重金属の化学的分離の研究では畑講師らと、またバイオリメディーションによる 浄化ではNami Kartal 教授(イスタンブール大学)と取り組んだ。 * 柿谷 朋(学位論文): Designing and Development of Novel Chelating Method for Extraction of Heavy Metals from Chromated Copper Arsenate (CCA)-treated Wood, 2008(今村主査)
今村祐嗣が主査となって取得された学位論文で上記に記載されていないもの。

* Muslizal Muin: Alternative Approach to the Preservative Treatment of Wood-Based Composites Using Supercritical Carbon

 

Dioxide, 2003 * 荒井一成:木材の部分着色と染め分けに関する研究、2003 * 勝又典亮: Biodegradability of Gamma-irradiated Wood and Its Applicability to the Termite Management, 2007
* 黄 元重: Potential of Didecyldimethylammonium Tetrafl uoroborate(DBF)as a Novel Wood Preservative, 2007 * 岡久陽子: Biodegradation of Moso Bamboo with Special References to Some Chemical and Physical Properties, 2007
* 黒崎文雄: Development and Characterization of Shape-Controlled Porus-Carbon by Flash Heating of Wood Biomass, 2008 * 宮内輝久: Development of a new analytical method for quantifying benzalkonium chloride in treated wood and evaluation of its leaching characteristics under different ambient conditions, 2008
* Erwin: Anatomical study of the degradation of canker wood in tropical trees and identifi cation of the causal fungi, 2008
* 辻本吉寛:住宅用外内装材料の耐久性評価方法に関する研究、2009
* 岩本頼子:無水マレイン酸による木材の気相処理に関する研究、2009
* 久保田俊一:Comparative Characterization of Bistrifl uron as a Novel Slow-Acting Termiticide, 2009
* 高妻洋成:人工劣化木材の調製とそれを用いた出土木製品の保存処理の適正化、2010
* 梶本武志:L-乳酸存在下での木質成分の分離と分離物からの新規素材の開発、2010

今村先生が主査となって取得された学位論文の概要

L. Pulido-Novicio(課程博士): Characterization of Carbonized Wood and Its Application to the Adsorption of Heavy Metals, 2000 Yanni Sudiyani(論文博士): Characterization of Untreated and Chemically Modifi ed Wood after Outdoor Exposure, 2003 Muslizal Muin(課程博士): Alternative Approach to the Preservative Treatment of Wood-Based Composites Using Supercritical Carbon Dioxide, 2003
荒井一成(論文博士):木材の部分着色と染め分けに関する研究、2003
中山友栄(課程博士): Water Dependence of Japanese Subterranean Termites, Coptotermes formosanus Shiraki and Reticulitermes speratus(Kolbe), 2004
石丸謙吾(課程博士):Formation Mechanism of Microstructure in Carbonized Wood, 2007
藤澤匡志(課程博士): Development of Novel Silicon Carbide Thermoelectric Materials from Carbonized Wood, 2007 Yuliati Indrayani(課程博士): The Invasive Dry-Wood Termite, Incisitermes minor(Hagen), in Japan: Infestation, Feeding Ecology and Control Strategies, 2003
勝又典亮(課程博士): Biodegradability of Gamma-irradiated Wood and Its Applicability to the Termite Management, 2007
黄 元重(課程博士): Potential of Didecyldimethylammonium Tetrafl uoroborate(DBF)as a Novel Wood Preservative, 2007
岡久陽子(課程博士): Biodegradation of Moso Bamboo with Special References to Some Chemical and Physical Properties, 2007 黒崎文雄(課程博士): Development and Characterization of Shape-Controlled Porus-Carbon by Flash Heating of Wood Biomass, 2008
宮内輝久(論文博士): Development of a new analytical method for quantifying benzalkonium chloride in treated wood and evaluation of its leaching characteristics under different ambient conditions, 2008 Erwin(課程博士): Anatomical study of the degradation of canker wood in tropical trees and identifi cation of the causal fungi, 2008
柿谷 朋(論文博士): Designing and Development of Novel Chelating Method for Extraction of Heavy Metals from Chromated Copper Arsenate(CCA)-treated Wood, 2008 辻本吉寛(論文博士):住宅用外内装材料の耐久性評価方法に関する研究、2009
岩本頼子(論文博士):無水マレイン酸による木材の気相処理に関する研究、2009 Joko Sulistyo(課程博士):Electrical and Thermal Properties of Carbonized Wood Based Composites, 2009
久保田俊一(論文博士):Comparative Characterization of Bistrifl uron as a Novel Slow-Acting Termiticide, 2009 高妻洋成(論文博士):人工劣化木材の調製とそれを用いた出土木製品の保存処理の適正化、2010 梶本武志(課程博士):L-乳酸存在下での木質成分の分離と分離物からの新規素材の開発、2010

 

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