イヌグス、タマグス、タマノキ。 シイ、カシ類とともに暖帯林を代表する樹種の一つで、クスノキと同様南方系の木だが、タブノキの方が耐寒性に富み、北は青森まで分布している。
タブノキ属
は世界で約150種あり、変わったところでは熱帯果樹アボカドも同じ仲間。地下に海水の浸入する潮入地にも適するので海岸に多く、潮風にも強く防風防
砂にも強い。陰樹で、かなり強い庇蔭(ひいん)下でもよく生育する。枝先につく冬芽が大きいのが特徴で、暖かくなるとほのかな赤い色になる。
名前の由来は朝鮮では丸木船(まるきぶね)のことをトァンバイといい、タブはここからの転化という説が有力。
別名のクスが付くものは、材が楠に似ているため。
クスノキもタブノキも古代には丸木船に利用されていたが、朝鮮本土にはクスノキは生育していないので、古代の朝鮮からの船はこのタブノキを利用してい
たと言われている。
タブノキの樹皮は昔からたぶ皮と呼ばれ、乾燥し粉末にしたものを線香や練香の主材料として使われた。。安価な線香はスギの葉の粉末を糊で固めてつく
られるが、タブノキは高級用として、ジンコウやビャクダン、チョウジといった各種の香木を練り固めてつくられる。16世紀末頃、明から線香の製法が伝わり、
堺市が最初の生産地となった。現在でも十数社の沈香工場が生産している。
タブノキは別名イヌグスとも呼ばれ、クスより材質が落ちるという解説も多いが、古来から有用な樹木であった。『日本書紀』には素戔嗚尊(すさのおのみこと)が丸木船に杉とクスを指定している。クス説は、現在はタブノキが定説になっている。
木材としてみた場合、タブノキは材の赤みが強いものを、ベニタブ(アカタプ)、淡色のものをシロタブというように区別され、前者のほうが高く評価されている。
戦前には大隈半島には豊富なタブノキの森があったが、戦争中に造船材として大規模に伐採され、残っているのは、搬出に不便な場所だけだという。全国
的に良材は少なくなっている。切削などの加工は難しくはないが、乾燥したあと狂いが出るものもある。マホガニーに似た趣き、クスノキにも似ているが、香
は少ない。国産材としては、珍しく木理が交指し、乱れもがあり、そのため材面に化粧的価値のある杢が出てきることがある。
柳田国男と双璧をなす民俗学者の折口信夫だが、歌、詩など創作にかかわるものは、釋迢空(しゃく ちょうくう)の名になっていて、創作と民俗論文と使い分けていた。彼はタブノキに非常に興味を持っており、著書「古代研究」にもその熱の入れようが現
れている。
父が健在の時に「釈迢空先生を慕う会」の千葉、東京の方々が紀州御坊の家に祖母を訪ねて下さった。父は何をするのも一生懸命で世話をしていた。祖
母も病床であったが、親交のあった南方熊楠先生の話ができるとあって、しばしの間楽しい時間をもったようだった。父は一行がこの南紀旅行中にこの「タブ
の木」を見つけて大喜びの様子を見て、さすが釈迢空先生を慕う方々だと感心していた。
巨木として天然記念物もに指定されているものも多いが、大きさとしてはクスノキの方が勝る。