くちなし
山梔子・巵子・梔子・?・口無・枝子・鮮子・久知奈志(すべて読みくちなし)
別名はせんぷく、山梔子(さんさし)
静岡県以西の本州、四国、九州、沖縄、中国南部、台湾の暖帯から亜熱帯に広く分布する。
高さ2m程になる常緑の低木で、各地で庭木・切り花用として広く栽培される。また観賞用としても栽培される。
「日本書紀」をはじめ、「古今集」などの古典や「延喜式」、「本草和名」、「和漢三才図会」などの書物に採り上げられている。ボタン、カイドウなどとともに、名
花十友の1つとして採りあげられている。
梔の字は、中国の酒を入れておく器に似たくちなしの果実を巵といい、これに木偏をつけたもので、くちなしとは果実が熟しても口を開かないから「口無し」と
いう。将棋盤や碁盤の脚はくちなしの実をかたどっている。その意味は「対戦する人は無言。それを見ている人も口だしするべからず」ということ。
ヨーロッパでは青年が恋人に最初に贈る花とされ、盛んに栽培された。キャサリン・ヘップバーン主演の映画「旅情」(1955年
SUMMERTIME)
でもくちなしの花は、話の重要なポイントになっている。愛の告白の後、もらったくちなしの花(ガーデニアと呼んでいた。))を運河へ流してしまう。また、あまりにも有名なラストのシーンでは、列車を追いかける恋人が走りながら胸から差し出した、くちなしは強烈なイ
ンパクトだった。ガルデニアは学名であるが、よく使われているようだ。この名は最初にこの花を記録したアメリカの医者で植物学者のA.ガーデンの名にち
なんでいる。
もともと日本産のアメリカ園芸品種の大八重梔の花は大輪で甘い酔いしびれるような良い香りがするが、果実が出来ないので晩秋にはさみしいし、薬用に
もならない。
この木は乾燥を嫌うので、冬は根もとに落ち葉やワラなどを寄せてかくしてやる。夏に白六弁の芳香ある花を開く。小雨の降る宵闇など湿気が多くなると、
香りが濃艶に感じる。だから、夜匂ってうれしいところに植えておくのが、くちなしを植える場所のポイントになる。部屋に置くと匂いは強烈、そのため茶席にい
けるのを嫌われる。
くちなしの熟果は、昔から黄赤色の染料にされた。永井荷風は、和紙に木版手摺りの、くちなし染めの原稿用紙を造ったといわれた。夏目漱石の漱石山房
用箋もくちなし染めの用箋といわれた。昔の文人には喜ばれたものらしい。また、無毒なので、栗飯、沢庵漬け、きんとんなどの料理に使われる。天然色素
なので、量産できなく、最近はほとんど人口着色料に代わってきている。漢方では消炎、止血剤として使われている。
あまり知られていないが、くちなしの花は食用になる。やや甘味があり、肉質が厚く、香りもよいので、生のまま刺身のつまにしたり、茹でて、酢の物や和え物
などにする。また花酒にしたり、天ぷらにしてたべる。
国の天然記念物としては熊本市黒髪に「立田山のヤエクチナシ自生地」として保護されている
- 学名
- Gardenia jasminoides
- 科
- アカネ科
- 属
- クチナシ属
常緑低木
- 英名
- Cape jasmine 、gardenia
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