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幕末紀州の知識人 羽山維碩(大学)
風説留*1 『彗星夢雑誌』百十五冊記す
和歌山文化協会郷土研究部部長 小弓場弘文
七、紀州の豪農豪商文人仲間等からのルート
(1)は山大学の『彗星夢雑誌』は郡レベルの豪農、瀬見善水(1827-1892)の情報網と接触をもつことによって情報の質と量を格段と向上させることになった。瀬見は日高郡江川組の大庄屋で地士、しかも国文学者で有名な歌人でもあった。大学とは古くから交流があった。この瀬見は大庄屋であったことから紀州藩の良質な情報が入って来た。又、瀬見は紀州ではハイレベルであることから、京都の知識人とも交流があり、京都の情報、すなわち朝廷公卿の動き等を入手できた。瀬見が収集したものを大学が入手できた。紀州藩が大騒動となった天誅組の事件情報などもこの瀬見の人脈ルートから入って来ている。
(2)更に彼の情報を一挙に拡げたのは、瀬見より一段上の菊池海荘(1799-1881)という知識人であり、全国レベルの豪商がいたからである。この人は有田郡栖原の人で、漢詩人としては全国的名声があった人で瀬山陽とも交流があるなど全国のハイレベルの文人と交流があった。江戸・浦賀・大阪に店をもって肥料、砂糖、薬種など大規模な取引をしている豪商である海荘のもとには、自家の商業ルートを通じて豊富な情報が入り込んできた。
特に『彗星夢雑誌』の中で重要な情報は海荘の商業ルートと文人ルートから入って来ている。著名なものは桜田門外の変に関しての情報で、手紙で三回も入手し、瀬見に送られ、瀬見から日高郡内をぐるっと回覧されて大学へと伝わっている。
このことから、この時代に有田郡、日高郡において一種の情報交換ルートと人脈がつくられていたと考えられる。
(3)外に現在の人か知っている浜口梧陵である。「ヤマサ」の醤油を造り、現在まで生き続けている浜口家。当時同家は有田郡広村に所在し、海荘の有田郡栖村とは目と鼻の先であった。海荘の店よりも浜口梧陵の店の方が大きかったという。江戸・銚子の店で入手した関東情報が海荘のもとへ更に両郡内の情報ルートを回って大学のところへ来ている。
以上、羽山大学という地元でも忘れられているような人が集めた風説留というのは、彼自身の情報を知りたいという欲求であると同時に、それは紀州の有田郡なり日高郡の郷の豪商文化人がもっていた共通した欲求でもあった。
よって、このような多彩なルートが形成されたのである。そして、このようなルートが形成される前提として彼らのさまざまな文化的営みがあったことを忘れてはならない。
今日までの維新史は、薩長土肥の関係でしか書かれていない。
しかし、維新の大事業の底辺には、羽山大学のような普通の人が日本の将来を憂えて全精力をかけた情報収集の欲求と入手への努力があったからこそ世界史にも稀な明治維新という大変革が実現したものといえる。
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