彗星夢雑誌/古文書

幕末紀州の知識人 羽山維碩(大学)

風説留*1  『彗星夢雑誌』百十五冊記す

和歌山文化協会郷土研究部部長 小弓場弘文

  次に『彗星夢雑誌』の内容であるが、南紀州の片田舎にあってよくこれだけの情報をまめに集められたものかと驚かされる程の量と質である。
当時幕末の動乱期の政治・外交・経済・宗教・社会・文学・演劇・民俗等各方面のことを収集して克明に書きとめているのである。江戸幕府は政治向きの情報は一般に知らしめず、よらしめるという統治が原則であった。
こうした環境の中で医療に従事しながらこれだけの多彩な情報を記録した功績は大きく大学の情報に対する旺盛な意欲と努力に敬服するものである。
次に初編から三十八編までに記録されているものの中で主なものを挙げてみると、まず初編上巻は、はじめに序文と嘉永六年(一八五三年)に出現した彗星の記録と、太陽から天王星までの天文図及び彗星の軌道が記されいる。
古来、中国や日本では彗星が現れると世の中が凶事の前兆という故事から、今後の動乱を予想して筆を起こしたものである。以下三十八編にわたって記載されている事項は、幕末(黒船来航以来)維新の初めまでに起きた顕著なことを記載している。
勤王の志士に対する弾圧、暗殺の跋扈の他、外国船の出入、外国使節との交渉、攘夷佐幕開国諸藩の動向と抗争、将軍公卿等の公奏、諸侯の去就と動静、戦争暴動等のおよそ普通歴史に記述されている事項が多い。
又、幕末紀州関係のことについても各編に多く記載されており、幕末紀州の歴史を知る上において興味あることが多い。
これらの記載事項の中で、生麦事件、蛤御門の戦いなどは、その戦いに出会って見物した人々の話や、長州征伐に参加した紀州の農民兵の帰来談、又、鳥羽伏見の戦いで敗走し紀州入りした幕兵の話、天誅組一味の話など今日でも生々しく感じられる記載である。

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