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樹から木までの散歩道
さくらなみき
ケヤキは北海道以外の全国に生育し、日本の広葉樹の中では樹・木材とも、最も人気がある。関東を代表する木といわれるが、本来は関東ローム層の台地は適さない。成長が早い上、土地条件に対する耐性が強いからもったのだろう。ケヤキにとって理想的な生育場所は 日当りがよく山地の渓谷沿いの肥沃な斜面である。また比較的低地にも生育している。ただ根は深いためスギの植林地のような表土が浅いところは不向である。
ケヤキは古くツキ(槻)といわれ、古事記、万葉集に詠まれている。江戸時代からケヤキとツキは別物とされてきた。植物学的には同一であるが、材を扱う上ではケヤキとツキの区別がされてきた。人や場所により微妙に違うが、ツキの方が成長が早く、重く、硬くそして加工が困難で、材に狂いがでやすい。材質的にはケヤキに軍配があがる。しかし現在ではツキという名は単にケヤキの古名という事になってしまっている。
  木材は木理美しく、狂いがなく、水湿にもよく耐えて、保存性の高い優良材で用途は広い。
  私の入社後の配属は土木仮設材部門で、最初に先輩から習ったのが、電柱の腕木の注文はケヤキで造るということであった。最近ではユニバーサルスタジオのでしか見られなくなった木の電柱だが、最近まで腕木としては、他にかえることができないとされてきた。そのほか、神社、仏閣、船の竜骨、臼、橋の欄干や橋板、機械、楽器、日用品、彫刻など。落葉で作った腐葉土は、園芸用土として最も良質である。
ケヤキを利用した建築物を探しているうちに、2年前に世界遺産である清水寺の舞台の床板張り替えがあった事を思いだした。床板が桧というのは知られているが、支えている円柱がケヤキとはあまり知られていない。
そこで、この取材(撮影)のために日曜日に清水寺を訪ねた。朝の6時から開いているのにも驚いたが、早朝でもお客は多い。訪問してケヤキ柱をよく見ると驚いたことに、円柱と思っていたものが16角柱であった。元々この時代の丸柱というのは最初8角に挽いて、それをさらに16角、さらに36角にして丸く仕上げてゆくのだが、ここでは16角で止めている。少し離れると丸く見えるが、角柱のため力強い感じになっている。
その後、大阪府の能勢町まで車を飛ばした。天然記念物のケヤキの巨木は数多くあるが大阪ではここが有名で国の天然記念物である。3回目の訪問だが、以前とまったく変わっている。驚いたことに米国なみに記念館が建てられ、観光バスも駐車できるくらい立派に周辺が整備されている。一時間の間に二十人くらいの見学者があった。やはり静かな巨樹ブームだ。
さくらなみき
さくらなみき

野間のケヤキは西日本最大で、樹齢千年の堂々たるものだ。せっかくなので記念館に入り資料を見ると、この巨樹はヤドリギに悩まされてきた、そしてこれらの対策に相当の費用をかけてきている。巨樹をあらためて見てみると、周辺に孫の木が生育していることや、葉は小さいことなどと共に、ヤドリギに寄生されているのがすぐにわかった。あちらこちらにヤドリギの葉が見える。
新緑や落葉の時期もいいが、私は冬の姿が好きだ。ホウキを逆さにした感じで樹形見本のように美しい。そのまま空を引っかいてしまいたい衝撃にかられる。夕焼けを背景にしたシルエットで浮かぶ姿もとても美しい。ケヤキは剪定をしなければ美しい樹形を保つ。一旦剪定をすると葉が大きくなる事と、樹形は回復せずにケヤキの樹形でなくなる。井上靖の『欅の木』にケヤキを守る老人が「木という木にはみんな魂がございます」と語っているが、人間の都合で植え、そして都合が悪くなると成長の邪魔をする。
木材団地の交差点、グルメドームのケヤキは最近まできれいな樹形だったが、その姿はもうこれからは見られない。木材業者として、仕事の元の素材としての樹木を大切にしなければいけないと思うのは私だけだろうか。

さくらなみき

写真上 ふるさと切手 宮城県 ケヤキ並木
写真中 清水の舞台とケヤキの16角柱
写真下   野間のケヤキ 大阪府能勢町

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