こんどは木の太くなっていく経過を説明しよう。細胞を分裂させる力をもっているところは樹皮と木部との境にある形成層である。葉でつくられた養分は師部を通ってここに運ばれてきて、細胞を増えつづけさせる原動力になる。細胞分裂のしかたは形成層の外側には樹皮細胞を、また内側には木部細胞をつくる。つまり形成層は自分が増殖した内側の木部によって、外へ外へと押し出されながら、自分の外側にもまた樹皮細胞を増やして、生長を続けて行くわけである。
その事情はマツの幹をみるとよくわかる。老木になると樹皮は厚く、亀甲形に割れている。それは内側の木部が太るために、もはやむかしの衣のままでは小さすぎておさまらずはち切れる。それが樹皮の割れ目になってあらわれるのである。老松ほど亀甲形の割れ目が多いのはそのためである。
このように、幹は年輪の層を一層ずつ外側に積み重ねながら太っていく。だから枝は当然その中に巻き込まれることになる。それが節である。木が大きくなると下枝は高くなって行くが、それは以前につけていた下枝が風などによって折れ、新しい材の中に巻き込まれるので、見かけのうえで枝が上がっていくように見えているにすぎない。一度出た枝は太くなるが位置はそのままである。
以上に述べたように、幹はお菓子のバウムクーヘンのような層状の構造になっている。だから幹を樹心と平行の断面でたち割ると、板の表面にはたけのこ状の木目があらわれる。老木になると年輪の幅は狭くなり、幹の断面も正円ではなくなる。それを平面の板に挽くから、板面には屋久杉のような複雑な木目があらわれるのである。
さて形成層から分裂した細胞は、間もなく死んでしまう。そしてセルロースのフクロでできた細胞どうしは、リグニンの層でぴったりと接着される。その固まりが木材である。だから薬品でリグニンだけ溶かすと、セルロースのフクロはばらばらにほぐれる。それがパルプで、パルプを薄く並べてすいたものが紙である。針葉樹は細胞が長くてリグニンの層が厚い。広葉樹はその反対で細胞が短くリグニンの層は薄い。パルプをつくるとき針葉樹は処理に時間がかかるが、細胞が長いので良質のパルプができる。広葉樹は処理時間は少ないが、細胞が短いのでよいパルプにはなりにくい。