v11.0
- ID:
- 進していく
32863
- 年:
- 2015
- 月日:
- 0408
- 見出し:
- 輪島キリモト 漆器の素材を生かしてつくる「あすなろシリーズ」|木のある暮らしーLife with Woodー
- 新聞名:
- T-SITEニュース
- 元UR(アドレス):
- http://top.tsite.jp/news/o/23103023/
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輪島キリモトからつながる石川の森のはなし
石川県は、総面積のうち7割が森林面積を占める、森林資源豊かな土地。
岐阜県との県境に位置する、標高2702メートルの霊山・白山にはブナの天然林もある。
この森林面積の約9割が民有林となるが、戦後の拡大造林の推進により、そのうち4割が人工林として造成されてきた。
樹種は、スギ71%、能
登ヒバ(アテ)12%、マツ9%だが、なかでも能登ヒバは、能登地域に植えられる石川県独特の樹種。
昔から建材としてはもちろん、木工品などにも使われてきた。
現在、この人工林の約6割が成熟期を迎えているといわれるが、国内全体での木材自給率は低く、木が森に残されてしまうような状況が続いてい
る
眠っている素材を生かしたプロダクト
能登半島の漆器のまち輪島で、150年以上にわたりものづくりをしている「輪島キリモト・桐本木工所」。
ほかの漆器の産地と同じく分業制が根づく輪島で、お膳の猫脚や仏具などの木地をつくる「朴木地屋」として昭和初期に創業し、現在は三代目の桐本泰一さんが多くの職人さんを束ねながら、商品の企画
から販売まで手がけている
石川県も他県と同様、森林の状況はあまりよくないというが、輪島の場合は山が浅いこともあり、人の手が入っているほうだという。
というのも輪島では大工さんが地元材を使うことが多く、15年ほど前までは住宅の地元材使用率は8割を超えていたのだそう。
その地元材が、スギとアスナロ。
ヒノキ科の針葉樹で
あるアスナロは、たとえば青森県では「ヒバ」と呼ばれるなど、地域によって呼び方が異なる。
「アテ」という石川県の県木も、このアスナロのこと。
耐水性にすぐれ、ヒノキに似たさわやかな香りがあり、抗菌性のあるヒノキチオールを含んでいる。
スギよりも水に強いため、外壁材など、多く建材として使われてきたが
、輪島では文箱や屠蘇器といった漆器の木地に長く使われてきた素材でもある
「匙などにはホオノキ、椀にはケヤキなども使われていますが、さまざまな漆器の木地にアスナロが使われてきました。
アスナロ中心といっても過言ではないくらいです」と桐本さんが言うように、輪島の人たちにとってはなじみ深い素材なのだ
アスナロを木材として仕入れてから木地として使用するまでには時間がかかる。
狂いを少なくし、長持ちさせるために、水分量が一定になるまで木を落ち着かせるのだ。
天日で3年、その後風通しのいい場所で1年、さらに倉庫で5~6年ほど寝かせたものを使うのが基本。
だが、現代では漆器が日常であまり使
われなくなったこともあり、木が倉庫に眠ったままの状態になってしまっていた。
これらをなんとか生かせるものがつくれないだろうかと生まれたのが、輪島キリモトの「あすなろシリーズ」だ
漆器の素材であるアスナロを広めたい
桐本さんは大学でプロダクトデザインを学び、卒業後は企業でオフィス設計などを手がけ、その後輪島に戻って木地業の修業をしてから家業を継いだ。
受け継がれてきたものを守り、生かしながら、新しいものづくりにも取り組んでいる。
「うちは輪島塗の木工所だけれど、漆だけではなく、木の仕事ができる。
そ
の技術とノウハウを生かしながら、日常的に使ってもらえるような家庭用品がつくれないかと思ったんです」
そんな桐本さんと「あすなろシリーズ」を一緒につくっているのが、プロダクトデザイナーの大治将典さん。
桐本さんの著書『いつものうるし』という本がきっかけで桐本さんと知り合い、いまでは桐本さんにとって、ものづくりの大切なパートナーのような存在だ。
大治さんは輪島出身ではないが、各地の生産者たちと
丁寧なものづくりを手がけ、つくり手、伝え手、使い手を結ぶ見本市などを手がける「ててて協働組合」も数人で主宰している
「桐本さんの工房の倉庫には、これまでつくられてきたものの試作品が残っています。
昔のすばらしい猫脚や箱物が残っていたりして、それらは漆を塗らなくても充分きれいなんです。
それを見て、素材をそのまま生かしたものがつくれないだろうかと考えました」と大治さん
こうして生まれた「あすなろシリーズ」は木の質感を生かした美しいデザイン。
「あすなろ弁当箱」は、抗菌、防腐効果があり、耐水性にすぐれたアスナロの性質を生かして考案された。
こうした木目を生かしたプロダクトにはウレタン塗料が使われることが多いが、これは無機質のガラス塗料を用いている。
有機溶
剤を使わず安心安全なうえ、ほとんど塗っていないような質感で、アスナロのいい香りも残すことができるのだ
ただ、漆のまち輪島で漆を使わない桐本さんのやり方に、当初は風当たりも強かったようだ。
「漆器もやりながら、並行してこういうシリーズもやっていく。
僕らは勝算があると思っています。
もともと漆器の素材であるアスナロを広めるという啓蒙活動をすることによって、それが輪島の主力産業である漆にもいい刺激に
なるのではないかと。
実はこの弁当箱も、漆を塗ったものが欲しいという声もあるんですが、今度は拭き漆で新しいものをつくることも考えています。
そういう新しい動きをすることで、漆の仕事にも返ってくると思っています」
かつては木と一緒に暮らすのが当たり前だったと桐本さんは言う。
漆器も木があればこそ。
輪島だけでなく、現代の多くの人たちに木のものを暮らしに採り入れてほしいと願う桐本さんからは、まだまだ新しいアイデアが生まれそうだ
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