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- ID:
- 32670
- 年:
- 2015
- 月日:
- 0312
- 見出し:
- 大川の木工産業に、新たな販路を。
エトウのものづくり|Local Action
- 新聞名:
- T-SITEニュース
- 元UR(アドレス):
- http://top.tsite.jp/news/o/22722597/
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- 【写真】
- 記事
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九州のヒノキを使ってつくる、子ども向け家具
清潔感あふれるやわらかいピンク色の木肌に、ビタミンカラーのオレンジが可愛い二段ベッド。
触り心地のよいヒノキの無垢材でつくられていて、枕元には小さな本棚のしつらえも。
こんな遊び心ある二段ベッドが子ども部屋にあったら、創造力あふれる時間を過ごせるに違いない
こちらは、家具のまち福岡県大川市で、家具や木製サッシ、住宅などの事業を展開する株式会社エトウが、2014年秋に発表した、熊本のヒノキ材を使った「KOTOKA」シリーズ。
家具のまちで根づいてきたよいものづくりを海外へも発信しようというのだ
エトウは、大正9年に製材所として創業。
大川は、福岡県中部を横断し有明海へと流れ出る筑後川の下流域にあり、上流には、木材の産地として知られる大分県日田市がある。
「昔は木材を筏に組んで、筑後川を下り大川の港まで運んでいました。
大川は木材の集積地であり、さまざまな物資や船が集まる
まちでした」と教えてくれたのは、現在の社長、江藤義行さん
船が集まれば、船をつくりだす船大工も必要となる。
家具のまちとして知られる大川の歴史を辿れば、実は、船大工の技術を生かして指物を始めたのが出発点と言われている。
タンスなどのいわゆる“箱もの”を得意とし、製材所、建具屋、木材加工、道具を磨く研磨屋、塗装、塗料販売まで、あらゆる作業が
工程ごとに各メーカーに分業化され家具製造がまちの産業として発達してきた。
そして、起こったバブル崩壊。
江藤社長はやさしい表情をゆがめながら、「地元で活躍していた、たくさんの中小企業が倒産、廃業に追い込まれたのは事実ですね。
製材所もほとんどなくなってしまいました」と語る
当時エトウでも自社で製材した木材の販路拡大のためにも、低迷した地元の家具工場を引き受け、家具製造業をスタートさせるなど、なんとか、自社と大川の木材産業を盛り上げてきた。
以来、地元メーカーの技術を生かしながら、エトウは商品を企画し、それらの販路開拓を担ってきた。
現在は、家具など
の輸出入事業も手がけている
実は近年、台湾や韓国で注目されつつある木材が、日本のヒノキ。
さらに、日本の丁寧なものづくりも評価されている。
エトウでは台湾からの発注があったこともあり、昨年から輸出も視野に入れた、九州産のヒノキを使った家具づくりをスタートさせた
確かな製材と加工技術で丁寧なものづくり
「ヒノキの特性を調べていくと、抗菌効果や消臭効果をもち、さらに気分を落ち着かせる香りの成分があることがわかりました。
しっとりとした木肌もいい。
特に二段ベッドにヒノキの無垢材を使うことは、子どもたちによい睡眠環境が提供できます」と設計、デザインを担当した糸山浩司さんは話す
材料となるヒノキは、現在、間伐材を含めた熊本県のものを使用。
今後は各地域の生育状況や価格を判断しながら、条件の合うものを仕入れていくと木材仕入れ担当の津村弘毅さんは言う
「難しいのは、建築材と家具材とでは製材所の管理も違うことです。
うちは、なるべく片面は小さい節があるものでも、片面は無節のものを選別してもらっています。
厚みやサイズも建築材とは異なることも。
家具用に製材してもらうには手間がかかるんですね。
ただ、いまの製材所はその細かさに対応してくれる
あの製材所がなければ、KOTOKAの家具はつくれませんね」
さらに、含水率も12〜15%ほどになるよう低温でじっくり乾燥。
そうすることで、割れや反りなどが少なくなるのだという。
基本的にKOTOKAシリーズは、組み立て家具。
お客さんや家具店が組み立てるときに、板が反ったりしたら大変なことになる。
管理しやすい合板と違い、無垢材を扱うとなると気をつけることも多い
糸山さんは、設計の際、デザインはミニマルに、構造的、強度的にも配慮した。
「ヒノキは広葉樹に比べると、動きが多い木材なので、横目や柾目といった、木目の方向を意識したり、動きの多い面には、接着材の使用を控えたり。
僕らの知識はもちろんですが、加工してくれる木工所の理解も必要となります」
製材された木材は、大川市内の木工所に運ばれる。
ここでは、糸山さんの図面に合わせてカットし、角材の角をとるアール処理や、研磨作業といった最終の加工を行う。
その誠実な仕事ぶりに、糸山さんは太鼓判を押す。
「大川では大量発注に耐えられるものづくりをしてきたメーカーが多いなか、今回お願い
できた木工所は、木の性質をみながら、細やかな処理にも対応してくれます。
例えば、図面にないアール処理を気づいて注意してくれたりする。
これからもずっと仕事をしていきたいって思える木工所ですね」
私たちが木工所を訪ねると、KOTOKAの二段ベッドで使われるすのこの仕上げが行われていた。
「自分の孫が使うことを考えたらね」と、木工所で働くおばちゃんたちは、手袋をしないで、何度も何度も手で触りながらとても丁寧にやすりをかけていた
こんな風に確かな技術をもった工場を稼動させるためにも、販路と商品開発が必要となってくるのだ
海外マーケットへのチャレンジ
「どうしても、日本のマーケットは縮小していく傾向にあります。
アジアにもたくさんの木材はありますが、ヒノキのような効能もあり、木肌も美しい木はあまり見ません。
特に、いま日本の山には伐採時期の山がたくさんあるのにも関わらず、使われていない状況が生まれてしまっています。
大川で続いてきた技術、産
業を生かすためにも、さまざま販路にチャレンジしていきたい」と江藤社長は語る
実は2月に、KOTOKAシリーズは韓国で行われた展示会へも出展し、上々の評価をもらったという。
ヒノキを使用した家具のなかでもデザイン性のあるKOTOKAシリーズは注目が集まったようだ
とは言え、同じモデルの二段ベッドでもサイズ感やデザインなどは、国ごとの要望に合わせて調整が必要となるという。
素材、加工技術、販路などKOTOKAシリーズは、会社にとっても地元企業にとっても新しい取り組みとなるが、江藤社長はこう話す。
「新しいことにチャレンジすることは、大切なことだと思うんです
。
語るも涙(笑)、あんな時代がくるのかと思うほど、バブル崩壊後は大変でしたが、次の時代を見つめながら、前向きに進んできたからこそいまがあるのかなと思います」
エトウのこの新たな試みが、大川で培われてきた木工技術と知識を次の世代へとつなげていくに違いない
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