v11.0
- ID:
- 24702
- 年:
- 2012
- 月日:
- 0703
- 見出し:
- ヘッドフォンに新素材! カーボンナノチューブから木材まで
- 新聞名:
- ASCI(I
- 元UR(アドレス):
- http://ascii.jp/elem/000/000/706/706312/
- 写真:
- 【写真】
- 記事
- 屋外での気軽なリスニングをはじめ、室内でのリスニングで愛用する人が増えているヘッドホン
親しみやすいアイテムだけに、いつも何気なく使っている人が多いと思うが、オーバーヘッドから、人気の高いイヤホンタイプと種類も豊富、発売するブランドも世界中にたくさんある。
音を出す仕組みなんてみんな同じだと思うかもしれないが、実際にはかなり奥の深い世界なのだ
本特集では、そんなヘッドホンの魅力をさまざまな角度から紹介。
第1回目となる今回は、ヘッドホンで採用されている数々の新技術や新素材について、JVCケンウッド、ソニー、オーディオテクニカの3社インタビューを交えて解説していく。
ヘッドホンやスピーカーは、最新のエレクトロニクス技術に比べればいわ
ゆる枯れた技術かもしれないが、それでも最新ヘッドホンはハイテクがたっぷり詰まっていることがわかるだろう。
なお、2回目では老舗ヘッドホンについて、3回目ではスマートフォン向けヘッドホンについて取り上げていく予定だ
「ウッドドームユニット」を採用する「HA-FX700」(左)と「HP-FX500」(右)
JVCケンウッドは古くからヘッドホンを発売しているメーカーだが、木材を使用した振動板など、ユニークな素材を採用することでも知られる。
そんな同社はインイヤーヘッドホンのハウジングや振動板に木材を採用する「ウッドドームユニット」モデルとして、「HA-FX700」(実売価格2万2000円前後)と「HP-FX500」(同1万円前後)を発売している。
JVCケンウッド ホーム&モバイル事業グループの伊藤 誠氏
今回話を聞いた伊藤 誠氏(株式会社JVCケンウッド ホーム&モバイル事業グループ HM技術統括部 商品設計第三部 第一設計グループ長)は、自らもベースを演奏するほどの音楽好きだ
伊藤(以下、人名敬称略):「ギターは、ボディーやネックなどのパーツで作られていますが、木材の種類によって随分音が変わります。
ヘッドホンの場合はそれほど顕著ではありませんが、初のウッドドームユニットを採用したHP-
FX500では、見た目だけでなくボディーも音をひびかせる木製を使いたかったのです」
木製の振動板
木製の振動板も実用化にはかなり時間がかかったというが、屋外で使うインナーイヤー型に木製のハウジングを使うのもなかなか困難だったようだ
木材は湿度によって膨張や収縮をするため、空気漏れが起きやすい。
湿気などに強く寸法の狂いが生じないように加工することが難しかったという。
HP-FX700の構造
また、仕上げはあえて艶(ツヤ)を抑えた「3分艶」としたそうだ。
もっとツルツルに仕上げることもできたのだが、「3分艶」のほうが木目の質感がしっかりと出て、しかも使い込んだときの味わいもいいという。
伊藤:「持つ喜びはヘッドホンの大事なポイントだと思います。
音がいいことはもちろんですが、見た目の点でもいろいろな素材を使ってみたいと思いますね。
もちろん、どれが一番という話ではなく、いろいろな種類のものを好みで選べるのがいいと思います」
カーボンナノチューブ振動板を採用する「HA-FXD80/70/60」
ユニークな素材という点では、現在のところ注目度No.1と思えるのが、「カーボンナノチューブ振動板」。
同社の「HA-FXD80」(実売価格7000円前後)をはじめとする最新のFXDシリーズで採用されている。
カーボンナノチューブとは、アルミニウムの半分の軽さで鋼鉄の20倍の強度という性能を持つ素材で、地球と宇宙ステーションを結ぶ軌道エレベーターの構造材としても期待されているもの
このほかシリコンに代わる半導体として、中空空間を持つ構造を活かして燃料電池に応用するなど、さまざまな用途が期待されている。
ちなみに、FED(パネルから電子を発生させることで蛍光体を励起して映像を表示するタイプのディスプレー。
薄型テレビとブラウン管のいいとこ取りの性能を持つと言われる
)に応用できると話題になったこともあった。
言わば最先端のハイテク素材だ
これをヘッドホンの振動板に採用したのが同社だ。
軽さと強さは振動板素材に求められる重要な要素だが、これに加えてチューブ状の構造のため適度な内部損失も備えており、振動板としても理想的な性能を持つという。
ヘッドホンだけでなく、スピーカーでも三菱電機が実用化しており、テレビ用の内蔵スピーカーのほか、カーオーディオ用には大口径の振動板も使われている。
2つのユニットを内蔵する「HA-FXT90」
同社では、以前にカーボン振動板を採用したこともあり、その発展形としてカーボンナノチューブに挑戦した。
ツインユニット採用の「HA-FXT90」(実売価格8000円前後)では低音用ユニットに採用。
FXDシリーズではフルレンジユニットとして使っている。
伊藤:「カーボンナノチューブのような軽くて丈夫な素材で、もっと繊細な音を出せないかということを狙いにして採用しました。
実用化にあたっては、ベース材にカーボンナノチューブを塗布するウェットコーティングとしています」
驚くことに、カーボンナノチューブの手塗りまで試したそうだ。
さすがに量産が難しいために諦めたということだが、塗布する厚みが大きいと重くなるし、硬くなって素材のクセが出やすくなる。
目指した繊細な音の再現のため、何度となく試作を繰り返したという。
いわゆる新素材の採用で一番難しいのは、こうした素
材の使いこなしだそうだ
40mmドライバーを採用する「HA-S500」(上)と30mmの「HA-S400」(下)。
どちらも振動板はカーボンナノチューブ
また、カーボンナノチューブ振動板は、カナル型の小型のものだけでなく、40mm口径の大型ドライバーユニットにも展開している。
「HA-
S500」(実売価格4000円前後)は、携帯性にも優れたコンパクトなオーバーヘッド型だが、その音は解像感の高い引き締まった低音が持ち味で、ベースの音階もしっかりと再現できるなど、こちらもなかなかの実力だ
伊藤:「素材については、かなりいろいろなものを試していると思います。
量産できるかどうかや、コストなどで断念したものもありますが、JVCケンウッドの目指す音が出せる素材であれば、今後もいろいろと使ってみたいですね」
HA-FXD80の構造図
HA-FXD80に注目すると、目新しいのは振動板だけではない。
ステンレス削りだしのエンクロージャーの上部にドライバーユニットを装着する「ダイレクトトップマウント」構造を採用している。
多くのインナーイヤー型ヘッドホンでは、ドライバーユニットの音はイヤーピースがついた音道部分を経由して出てくるが、そのぶん鼓膜からは遠くなる。
HA-FXD80は、カナル型としてはかなり低音再現性も優れているが、これこそがダイレクトトップマウント構造のメリットと言えるようだ
伊藤:「鼓膜までの距離が短いほど空気の容積が小さくなるため、小さな振動板でも低音は出しやすくなります。
もちろん、低音を出すだけでなく、質のいい低音を出すことにもこだわっています」
自らベースを演奏するだけに低音にはこだわりがあるそうだ。
ダイナミック型は最低域まで伸ばすのは比較的簡単だが、数値にこだわるのではなく、量感を伴ったリアルな低音を狙い、最適な低音に仕上げているという。
伊藤:「ギターなどの場合、そうそう高いものは使えないので、エフェクターを追加して音を加工するわけですが、ちょっと背伸びしていいものを選ぶとやはり全然違うとわかります。
ヘッドホンもそれに似たところがあって、まずはいい素材を吟味してそのポテンシャルを活かすことが重要ですね」
スピーカーの発想で作った
「ダイレクトトップマウント」構造という発想
ダイレクトトップマウント構造は言わばスピーカーと同じ発想だ。
振動板が発する音は振動板の前と後ろから出てくるが、位相が正反対になるため、後ろから出る音を遮断しないと互いの音を打ち消してしまう。
そのためにスピーカーにはバッフル板やエンクロージャーがある。
基本的な考え方はヘッドホンでも
同じだが、ヘッドホンの場合は振動板前方の音をポートを通じて出すなど、構造が少々違う。
ダイレクトトップマウント構造は、構造からしてスピーカーに近い。
剛性の高いエンクロージャー(ハウジング)でがっちりと振動板を支えるため、不要な振動の発生が少ないというメリットもある。
また、エンクロージャー内の空気が振動板の動きを邪魔しないように、エンクロージャーの後ろ側には5つのマルチポートを設けて、空気圧を最適に制御している。
「HP-DX1000」
この発想はインナーイヤー型ではなく、オーバーヘッド型の高級ヘッドホン「HP-
DX1000」(実売価格8万円前後)にも採用されている。
大型の木製ハウジングを採用していることが大きな特徴だが、ハウジング内部には削りだしでエンクロージャーが設けられており、ドライバーユニットはそこに直接取り付けられている。
こうした構造で、ドライバーユニットの不要な振動を抑え込み、しかも木材の特性を活かした自然で美しい響きも再現している。
伊藤:「弊社もかなりの数のライナップがありますから、それぞれの音には個性を持たせたいと思っています。
でも、特定のジャンルが得意といった片寄った製品にはしたくないですね。
繊細な弦の音色も、ドスンとくるドラムの低音も両方出せる、どんな音楽も幅広く楽しめる音を目指しています」
ヘッドホンにはまだまだやり尽くしていない部分があり、素材の吟味や構造の工夫などいろいろと試していきたいことは多いという。
伊藤さんとしては、演奏の熱さを伝えられるヘッドホンを目指しているという。
ポケットにライブハウスを入れてしまうのが究極の目標だそうだ
目指す音のためにユニットから自社開発
ソニーのバランスド・アーマチュアはこんなに違う!
ソニーと言えば、「ウォークマン」の名を出すまでもなく、ヘッドホンでは外すことのできないメーカー。
業務用や放送局用のモニターヘッドホンをのぞけば、小型で気軽に使えるコンパクトなヘッドホンなど音楽用として使えるわけがないと思われていた時代に、初代ウォークマンでその常識を打ち壊したメーカーだ
そんなソニーは昨年、コンパクトなインナーイヤー型のドライバーユニットとして注目を集めるバランスド・アーマチュア(BA)採用の「XBA」シリーズを発売した。
シングル型の「XBA-1SL」(実売価格4000円前後)から、4ユニットを内蔵した「XBA-
4SL」(実売価格2万円前後)の4モデルのほか、ノイズキャンセル型、スマホ用のマイク/リモコン付きとバリエーションも多い
BA型は、もともとは補聴器用のドライバーユニットとして使われていたものだが、ライブステージなど、プロの現場でイヤーモニターとして使われはじめ、今では音質に優れた高音質ヘッドホンとして人気だ
弱点としては、周波数特性が狭いため複数のユニットを使うのが一般的なところ。
また、ドライバーユニットを生産しているメーカーが少なく、ヘッドホンのメーカーが違っても同じBA型だと似た傾向の音になりがちというのも、ブランドによる音の違いを楽しみたいという人には物足りないだろう。
ソニーエンジニアリングの大里祐介氏(左)と松尾伴大氏(右)
そもそも、どうしてBA型のユニットを自社開発することにしたのだろうか? 3ユニット内蔵の「XBA-3SL」の音響設計を担当した大里祐介氏(ソニーエンジニアリング株式会社 設計2部1課)に話を聞いてみた。
大里:「BA型の小ささはインナーイヤー型には最適で、ソニーとしても注目はしていました。
しかし、外販のBA型ユニットはソニーの目指す音とは違っていましたし、チューニングによる音作りの余地も少なかったのです。
そこで、一から自社開発することになりました。
一般的なBA型は手作りの工程が入るなど、
生産性にも問題があったので、最初から容易に量産できることも重視ししています」
ソニーのBA型ユニット。
高音用(左)にはエアダクトが空いているのがわかる。
低音用(右)は穴が空いていないように見えるが、数ミクロンの細かい穴がある
そのBA型ユニットを見てみると、細かい部分がよく知るBA型ユニットとは随分異なっていることがわかる。
一般的なBA型ユニットは、ボックスの短辺側にポートがついていて、音がそこから出てくるようになっている。
しかし、ソニーのBAはボックスのヨコにエアダクトが空いた形をしている。
大里:「音の出口をエアダクトとしたのは、その方が高域の伸びがよくなるからです。
BA型の弱点である周波数特性の狭さを解消し、広帯域なBA型とするためです」
そのほか、ユニットの配置の自由度が高いこと、ハウジングなどと組み合わせて音をチューニングできるなどの特徴も実現している。
ちなみに、BA型には高域用、低域用などが組み合わされているが、基本的な作りはどれも同じで、高域用、低域用の違いは振動膜の厚みやエアダクトのサイズなどの違いによ
るものだそうだ
大里:「音作りも、基本はシングルBA型で、そこにユニットを追加していく考え方です。
これも広帯域なBA型ユニットを開発できたために、実現できました」
XBA-3SLの構造。
赤い部分がBAユニットだ
XBA-3SLはこのように3つのBAユニットが垂直に並ぶ形で配置されている
実際にXBAシリーズを聴くと、シングルBA型のXBA-1SLでも音楽用としては十分な帯域をカバーしており、単体ではあまり不足を感じない。
それが「XBA-2SL」(ウーファーを追加し低音を強化)、XBA-3SL(さらにツイーターを追加)となるにしたがって、低域や高域がより広がっていくように感じる。
XBA-
4SLは、さらにスーパーウーファーが加わった構成になる。
ハウジング部に表記された四角がユニットの数と配置になっている
それぞれのユニットは、ちょうど製品の後ろに見えるユニット数を示すマークのように配置されているが、その配置も互いの干渉を抑えるように配慮されている。
ちなみに、3ユニットのXBA-
3SLの場合は、上からフルレンジ、ツイーター、ウーファーの順で重なっており、基本的にツイーターが音道に一番近くなるように配置しているそうだ
BA型ユニットの開発では、最初は音すら出なかったというくらいで、実はBA型が一般に認知され始めた3年前には開発が始まっていたという。
ようやく昨年に完成したわけだが、その出来映えには自信があるようだ
大里:「ソニーは新しいものを生み出していくメーカーですから、BA型もさらに開発を進めて面白いものを作っていきたいですね。
いろいろとアイデアも出ていますし、それに合わせた設計変更がしやすいというのも自社開発の強みです」
大里さん個人としては、BA型のモニターヘッドホンも出してみたいという。
それくらいの実力はあると自信たっぷりだ。
今後もきっとユニークなBA型ヘッドホンが出てくるはず。
そのあたりも楽しみだ
世界最大の70mmドライバーユニットを実現
その決め手は高音域の再現だった。
「EXTRA BASS」(XB)シリーズ最上位モデルとなる「MDR-XB1000」 「MDR-MA900」の70mm口径ドライバーユニット
続いて、同じくソニーから70mm口径のドライバーユニットを開発した松尾伴大氏(ソニーエンジニアリング株式会社 設計2部1課)の話を聞いた。
これは、重低音ヘッドホンシリーズの最上位である「MDR-XB1000」(実売価格2万円前後)や、オープンエア型の「MDR-
MA900」(実売価格2万1000円前後)に採用されている。
筆者の質問に笑顔で答える松尾氏
スピーカーの例を出すまでもなく、ドライバーユニットの口径が大きいほど、低音再現には有利になる。
しかし、苦労したのは実は中高域の再現だったという。
松尾:「ソニーのドライバーユニットの口径はそれまで50mmが最大でしたが、さらなる大口径化は1990年代からトライはしていました。
やはり振動板の口径が大きいほど低音の再現は有利になりますから。
しかし、低音が出るようになると中高域が埋もれて聞こえなくなってしまいます。
苦労したのは実は高域で
すね。
シミュレーターによる振動板の形状の解析などを使って、十分な高域特性も確保できるものがようやく完成したわけです」
振動板を大きくすると、重量も重くなるのは当然。
それを駆動する磁気回路も大きく重くなるので、ヘッドホンとしては使いにくくなる。
音はいいけど重いのでは長時間の音楽鑑賞の負担になる。
このため、磁気回路の設計にも苦労したそうだ。
なお、振動板の素材は一般的なPET系のフィルムを使用し、厚みや
断面形状を最適化することで実用化している。
重低音が自慢のXBシリーズも1号機のMDR-XB700では50mm口径のユニットを使っていたが、最上位モデルとして70mmユニットを搭載したXM1000になると、低音域の出方は明らかに違っていたという。
松尾:「MDR-XB1000は、70mmユニットの搭載を含めてかなり開発には苦労したモデルです。
低音再現ばかりでなくトータルの実力も高くなっているので、ぜひ一度試してほしいですね」
頭を包みこむような自然な広がりのある音を再生できるという「MDR-MA900」
なお、同じ70mmドライバーユニットを使ったモデルとしては、音楽鑑賞用とも言えるMDR-MA900もある。
両方を聴いてみると、これが面白いくらい音が違う。
MA900は余裕のある低音再現はあまり前に出ず、むしろ中高域の高解像な再現が印象的なモデルだ。
ユニットの特性の良さを活かした作りと言えるだろう。
開発に苦労しただけあって、いろいろな使い方のできるユニットのようだ
XBシリーズの話に戻ると、元々ダンス・ミュージックを意識したモデルだけあって、今後はフロアでズシンと響くような低音の再現を目指したいという。
もちろん、低音が鳴ればいいだけでなく、トータルでの実力も高める必要があるだろう。
松尾:「ダンス・ミュージックは次々に新しい曲が出てくる流行のジャンルですから、最新のクラブ・シーンのトレンドなども意識して製品づくりに活かしたいと思います。
最新のヒット曲が求める音にぴったりと合うものを作りたいですね」
金属、樹脂、木材、素材を変えると音は変わる!?
素材にこだわるオーディオテクニカ
独特の形状をした「ATH-CKM1000」
続いては、ヘッドホンメーカーとして人気の高いオーディオテクニカだ。
同社は昨年50周年記念として、アニバーサリーモデルも登場している。
なかでも「ATH-CKM1000」(実売価格3万5000円前後)は、カナル型ダイナミックヘッドホンの可能性に挑戦した意欲的なモデルだ
ATH-
CKM1000は、チタン鍛造ボディとアルミケースの採用など、あまり使われないぜいたくな素材を使用している。
まずはこういった素材をどうして選んだのか、オーディオテクニカの小澤博道氏(技術部 六課 マネージャー)と、國分裕昭氏(ゼネラルサポート部 営業企画課 商品開発グループ)に話を聞いた。
オーディオテクニカ ゼネラルサポート部の國分裕昭氏
國分:「CKM1000のボディーは、銀色の部分がチタンでロゴの入った黒い部分にアルミを使っています。
チタンは軽量で強度が高く音質的にも優れた素材で、金属アレルギーが出にくいなど、肌に触れるインナーイヤー型としては有利です。
しかし、加工しにくいためあまり使われることがありません。
だからこそ、
採用しました。
50周年記念モデルでもありますし、他社ではなかなかできない技術の高さをアピールしています」
見事なまでにツルツルな表面にも苦労が……
鍛造のチタンを削りだしたボディーは、さらに手磨きで研磨仕上げとなっている。
チタンというと食器などではザラザラとした質感のものもあるほどで、硬度が高いため表面加工は難しい。
それをここまでツルツルに仕上げるのはそれなりの手間がかかっているようだ
オーディオテクニカ 技術部 マネージャーの小澤博道氏
小澤:「研磨のための研磨材によっても、仕上がりの色が変わります。
そのため、特別な研磨材を選んで使用しています。
それでないと、ここまでの輝きが出なかったのです」
それにしても、たくさんの手間をかけてさまざまな素材を使うというのは、やはり音質に効果的だからなのだろうか。
例えば、金属や木材だとその素材の音がするのだろうか
小澤:「インナーイヤー型はボディーも小さいですし、素材の音がヘッドホンの音に直接影響するということはありません。
安価で使いやすい樹脂よりも不要な振動が少ないなど、音へのメリットもありますが、どちらかというと見た目の質感や重さなどが重要ですね。
金属ならば、静電気対策で非磁性かどうかも
肝心です」
金属アクセサリーにも見える美しいハウジングパーツ
確かに、この小ささとなってしまうと音への影響は少ないだろう。
個人的には見た目に高級感がある金属製のハウジングなどは割と好ましく思っていたが、加工しやすさはもちろんのこと、静電気対策などにも配慮して素材が選ばれているというのは気がつかなかった。
素材の吟味もなかなかに難しそうだ
そして、音に関わる一番のパーツであるドライバーユニットの話に移ろう。
AH-
CKM1000が使っている14mmドライバーは、同社のカナル型としては最大のサイズ。
口径が大きいほど低音が出やすいが、大きすぎればボディーが大きくなり、振動板が耳から遠くなってしまう。
ほんの数ミリの距離だが、ヘッドホンではこの影響はかなりあるという。
そのため、ユニットが大きければいいというわ
けではないようだ
ドライバー収納部にはポートが開いている
専用開発のドライバーは、数種類の素材から選んだ振動板を、厚みや形状を最適化して採用している。
ヘッドホンの振動板は厚みによる音の変化が大きく、薄くなると強度が弱くなり、クセが出やすいそうだ。
このあたりの選択にはオーディオテクニカ独自のノウハウがたっぷりとあるという。
そして、磁気回路には「パーメンジュール」という高磁性体を使用。
あまり聞き慣れないものだが、それもそのはず。
スピーカーでもコンプレッションドライバーの一部でしか使われていないもので、かなり高価な素材だそうだ
小澤:「パーメンジュールは、歪み損失が少なく、音の立ち上がりなど応答性が優れていることが大きな特徴です。
高価にはなってしまいますが、おかげでインナーイヤー型でもこれだけの音質を実現できましたね」
もちろん、優秀な素材や材料を組み合わせれば簡単にいいものができるというわけではなく、素材の厚みや形状の見直しなど、いくつものトライを重ねてようやく完成したという。
バッフル面(イヤーピースが付いている平らな部分)に付けた小さな穴でボディ内の空気圧を制御し、振動板を動きやすくする工夫な
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