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前回に引き続き、今回も青谷上寺地遺跡から出土した建築部材のお話をしたいと思います。本日の主役は「日本最古の蟻棧(ありざん)」=写真。
この建築部材は、板に細い棒状の木材を組み合わせたもので、長さ六五・三センチ、幅二三センチ、厚さ三センチのスギ製です。この板と棒材は、断面でみると図のような形をしており、まるでジグソーパズルのように
接合します。このように台形の溝(蟻溝)と、同じ形状に加工した (蟻 =ありほぞ)によって木材同士を接合する方法を建築用語で「蟻」といいます。この台形の形状が蟻の触覚に似ていることから名付けられたものと考
えられています。
「蟻」は複数の材をつなげる方法で、プラスチックでつくられたおもちゃのレールをはめるように同じ方向に長さを増す「継手(つぎて)」、一定の角度を持たせて接合させる「仕口(しくち)」、面積を増す「矧(はぎ)」など
いろいろ応用できます。これは弥生から古墳時代にかけての鍬(くわ)や、古墳時代の木棺にもみられ、現代の建築にも受け継がれています。
さて、今回確認された「蟻棧」ですが、「蟻棧」とは板に施された蟻溝に棒状の蟻 をスライドさせてはめるもので、これにより板の「反り」を防止したり、二枚以上の板を接合させるものです。室町時代に完成した「書院造
り」という建築様式では、「吸付棧(すいつきざん)」などと呼ばれることもあります。青谷上寺地遺跡で出土したこの蟻棧の場合、「反りの防止」と「二枚以上の板の接合」のいずれか、もしくは両方の目的をもっていたと推定
でき、建物の扉板等に使われたものと考えられます。時期は弥生時代中期(約二千年前)のもので、これまで室町時代の書院造りが最古とされてきましたが、約千五百年もさかのぼり、蟻棧としては日本最古です。
この「蟻」を作るには、蟻溝と蟻 のどちらも正確に加工されなければ、うまく接合することができません。この加工を可能にしていたのは切れ味のよい「鉄」の工具です。青谷上寺地遺跡ではこれまでに三百六十五点出
土しており、この数は全国でもトップクラスです。ただ道具だけがあっても、これほどの加工はできません。当時の弥生人の加工技術も、相当高度なレベルであったと考えられます。
前回の「弥生時代最長の柱」や今回の「日本最古の蟻棧」など、建築部材データベースの整備を進めることによって、新しい知見を得ることができました。今後もどんどんデータを追加していきますので、またみなさん
をびっくりさせるような大発見があるかもしれません。青谷上寺地遺跡出土建築部材データベースは、インターネットでどなたでもご覧いただけます。みなさんぜひ一度このデータベースにアクセスしてみてください。+/d
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