ID : 14620
公開日 : 2010年 1月13日
タイトル
地方の現場で考える、「緑の公共事業」がひらく未来
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新聞名
JanJan
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元URL.
http://www.janjannews.jp/archives/2246246.html
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元urltop:
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写真:
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先細る「公共事業」
先日、或る市町村役場の建設・農林担当者らと意見を交わす機会を得た。
この地域では国の直轄ダムと高速道の事業が実施されているが、都道府県と市町村の公共事業が“財政難”で先細りする中、ダムと高速の事業が地元建設業界としては“頼みの綱”であり、「事業仕分け」による工事の
中止は、文字通り“死活問題”になるという。
幸い、ダム・高速の両事業とも「完成まで後わずか」の進捗状況であり、中止や見直しのリストにはあがっていないが、来年度の予算付けは不透明であり、また、両事業が終了した後、新規着工の事業の予定はなく、早晩
、地元建設業界から「仕事がなくなってしまう」懸念は強いという。
今が“切り時”の人工林
一方、山間部に位置するこの市町村には、広大な森林が広がっており、戦後に植林された人工林が50年以上経った今、「伐期」を迎えつつあるという。
さらに、少し前までは輸入材に押され、山から木を切り出しても木材の価格が伐採の費用に満たず、「切るだけ赤字」の状態が続いていたそうだが、近年、中国経済の急成長で輸出用梱包材の需要が高まり、昨年の「経
済危機」による一時的な足踏みはあったものの、現在は市況も回復し「切ってもペイする」状況になっているという。
しかし、問題はその後である。切った後に「植林する費用が出てこない」のだという。
「切るに切れない」~林業を巡る経済状況
現在、「林業」には農業に勝るとも劣らない「手厚い」国の補助金が用意されている。
これにより国内林業は細々と間伐などの「育林」施業が行われているが、補助の対象となる「間伐」は森林全体の本数の20%までの「間引き」であり、木々が大きく育ち“高価”な木材となった際に行う「皆伐」の際には、
その後に新たな苗木を植樹し育てる「義務」が生ずる。
山に苗木を新たに植えてもそのままでは育たない。一緒に伸びる草や笹などに背丈で負け、成長が阻害されてしまう。
このため植樹後数年は、周りの草を刈るなどの作業が必要である。この費用が「重い負担」となっているのである。
切った木を出荷するだけなら「ペイする」経済状況だが、その後の植樹・育林の費用が捻出できないことから、「伐期」を迎えながらも本格的な伐採が行えないでいる、とのことであった。
「経済行為」の林業から「公共・環境保全」の視点に
戦後の復興期、全国的に植林が盛んに行われ、成長の早い杉やカラマツなどが大量に植林された。
その「間伐材」の活用先であった「炭鉱」(坑内の崩落を支える「坑木」に使用)は国内から消滅し、梱包材も「段ボール」にとって代わられ、成長した後の材木も輸入材に価格で太刀打ちできず、国内の林業は「高度経済
成長」とは裏腹に「衰退の一途」を辿った。
それがやっと「切るだけならペイする」状況に成っては来たが、植林の費用までは捻出できない。しかも、「グローバル化」した現在の経済下、50年、100年後の経済状況を見通すことは不可能である。
このため、全国の多くの山で伐期を迎えつつある現在、伐採及び新たな植林を可能とするには、「経済行為」としての“林業”から脱却した、「新たな視点」が必要となってくる。
奇しくも昨年、「コンクリートから人」への転換を訴えた民主党による「政権交代」が実現し、「脱ダム」による治水や「温暖化対策」としての視点から、森林の価値を見直そうとする機運が高まっている。
また、この機運は、森林資源を有する“地方”の「地域主権」の確立とも密接不可分であるが、実は民主党は10年近く前、「緑のダム構想」をまとめていたのである。
民主党の「緑のダム構想」とは
民主党は2000年11月、党の諮問機関の「公共事業を国民の手に取り戻す委員会」(五十嵐敬喜座長)の第一次答申として、「緑のダム構想」 http://kjc.ktroad.ne.jp/md.html を発表した。
(資料:「公共事業チェックを求めるNGOの会」 http://www.nagarask.com/kjc/index.html のHPから)
この報告書の第5章「新しい河川政策=緑のダム構想」では、
「河川行政の目標を『コンクリートのダム』から『緑のダム』に切り替えなければならない」
「我が国にある2,600のダムの総貯水量は202億トン、これに対し森林2,500万haの総貯水量は1,894億トンでダムの9倍」
「(間伐が必要な)人工林150万haの間伐はダム1個分の建設費用程度の2,250億円で行う事ができ、ダムをはるかに上回る効用を得る」
とし、
「現在計画されているダムをいったんすべて凍結し、ダム全てを『見直し委員会』で再検討を行う」
「『緑のダム構想』を実現するため、現行の環境庁、林野庁、農水省に、建設省河川局を統合した『国土保全省』を発足させる」
「国有林に関わる、林野庁の財政赤字を全て一般会計で補填し、技能職員を増やすと共に、民有林には補助金を支払う」
「中山間地域では『山のお守り料』として、現地住民に対して現金給付をするほか、全国の森を愛する人達の参加を求め、間伐、植林などの仕事を行う」
としている。
この構想は、10年の時を経た現在にあっても、決して色あせてはいない。
ただ、現在にあっては、「省庁再編」よりは「地方分権」に主眼がおかれることとなろう。
国交省や農水省にある公共事業予算を地方に配分し、その地域にあったやり方で、「緑のダム構想」を推し進めてはどうか。
これであれば、伐採後の植林費用も「地方の判断」で捻出は可能である。
私有林の場合は、伐採時に利益が発生した場合は、植林に要した費用を徴収するなど、ルールを事前に決めておけばよい。
地元では「ダム建設」も「植林」も業者は同じ
冒頭の市町村では、建設業者が数社ほどあるが、そのほとんどが土木・建設と林業の両方の登録業者となっているという。
地元の建設業者は、ダムや高速道の事業の下請けとともに、市町村や森林組合が発注する森林関係の事業も受注している。ダムや高速の事業が減少したとしても、代わりに森林関係の事業が発注されたら、対応は可
能である。
この市町村の建設業経営者の多くは“高齢化”が進んでおり、ダムや高速の事業終了とともに廃業を考えている業者も少なくないという。
「建設業が基幹産業」ともいえる地方にとっては大きな痛手である。
このような「終わりが必ずある」建設工事とくらべ、50年・100年と仕事が続く林業で生計を立てていくことが可能となれば、このような山間部の建設業にとっても「持続可能な産業」となろう。
木材・住宅や燃料の「地産地消」の“夢”
この市町村では公営住宅の老朽化も進んでおり、高度成長期に建てた住宅の更新時期を迎えつつある。
ここで3~4階建ての鉄筋コンクリートのアパートを建て直すとすると、地元の業者の“出る幕”はない。
しかし、これが平屋または一部2階建ての住宅であれば、地元の業者も建設主体となれる。木造住宅であればその木材を地元の山から調達することも可能となろう。
植林から住宅建設までを、全て地元の業者で行うことも「不可能ではない」のである。
また、この市町村では、高齢化が進む中、公設の診療所を中心に据え、その周辺に独居高齢者の住宅を集中して建設するという構想がある。
また診療所に隣接して浴場施設も設置し、銭湯代わりとするとともにケアが必要な高齢者の入浴にも対応させる構想である。
この浴場などの燃料に地元材の端材などが活用できれば、燃料の一部も「地産地消」が可能となる。
市町村役場の担当者の語ったこのような構想、住宅や燃料の「地産地消」の“夢”が現実となっていくよう、新政権の「地域主権」に基づいた政権運営には、大いに期待したいものである。
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