ID : 9105
公開日 : 2008年 10月20日
タイトル
瀬戸際で生き残った原生林 乱伐防いだ「心」博物館に
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新聞名
MSN産経ニュース
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元URL.
http://sankei.jp.msn.com/region/tohoku/yamagata/081012/ymg0810120218000-n1.htm
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写真:
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瀬戸際で生き残った原生林 乱伐防いだ「心」博物館に
朝日山地には山形県側の鳥獣保護区だけで3万8000ヘクタール、保護区外を含めると6万8000ヘクタールに及ぶ広大なブナの原生林が広がる。だが、この原生林が乱伐の危機にひんしたことがあった。
山形県西川町大井沢に住む朝日山地の生き字引、志田忠儀(しだ・ただのり)さん(92)によると、大井沢は集落から一歩出るとブナの国有林だったが、伐採するにも昔はオノとノコギリ、運搬は雪ゾリといった具合で、
量はたかが知れていた。それが昭和30年代になってチェーンソーが導入され、ワイヤによる集材が行われるようになると、営林署の伐採量は激増。昭和45年ごろには、チェーンソーが導入される前の 100倍以上に
も達したという。
「切り過ぎといっても一般の人にはピンとこないかもしれないが、毎日山に入って見ているとよく分かった。営林署に確認したら10年続けるという話で、それではブナがなくなる、大変なことになると思った」
営林署に働きかけてもらおうと、町長に頼んだりしたものの、国有林の多い西川町は弱い立場。それで、県知事に掛け合ったところ「ブナを切るななんて、頭がおかしいのではないか」と一蹴された。当時は一般的に「低
質材のブナは、切ってもよい木と考えられていた」という。
◇
志田さんがまず心配したのは、集落を流れる寒河江川が災害を引き起こさないかということ。寒河江川の上流の根子(ねこ)川沿いはブナの密林に覆われていて、雨が降ってもすぐには増水しないが、それらが切られて
しまったら、直接影響が出る恐れがある。そうでなくても下流域で災害が出る可能性は大きい。
ブナ林は、防災面だけでなく、昔から山村の生活と密接な関係があった。クマをはじめとする動物や鳥、渓流のイワナ、キノコや山菜などはみな、ブナ林の恵み。もう炭焼きや養蚕は成り立たなくなっていたが、キノコ栽
培は盛んだった。ブナの原木がなくなったら、それもできなくなる。
それに、マナスル初登頂を果たした登山家の槙有恒氏(故人)が来たときの言葉も、志田さんの心に残っていた。「ヨーロッパははげ山ばかりだが、日本の山はブナあり、谷あり、川が流れ、霧もかかり、多様な風景があ
る」というような趣旨だったが、槙氏は朝日連峰の素晴らしさを「もっと早く来ればよかった」と称賛したという。
ブナの乱伐をどうしたらよいか悩んでいたところ、富山県の立山で自然保護大会が開かれることを知り、出席。朝日山地での伐採の現状を報告し、乱伐阻止への賛同を得た。大会では住民運動を起こすことも提起され
、志田さんはこれを受けて「朝日連峰のブナ等の原生林を守る会」を結成する。昭和46年の夏だった。町内外の賛同者のほか、登山者たちも参加した。
最初、地元の寒河江営林署長と交渉したが、返答はなし。そこで秋田営林局長に面会に行ったが、事前に時間まで指定してきたのに、出張中で留守。林野庁に行っても、長官には会うことができなかった。結局、地元選
出の代議士に頼んで長官との面会が実現し、ようやく伐採の縮小・中止の約束を取り付ける。
当時の寒河江営林署の計画では、年間3万5000立方メートルを伐採することになっていたが、それを昭和47年から50年までの間は半分以下に制限し、51年以降は伐採を中止するという内容。こうして朝日山地のブ
ナ林は、瀬戸際で生き残った。
よくやってくれたと、今になって感謝する人は多い。しかし、道路に近いところなどはみな伐採された。「新潟側などは見事なブナ林が残っていますよ」と、もう何年か早く中止させられたら、との思いもあるようだ。
◇
大井沢地区では戦後、学校教育の中に自然研究が取り入れられた。きっかけをつくったのは、大井沢小中学校の校長を務めた佐藤喜太郎氏(故人)。昭和26年に始まり、子供たちの研究は数々の賞を受賞。高山植物園
や動植物の標本も整備された。校内の資料は29年に山形県から博物館の指定を受け、現在の西川町大井沢自然博物館に引き継がれている。
これらの資料のうち動物の剥製(はくせい)など大半は、志田さんが仕留めたものだが、自然教育は地区全体に自然を大事にする心を培ったようだ。山村の小さな学校は全国に知られるようになり、喜太郎校長と学校を
モデルにした子供向けの小説も出版された。その伝統ある学校も昨年3月、統合のため閉鎖になってしまったが。(本間篤)
■西川町大井沢自然博物館 大井沢小中学校の自然教育をきっかけに、地域ぐるみの自然教育の組織が生まれ、動物標本などを整備したのが始まり。現在の建物は平成7年に完成した。獣類26種、鳥類 120種、両
生類14種、植物 257種など豊富な標本を備え、朝日山地の自然を紹介している。この種の博物館は全国にもあるようだが、住民が主体になって作ったケースは珍しいという。
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