ID : 914
公開日 : 2006年 4月30日
タイトル
失われゆく木挽き職人の技を受け継ぐ
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新聞名
JanJan
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元URL.
http://www.janjan.jp/living/0605/0605010670/1.php
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元urltop:
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写真:
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15、6世紀から製材の機械化が始まる明治時代まで、柱や床板などありとあらゆる材木は、太い原木から大きなノコギリで挽きだされていた。そうした製材のための技能を持つ職人のことを「木挽こびき」とよぶ
。材木商が集っていた東京・深川の木場だけで、かつて300人はいたという木挽きだが、いま現役で働いているのは全国でも東京の林 以一さんとそのお弟子さんの2人しかいない。
もはや消えゆく運命の伝統的な技術を受け継ごうと、世田谷区が区民を募り「木挽きの会」が発足した。4月23日(日)には林さんと参加者が初顔合わせをし、大鋸おがとよばれる昔の道具を使って木挽きを体験。区民
による無形の民俗文化の継承に向けて一歩を踏み出した。
会では月に1度、林さんから直接指導を受け、1年をかけて木挽きの技術と木の見方や道具の使い方の習得をめざす。そして来年の春以降は、区が主催する一般区民を対象にした木挽きの初歩的な体験「教室」で、会
員たちが今度は指導者となって技術や知識を教える側にまわる予定だという。
活動に報酬はなく一方で会費もない。会員は「ボランティア」とよばれ、区民に伝統技術を伝えるリーダーとしての長期にわたる活動を期待されている。最後の木挽き職人・林さんの直伝であり、趣味的にたしなむ程度
では済まされない。人に教えることを考えれば、その責務は小さくない。
区による説明会でくわしい活動内容を知ったうえで応募してきたのは約20名。さらに抽選で定員の12名が選ばれ、第1回のこの日は8名が出席した。皆それなりの覚悟を持った人々である。いちばん若い男性で40代
後半。他は会社を退職するなど、本業をリタイアした方たちが主である。女性も事前説明会の時点では5名以上いたらしいが、力仕事であることを知ってか辞退したようで結果2名となった。
この日、紅一点だった山本さんは、「小さいとき近所の材木屋さんでよく遊んでいたので、木の香りや温もりがとーっても好きなんですよ」と、目をきらきらさせて話してくれた。意気込みは皆そうとうなものである。
林
以一さんは、昭和4年、千葉の生まれで東京・江東区に住んでいる。77歳の今も現役であるだけでなく、銘木とよばれる良質の木から美しい木目の材を効率よく挽きだす達人として名高い。記者も知り合いの材木商ら何
人かに聞いたことがあるが、この業界の人々の彼に抱く信頼と尊敬の念は一様に揺るぎない。それほどの名声を集めるのはどんな人物だろうと思うのだが、チャキチャキの江戸っ子のイメージとは逆に話し振りはいたっ
て温和で、どちらかといえばシャイなかんじの方である。
「私ら職人は話すのは苦手なんで……」と言う林さんは、終始控えめなのだが、ピンと伸びた背筋と木を見る目つきの鋭さには、半世紀以上この仕事を一線で担ってきた人の凄みがある。
まずは体験ということで、会員たちは木のなかでも柔らかい杉の丸太を大鋸で挽いてみることに。初体験にして“腕前”のお披露目である。林さんが墨つぼから糸を引いて丸太にタテに線を打ち(墨掛け)、そこに最初
の男性が大鋸の刃を何度かすべらせながらやっと入れた。ギーコギーコという音とともに杉のよい香りがほんのり辺りに漂う。作業の見た目は単純極まりない。順番を待つあいだ、興味津々のシニアの“1年生”たちは、木
についての薀蓄を互いに語り合い和気あいあいとしていた。
記者も最後にちょっと挽かせてもらった。約3kgという大鋸は、片手で持ちあげるにはけっこう重い。挽くときは両手を使うが、腕に力が入りすぎて何度か刃が止まってしまった。林さんから言われるまま、力まず体ごと動
かすとスムーズにゆくのだった。
1~2時間ほど全員が交替で挽き進んだのは1mそこそこ。その跡は見事に墨の直線からはズレてしまっていた。木というものは外見が同じように見えても堅さや木目はそれぞれ個性があって異なるという。また内部は
、節のあるところが堅いなど、強度が違うのでまっすぐに挽いているつもりでも曲がってくる。そのため大鋸が進むに従い、木のなかの変化に合わせて大鋸の刃の向きを鎚つちとヤスリで調整して軌道修正するのが木挽
きの本領のひとつなのである。これを「目立て」というが、木挽きは挽いているより目立てをしている時間のほうが長いことも少なくないそうだ。
単純な作業に見えて目に見えない木挽きの技能の奥深さは想像がつかない。「伝承」というには、あまりに高度な技だという気がするのだが、はたして会員たちはどこまで習熟できるのだろうか。これから1年間の「木挽
きボランティア」たちの姿を通して、「木を学ぶ」ということの何たるかを、そして無形の文化をめぐる行政と区民のパートナーシップの行く末を追いかけてみたい。
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