ID : 4765
公開日 : 2007年 9月19日
タイトル
宮大工1400年の技次代にじっくり若手育成、半世紀の経験生かす
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新聞名
日経ネット関西版
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元URL.
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/news003756.html
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元urltop:
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写真:
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団塊の世代が定年退職を迎え始め、日本のモノづくりの現場では技能伝承のあり方が問われている。大手企業などでもノウハウを引き継ぐ仕組みづくりに四苦八苦している。ただ世代を超えた技能伝承は今に始
まった問題ではない。1000年以上の歴史を誇る社寺建築の世界では、シニアが昔ながらの自然体で後進を指導する姿がある。
「そろそろ1人で墨つけもやりたいだろ。どの案件を任せようか」。宮大工の加藤組(大阪府富田林市)の社長で、半世紀のキャリアを持つ棟梁(とうりょう)の加藤博文さん(64)は、弟子入り11年目の大江克巳さん(30)の
仕事姿を見ながら考える。
5年で加工、10年で墨つけ――。くぎを使わずに、ほぞで木を組み合わせて神社や仏閣を建てていく宮大工の世界では、それぞれの工程を任せられるようになるまでに必要な一般的な年限をこう表現する。
複雑な意匠を作り上げていくには、柱と柱がきっちりかみ合うように削り、ほぞ穴を開けなくてはいけない。曲線の多い部材をしっかり加工できるようになるまで5年はかかり、設計に合わせて木材を切り出すための印を
つける墨つけを任すには10年が必要だ。
宮大工の修業はノミやカンナを研ぐことから始まる。その後ようやくカンナを使うことが許される。「兄弟子がカンナで削った木材と自分の削り方がどう違うかなど、とにかく見て覚えた」加藤さんは自らの駆け出し時代を
こう振り返る。「よほど努力しても10年は続けないと1人前の職人と認められない」という厳しい世界だ。
とはいえ、自主性に任せているだけでは職人は育たない。「大事なのは技量に合った仕事を段階的にどう与えていくかだ」。一口に社寺といっても規模や建設の難易度は様々なうえ、同じ現場に派遣される職人の顔ぶ
れによって若手が任される仕事の種類も違う。どの現場にどの職人を派遣するかが重要になる。
加藤組は社寺建築の名門、金剛組(大阪市天王寺区)からの仕事を専門で受ける宮大工集団の1つだ。堺市にある金剛組の材木加工場で木材を削って磨き、全国に散らばる現場に持ち込んで建物に組み上げる。
三重県の中学を卒業後、「手に職をつけたい」と16歳で宮大工の世界に飛び込んだ加藤さんも、そうやって育てられた。子供がいなかった先代の棟梁と養子縁組して跡を継いだのは40歳の時。それから20年余りで20
人の弟子を育て、13人は今でも加藤組の社員として働いている。
「お宮ができたときの喜びに尽きる」。加藤さんは自身を含めて宮大工を続ける職人の動機をこう考えている。高度な技術が求められる仕事だが「収入は普通の大工と変わらない」。それでも修業を続けていくのは、将
来国宝や重要文化財に指定されるかもしれない建物を造る喜びが大きいからだ。
加藤組では現在、円光寺(兵庫県稲美町)の山門と飯沼観音(千葉県銚子市)の五重の塔の仕事を金剛組から受けている。五重の塔は宮大工が職人人生のなかで1度出合えれば運が良いとされる。今回の物件は高さが
33メートル。完成すれば国内有数の規模になる。加藤さんにとっても初めての経験だけに「この仕事は本当に奥が深い」と目を輝かせる。
宮大工の間だけでなく、元請けの金剛組の側でも連綿と技術は伝えられている。入社46年の植松襄一・常務執行役員(64)は後輩の現場監督たちの相談を受け、アドバイスする日々を過ごしている。
「1番難しいのは木材の拾い出し」と植松さんは語る。拾い出しとは注文のことだ。資材はすべて金剛組が調達して、宮大工は加工を担当する。建物に必要な木材を過不足なく用意することが金剛組の採算を左右する。
社寺建築は開祖の没後100周年など節目の期日までに完成させることが求められるのが常。それに合わせるための工程管理が重要で「現場監督も1人前になるには10年はかかる」。
これまで約30人の現場監督を育ててきた植松さんにとって目下の課題は「空白の世代を埋めるため若い社員をいかに鍛えるか」。
聖徳太子が四天王寺(大阪市)を建設するために朝鮮半島の百済から招いた宮大工が578年に興したとされる金剛組。日本の法人で最も長い歴史を持つが、バブル期の土地投機で借金が膨れて自力再建を断念。2006
年に中堅ゼネコンの高松建設の傘下に入った。経営不振が表面化し00年ごろから採用を中断していたため、1人前に近づく入社10年に差し掛かる世代の社員がいないのだ。
高松建設のグループ入りとともに金剛家の第40代当主は退いたが、植松さんは「仕事の手順も顧客との関係も変わったわけではない」と強調する。金剛組の売上高は08年度見込みで55億円。規模は決して大きくないが
社寺建築では業界トップクラスだ。「過去の実績から金剛組に難易度の高い仕事が集まることで、宮大工も技術を伝承していける」。1400年続いた技術を次代に引き継いでいくために、加藤さんらシニアたちは今日も現
場に赴く。
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