『地球の悲鳴!』…の巻き
インドネシアよりの原木輸出は1985年1月1日をもって実質上の
禁輸となりました。
製材時代が始まりました。
『利は元にあり』です。
バイヤーですが伐採キャンプまで入り製材屋が買い付ける原木を
お助け検品する日々が3年間続きました。
原木検品に関しては我々原木バイヤーの方がプロだったからです。
平割り時代が終わり木工・集成材時代に入ってからは商売が
細かくなりすぎて経費も出ず山へ入る機会は永遠に失われました。
それから実に22年…、
久し振りにジャンビで伐採キャンプへ入る機会を得ました。
雨期明けが遅れて工場へ入ってくるべき丸太が入荷しない、
イライラしながら待っていても仕方ないので伐採状況を調べるために
山へ入ったのです。
友人の助言に従い、タバコを数箱持って行きました。
これぞ林道 パーム農園開発用皆伐現場
先ず入った現場はパーム農園開拓の為の森林皆伐現場でした。
目を覆いたくなる光景が広がっていました。
皆伐という言葉通り、全ての木を伐り尽しているのです。
伐採請負業者が製紙メーカーの下請けらしく幹の太さも樹種も問わず、
立っている木という木は全て伐られておりました。
衝撃です。
まるで木々の虐殺です。
皆伐現場には即刻パーム苗を植栽 パーム農園開発用皆伐現場
彼らは幹だけを残してあとはチップ工場へ持って行ってしまいました。
幹は細かく割らないとチッパーに入らないので嫌われるのです。
give & takeが成り立ちます。
『幹は任せてください。我々合板メーカーが引き受けましょう。』
…昔のように丸太の上を歩こうとしてけつまずき、左膝を挫きました。
次に入った山は択伐(選択伐採)をしておりました。
太くてしっかりした良材のみ伐採しているのです。
それ以外の幼木や使えない木々は伐らずに残しておりました。
カリマンタンで見た事のあるメランティーやニャトー、メルサワ、クルイン…、
懐かしい原木が横たわっておりました。みんな立派な原木でした。
22年振りの友人に出会ったような懐かしさを感じながら木口に
イロミ(検品用の小型斧)を打ち込んでその感触を楽しみました。
原木の上で休んでいると、森の声が聞こえます。
『カーン』…、『キーン』…、森が生きているのです。
択伐すれば生き残った木々が生長し森を維持してくれます。
直射日光が入らず表土も流れませんので森の生態系が壊れません。
これぞ我々が経験した本来の伐採現場です。
我々商業伐採業者は自然と共生していたのです。
決して森の虐殺者なんかではありません。
我々のしてきた事は正しいのだ!!!
…興奮のあまり、挫いた痛みを忘れて丸太から落ちました。
昼食を食べながら伐採請負人アヨンさんから聞いた話は衝撃的でした。
『ここいらも最終的には皆伐してパーム農園になるんだ。』
『こんな調子でパーム農園を拓いてゆけば、森は5年で無くなるよ。』
『俺も30年以上ここで伐採をやってきたがもうそろそろ限界だ。』
『森が無くなる前に自前のパーム農園を拓いてこの仕事から足を洗うよ。』
久しぶりに入った山は残り少ない命なのでした。
5年後には永遠に失われてしまう森なのでした。
『緑』は多くの命を育んでいるんのです。
だから森の声が聞こえるのです。
パーム農園のように生き物が居なくなった『緑』をエコと言えますか?
多様な生き物の声が聞こえない緑に、どのような意義を見つけましょうか?
皆伐は地球の髪の毛を引き抜くことです。
石炭採掘は地球の皮を剥がすことです。
我々は取り返しの付かない愚行を犯してませんか?
毛を抜かれ生皮を剥がされる、地球の痛みが感じられませんか?
…挫いた膝の痛みを和らげようと呼んだ按摩に肘を捻られました。
左膝と右肘に湿布を巻く生活です。
走れない体になって、地球の痛みを感じました。
ジャンビの山にはOrang Kebu(クブの人)と呼ばれる森の民が
住んでいるそうです。
彼等はインドネシア語を解さないので意思疎通が出来ません。
行き逢うと、『タバコをくれ』、とジェスチャーをするのだそうです。
タバコをあげると何事もなくすれ違えるのだそうです。
折角タバコを持って行ったのに、渡す相手に出会えませんでした。
森が消えれば森の民も普通の人になってしまうのでしょうか?
30年前、某商社タラカン駐在の大先輩が、飛び廻っていた小職に
『50過ぎるとガクッと来るよ』、と教えてくれました。
若さゆえか言われた時は何とも思いませんでしたが、今は容赦ない
時間の流れを感じています。 …これが老いと云うものでしょうか…
ブロックMにも飽きたし、孫も出来たし、そろそろ素直に老いますか…
皆伐された木々 左の枝はチップ用、右奥の丸太は合板用
皆伐跡 択伐された良材
択伐現場…周りには木々が残っている メランティー丸太
川辺のキャンプ 丸太で作った橋、この上を原木を積んだトラックが通る
(右端が)コントラクターのアヨン氏