桜の開花宣言に釣られて帰国しましたら、何と!!!
我が第二の故郷、ジャンビが日本で話題になっているではありませんか!
それも『人がトラに喰われた』、という(日本では)前時代的なニュースで…。
小職は1990年代後半に同じスマトラ島のリアウ州で仕事をした経験があります。
リアウ州では毎年のごとく住民がトラに襲われる被害が起こっておりました。
小職自身も夜間プカンバルーからドゥマイへ車を走らせていて豹のような動物を轢いた事があります。
運転手君に何を轢いたのか確かめるように頼みますと、降りもせずに『マチャンだ』、の一言。
マチャンとはインドネシア語で『豹』です。
『どうしよう?』と動揺しますと運転主君は『明日になれば住民が見つけて食べるだろ』とこともなげに
言って、降りて確かめようともせずに車を発進させたのでした。
『この日本人は何を心配しているのだろう…、たかが豹を轢いただけなのに…』、てな感じでした。
当時はトラが人を喰っても、人がトラを轢いてもあまり珍しくなかったのです。
確かに帰国前のジャンビ工場で昼食時に『トラが人を襲って殺した』という事件を耳にしました。
『人間が子供のトラを捕ったそうだよ』、
『お母さんトラが怒って近くの人間に復讐したらしい』、
『子供を捕られれば怒るのは当たり前だよ』、…その時は皆なこの意見に納得したのでした。
それが日本に帰ってくれば大変な話題に。
ニュース曰く、 『住宅地のすぐそばにトラが潜んでいるという、 夜中にウワォーンで鳴くので夜7時を過ぎると怖くて外に出られない』
…まるでジャンビの街に人喰いトラが出現するかのごとき印象を与えますね。
ジャンビの街はスマトラ島の田舎ですがそれなりに都会です。トラが潜むような余地はありません。
夜中に『ウワォーン!』って声が聞こえたことはありません。
トラは喰うために人間を襲うようなことはしません。トラのほうが人間を避けます。
例外は突然人間と遭遇して驚きのあまりこれを襲う、もしくは子供を守ろうとしてこれを襲う、
いずれ食そうとして襲うのではありません。
スマトラでトラに遭遇して襲われる事件は毎年起こっており悲しいことですが決して珍しいことでは
ありませんし、最近になって始まったことでもありません。
森にトラが住んでいるのですから昔から人間との遭遇は有ります。遭遇すれば驚いて襲います。
トラが人里に出てきたのか…、人間が森の奥まで入って行ったのか…、
・・・果たしてどちらが正しいのでしょうか?
人間の立場から見ればトラが出てきたとなるのでしょうが、トラの立場から見れば人間が入ってきたのです。
昔から起こっている人間とトラとの遭遇戦も、言い改めれば、
『違法伐採がトラの住処を奪った』、『バイオ燃料をとるためのパーム農園がトラの住処を奪った』と、センセーショナルな文言になるのです。
小生は『そうではない『、とは言いません。 そういう面もあるでしょう。
しかし…、
森林の奥に小屋掛けすればリスクが出るのは当たりまえです。
トラだけでなく蛇も出ますし毒を持った蜘蛛もサソリもムカデも出ます。
1980年代初めに湿地帯の伐採キャンプに寝泊りしていた小職が言うのですから間違いありません。
何も今に始まったことではないし、ジャンビに限定されたことでもないのです。
そんな各地・各種・各様のリスク中で敢えてトラと違法伐採を絡める言い方に引っかかるものを感じます。
トラが怖がっているのは人間でしょう。
儲けのためにトラを捕まえ皮を剥いで売り飛ばす強欲な人間です。
強欲と言われている違法伐採業者はまだましな方です。
零細な伐採業者が儲かりそうな木を選んでこそっと伐採しそれを売って儲け生活の糧にするのですから。
森林に火をかけその全てを焼き尽くしてパーム農園を拓く大手資本家のほうが強欲です。
木は金にも換らず、ただCO2となって空しく大気中に飛び散り、あとに煙霧を残すだけですから。
違法伐採で森林は消えません。
多くの儲からない不経済林や幼木が残るのですから。人間が儲けて尚且つトラの棲む場所も残ります。
パーム農園開拓用焼き払いは地上の全てが消えます。勿論トラも消えましょう。
森林伐採が生態系を壊しているわけではないのです。
生態系を壊すような皆伐採をすればその業者は売れない不適材の山を抱えて潰れるでしょう。
チェンソーを使って木を伐ること自体は安いのですが、売れる場所まで持ってくるコストが高いからです。
当然彼らは高いコストを掛けてでも売れる良木だけを選別して伐採し伐出コストに利益を上乗せして売るのです。
伐採のプロである”LOGGER”のしていることは、売れる木だけを伐る選択伐採(択伐)なのです。
売れる木なんて100m四方に数本しかありません。故に伐採後にも多くの木が残され生態系は維持されるのです。
生態系を壊しているのは焼き払いで皆伐と同じ効果を得ている(パーム)農園開発なのです。
リアウ州では農園開発権を得た業者が先ず択伐をしてこの木を売り払って儲けた上で、残された木々に火を掛け農園を作らず逃げてしまった跡地をたくさん見ました。
緑豊かな森林が広大な草地(サバンナ)になり果てていました。
これが焼き払いの結果です。勿論トラは棲めません。
跡地にパーム椰子を植えても結果は同じです。蛇しか棲めないパーム農園と言われております。
この2点がごちゃ混ぜになって、『伐採は悪』、という論調が作られるのは誠に面白くないことです。
はっきり申し上げます。・・・『択伐』は悪くありません。悪いのは『皆伐』です。
勿論、プロの伐採業者は損が出る皆伐は致しません。
皆伐もどきをしているのは農園業者でありプロの森林伐採業者ではありません。
農園業者がしていることは森林の焼き払いなのです。これがトラの棲む場所を奪っているのです。
マレー虎と云うぐらいですのでトラは人間が住むようになる前からスマトラ島にもマレー半島にも
棲んでおります。
マレー半島のトレンガヌに住んでいた谷豊という福岡出身の日本人を諜報員に仕立て上げ、
馬賊の親玉として活躍させたドラマが『怪傑ハリマオ』です。
我々は小さい頃白い布を頭に巻いて遊んだものでした。
谷豊はその後マラリアに罹り31歳の短い生涯をシンガポールで終えるのですがその虚像はいまでも
我々の記憶の中に英雄として生きております。
トラの眼を見てください。
正義の味方、永遠のヒーロー 『ハリマオ』は、今まさに怒っているのです。
自然を恐れぬ人間の横暴に対して…、自然を尊ばぬ人間の慢心に対して…。
言い忘れました。『ハリマオ』とはマレー語、インドネシア語で虎のことです。