『悪夢』・・・の巻き
海外で仕事をしておりますと見る悪夢にパターンがあります。
・一つはパスポートを失くす夢、
・もう一つは飛行機に乗り遅れる夢です。
夜9時の帰国便に乗るため2時間前のチェックインを目指し余裕を持って
5時にはホテルを出ました。
予想通り夕刻の渋滞に引っ掛かりましたがその為にチェックイン時間の
2時間も前にホテルを出て来た訳ですので余裕綽々、
鼻歌交じりで周りの車を見てました。
渋滞の真っ只中でこの余裕、やはり早く出てよかった・・・
という思いに浸っている体に不自然な振動が伝わりました。
ボボボ、ボボボ、ガクン、ガクン、運転手に言いました。
『渋滞の真ん中でエンストは拙い!車を端に寄せてエンジンを見よ!』
ボボボ、ボボボを繰り返しながら何とか道路脇の少し空いている隙間に
車を乗り入れた途端、ガックン、と止まってしまいました。
後ろからはクラクションの洪水です。
何とか後ろを車が通れるだけ空けて運転手がボンネットを開けました。
エアコンを止めて車中で待ってましたが中々直りません。
時間を見ますともう40分以上ロスしております。
持っていた余裕が吹っ飛びました。
『オイオイ、何とかなるのか?』
運転手は必死の形相で返事もしません。
『タクシーを取るべきか、このまま直るのを待つべきか・・・?』、
思考がぐるぐる巡っておりました。
最悪日本での予定を全てキャンセルして帰国をやめればいいのだ。
今夜もブロックMで一杯のめるぞ!と気楽なことも考えてみました。
イヤイヤ、次に渡印するチケットも買ってあったんだ。。。
ここで帰国を取りやめるとチケット半券+次回渡印チケットもパー。
しめて20万円ぐらいの損。
これは拙い!
タクシーを運転手に探させて彼と車を乗り捨ててここから空港へ向かおう、
周りを見渡すと夕刻の時間が過ぎ行く分だけ渋滞が酷くなっており
タクシーも皆渋滞の渦に巻き込まれております。
タクシーを使っても渋滞に巻き込まれて遅刻する。
このまま直るのを待って出発しても遅刻に変わりなし。
同じ遅刻をするなら、ホテルへ戻る事態も考えて自分の車のほうが
便利で安全だ・・・”!、
『待とう・・・』
ちじに乱れる心を笑顔に押し込んで優しく運転手に聞きました。
『直りますか?』
一生懸命修理している運転手君は返事もしません。
そのうちどこからかレッカー車が来ました。
『曳いてあげようか?』
『うるさい!』と初めて運転手君が口をききました。凄い剣幕でした。
そんなに邪険に扱わず相談したらどうなのだ?、と思いながらぼんやりと この光景を車中より眺めておりました。
そのうちブルルッ、とエンジンが掛かりました。
今度はボボボという変な振動はしません。
シメシメ、これで助かった、と思うまもなく周囲の状況が目に飛び
込んできました。渋滞は最高潮、車は全く前に進めません。
もう駄目か・・・
以前もこんなことがよくあったが致命傷になる前にいつも潮が引く如く
事態は好転するのだ。今回もそうなるはずだ!
この気分を確信にまで高めるがごとく、必死で思い込みました。
『何とかなる!』、『何とかなる!』
『動け、動け、動け』、『前が開いている、割り込め』、『どけお前等!』
考える限りの罵詈雑言を胸のうちで喚きながら運転手君には
『間に合わなければホテルへ戻ればよいのだから 安全運転で行ってくれ』
と、鷹揚な態度を崩さないでおりました。
そして矢張り何とか成ったのでした。
運転手君は空港ターミナルへ着くと『フッ』と息をつきました。
余程緊張していたのでしょう・・・車の故障は彼の責任ですから・・・
鷹揚な態度を保っていた小職にしてもこの状況を写真に納めるのを
忘れるぐらい緊張していたのです。
パスポートを失くしたときはもっと惨めでした。
ウジュンパンダン(現マカサール)の空港待合室でアテンドしていた
日本からのお客さんと一緒にチェックインに間に合って待合室でホッと
くつろいでいる時でした。
天啓の如く心がジワジワッと騒ぎだしました。
『Jangan2 Passportnya ketinggalan
(なぜか思いはインドネシア語で湧いてくるのです)
まさかと思うけどポスポートを忘れてないだろうな・・・』
早速鞄を開いた小職の目が宙を泳ぎ始めました。それまで陽気に話していた小職が目をあらぬ方向に飛ばしている様子を
見てお客さんは聞きました。
『どうしたの?、忘れ物でもしたの?』
正直に答えました。
『ウン、パスポートを忘れたみたい・・・』
お客さんは云いました。
『それは大変だ!、どこに忘れたの?
パスポート失くすと大変なんだろう?
君だけここに残って警察へ届けるとして
俺はどうしたらいいの?
一人で帰れるかな?』
『イエ、誠に申し難き事ながら、失くしたのはお客さんのパスポートなのです』
パニックでした。
お客さんは虚ろな眼で吐きそうな様子でした。
二人して待合室を飛び出しタクシーに飛び乗って一直線にホテルへ。
ホテルへ戻る道すがら小職は必死に祈りました。
『どうか、パスポートがホテルに置き忘れられていますように・・・』
マカサールゴールデンホテルのロビーに飛び込んだ小職の目に
チックインカウンターの端に置かれている茶封筒が飛び込んできました。
セフティーボックスから出して支払いをしている間カウンターの端に置いて
そのまま忘れて出発したのでした。
お客さんは真っ青な顔で黙って小職の横に立ちすくんでおられました。
空港では虚しく2人の名を呼ぶアナウンスが繰り返されていたそうです。
『FINAL CALL、FINAL CALL・・・MR。KAMIYA & MR。IIDA
あと2名のみ当機はお待ちしております。速やかにご搭乗下さい。』
3日明けずにホテルからホテルへ移動する小職の人生にはこのような
葛藤が繰り返されるのです。・・・そうして過したインドネシアの30年間なのです。
『人生は思い込めばその通りになる』
・行ける、と思い込めば行けるのです。
・駄目だ、と思い込めば駄目になるのです。
『行けるも駄目も、全て自分の思い込み次第』、なのです。
・・・人生は思い通りになるものなのです。
追伸)
今回は状況写真を撮る心の余裕がありませんでしたので代わりに
珍しい食べ物の写真をつけます。
ジャンビのABADIホテル朝食ブッフェに出ていた『きゅうりポンチ』です。
中にはキュウリのみじん切りと透明な角切り寒天が入っております。
フルーツポンチの様に甘い味がつけてありますが食べた食感と臭いは
間違いなくキュウリのものでした。
(美味しいかって?・・・、想像を逞しくして味わってみてください。)