さる3月4日に「土木事業への間伐材利活用シンポジウム」を日本土木学会、日本木材学会、日本森林学会の共催で開催したが、その内容を紹介しながら土木事業への木材、特に国産材の利活用の展開を考えてみたい。
土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会の発足
昨年来、日本土木学会からの積極的な申し出があって、上の3学会で「土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会」をつくろうという話になった。過去においては土木の分野では多くの木材を利用していたが、その後、大半の資材や材料は鉄とコンクリートとに移行し、「土木」といいながら木が表に出ることは少なくなっていた。しかし最近の地球環境への社会の関心の高まりから、材料の製造に伴うエネルギー消費量やCO2排出量などの環境負荷が低いだけでなく、炭素を貯蔵している材料である木材に熱い目が注がれるようになってきた。このような状況を背景に、学会横断的な研究会を立ち上げ、土木分野への木材利用の拡大を目指して、供給側である森林や木材の専門家と使う側である土木分野の専門家が協力し合い、土木事業で木材を使っていく際の課題の抽出、利用拡大に向けた技術開発とその方向性の検討、異分野間の学際的研究の推進をはかることになった。
このシンポジウムは研究会のキックオフの意味合いもあったが、土木、木材、森林をキーワードとした3学会からの基調講演の後、「間伐材の利活用をおこなうためにはどうすればよいか?」をテーマに、行政、研究、林業経営、市民のそれぞれの立場からパネル討論が行われた。
土木利用における課題
シンポジウムの基調講演者の一人である濱田政則早稲田大学教授(前土木学会会長)からは「土木における木材活用と環境対策への貢献」と題して、土木における木材利用の変遷と最近の取り組みの紹介があった。政策的には1955年の「木材利用の合理化方策」の閣議決定による措置以降、道路橋示方書から「木くい」が姿を消すなどの杭基礎設計等において木材の記述が変わってきたが、現状では足場や支保材はほとんど金属製になっている。土木用材としての木材については、強度や耐久性の信頼性が金属製に比べて低く性能が不均質であること、大量のニーズに対する安定供給に課題があること、標準図や歩掛かりが未整備であることから工事仕様へのマニュアル化が難しいこと、等が指摘されている。
しかし、1997年の東京駅前の旧丸ビルの解体工事で、設置から75年経過したベイマツの基礎杭が当時の姿で現れたことは、土木関係者に木を再認識させるきっかけになった。木材は生物材料であるため、もちろん腐るが、そのためには空気、水分、温度の条件が揃っている必要があり、どれかが欠如しても進行は停止する。また、防腐処理によって長期の耐久信頼性が担保されることも実証されている。講演では、土木における旧来からの木の利用と新たな展開が紹介されたが、道路盛土基礎地盤での「パイルネット工法」等は、環境負荷の低い木材の土木分野への新しい利用法の一つであろう。
土木分野での展開
土木学会では建設技術研究委員会の中に自然素材活用技術小委員会(委員長:石田 修氏)を設け、CO2排出を抑制する木、石、土、などの自然素材による長寿命で優良な社会資本の整備やストックを目標に、土木構造物への展開のための提案と課題について検討が行われてきたが、シンポジウムではその活動概要が報告された。
そのうち、土木分野での木の利用に関する提案をいくつか拾ってみると、①森林育成のための間伐材を利用した治山ダム、道路施設、法面防護工、水路、②現場近くから産出する木を使った遊歩道や治山施設、③伝統工法の見直し気運の高まりによる木製の聖牛、粗朶沈床、牛枠などの河川構築物、④多自然型河岸防護工、⑤木杭利用による地盤改良や基礎工事、⑥木による大型公共構造物や橋、等である。最近ではこのような動きが具体化され、加速されつつあるが、今後の積極的な利用のためには、環境負荷の評価、プレキャスト化、設計基準の整備、啓蒙活動、伝統工法の伝承、等の必要性を指摘している。また、土木構造物への木の利用については、各地の地方自治体レベルで標準図や標準歩掛りを含んだ設計・施工マニュアルが整備されつつある状況が報告された。
土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会の紹介を兼ねて、「土木事業への間伐材利活用シンポジウム」の内容の一端を述べたが、供給、加工、使用のそれぞれの立場からの密接な連携によって国産材の利用促進がはかられることを期待したい。