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今村祐嗣のコラム

気づかいと思いやりの木材

本学会材料部門委員会では年4回の定例研究会を開催しているが、この2年間に発表された講演テーマを列記すると次のようになる。245回:紙と水溶性高分子、「シックハウス」問題と「健康住宅」への取り組み、246回:熱分解反応の制御による木質資源の高選択的な燃料およびケミカルスへの変換、木質ボードの再原料化、247回:枠組壁工法住宅の構造用木材・木質ボードの耐久性と維持管理の実態、248回:化学修飾木材とその利用、248回伝統軸組工法―京町家にみる木の特性の生かし方、木の文化都市・京都の再生―京町家ブームの背景を探るー、249回:木質ボードの二次加工、ユーザーが知って欲しい木材の知識、250回:植物ABCタンパク質スーパーファミリーと物質輸送、金属板の塑性加工の概要、251回:木材の水分非平衡下におけるクリープについて、VOC規制と企業としての取り組み、252回:京都府における環境に優しい公共事業の取り組みについて、地域材の利用がもたらす資源の循環、253回:中国の木材事情、うるわしの国ウルグアイの林業・林産業事情。

 研究会の講演にはなるべく話題性のある題材を選んでお願いするということになっているが、開催回数の制限もあり木材・木質材料の抱える多くの材料的課題を網羅することはできない。しかし、この研究会の講演題目を見ただけでも、木質関連の社会的関心や技術的動向をうかがうことができる。すなわち、木材・木質材料の性能向上や耐久性付与に向けての技術開発、塑性加工や化学処理などの新しい加工・機能化技術、木質資源からのバイオマスエネルギーや新素材・ケミカルスの開発、木質材料のもっとも主要な用途である住宅における今日的課題、廃棄物処理やリサイクルの問題、緑の公共事業や持続可能な循環型社会の構築、木の文化や伝統的な木の空間の復興、輸入材に依存するわが国の林業事情と海外協力、さらには樹木が創り出す機能性成分の研究、等々である。

新たな機能の創出という面と、生活や文化という身近な材料としての役割を抱える木材であるが、その一面を私が専門とする耐久性という分野でみてみよう。木材は本来耐久性のある材料である。これは、世界最古の木造建築物である法隆寺を1400年以上にわたって支えてきた木材の驚異的な性能を引き合いにだすまでもない。しかし、木材の場合、腐れやシロアリの被害は年数がかなりたっても全く発生せず耐久性が維持される反面、わずか数年で被害が進行する場合もある。建立から永い歴史をもっている日本の寺社建築では、耐朽・耐虫性のある樹種の使用とともに、水への配慮をした構法と十分な保守管理によって耐久性が確保されてきた。特に保守管理の重要性が指摘されている。

 しかし、最近の住宅では、生活機能をより重視することから、水廻り箇所の分散化や高気密性によって耐久性が二次的に位置付けられ、また、大壁工法の増加によって劣化の早期発見も困難になっている。また、使用される樹種の多様化や各種の木質材料の出現、釘や金物接合の多用、アメニティ感覚の重視による木材の屋外分野への使用拡大など、むしろ劣化を促進する要因が増加している。

 このため従来から多様な耐久性向上戦略がとられてきた。かっては毒性の高い薬剤処理がもちいられてきたが、最近ではより環境負荷の低い処理や劣化微生物の生理・生態を考慮した複合的方法が取り入れられている。しかし、腐朽菌やシロアリと共生して耐久性を維持するというのはそう簡単ではない。そこで、劣化の早期発見や維持管理技術ということがますます必要となってきている。いわば、気づかいで“劣化発見”し、“思いやり”で長持ちさせようということである。しかしこれは木材・住宅の現状と今後を考えた技術開発の方針のようなものであって、具体的な手法としては、非破壊検査や生物工学的な先端技術が試みられている。実際、国の政策方針でもある住宅の耐用年数の延伸や価値の向上には、劣化診断とメンテナンスが不可欠となっている。
樹木が光合成で空気中の二酸化炭素を吸収・固定した資源が木質であり、これを木材・木質材料として長く使うということは炭素固定期間を延ばすことになる。その意味で長寿命建造物の法隆寺は、地球温暖化防止にも一役買ってきたともいえる。


(正会員・木質材料部門委員会委員長時 材料、53巻、357ページ、2004)

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