とち
栃、橡 馬栗(ウマグリ)、七葉樹
高さ30m、直径2mにも達する。
北海道南部、本州では日本海側に多く、四国は石鎚山脈周辺、九州ではごく限られた地域にのみ分布。山の湿潤な渓流沿いなどの水が豊富で肥沃な
土地によく見られる。庭園樹、街路樹にも植えられるが、潮風には弱く、海の近くは不向きである。皇居桜田門外にはりっぱな並木がある
トチの葉は大きく小葉が放射状についているので、見かけるとすぐそれとわかる。この葉でチマキやカシワ餅を包む地方もある。七葉樹はその名前に納得
がいくが、中国産の別種の名。
5~6月頃に枝頂に多数の黄白色の花をつけ、花からは蜜がとれ、トチ蜜(とちみつ)といい、最高品質として知られている。
果実は分厚い皮に包まれ、熟すと3裂して通常1個だけクリに似た大きな種子が出てくる。アクが強くそのままでは食べることはできない。このアク抜きの作
業は大変なもので、方法は人や土地によって異なるが、2-
3週間ぐらいは掛かるだろう。アク抜きは嫁の腕の見せ所といわれた。アクを抜いた実は臼でついてトチ餅や栃粥等にする。保存することもでき、十年はもつ
という。大きい木では1本から36リツトルの実が採れるという。昔は飢饉などの対策として貴重な保存食品であった。このためこの木独特の掟や風習、規則も
生まれた。
トチを留木(とめぎ)として伐るのを禁じたり、焼畑で類焼させても厳しい取調べがあつた。山を売買する場合でも、この木は決して伐らないという不文律のある地
方もあつた。トチを持っているかどうか、本数などは縁談にも影響し,飛舞河合村などでは「スエキドチ」といって嫁出する娘に里のトチの幾本かを持参金代
りに分け与えたという。
しかし、このような掟などが、なくなってきたのは、食料が豊富になってきて、トチノキに頼らなくてもよくなったからである。縄文時代から続いた先人の知恵も
なくなろうとしているが、はたしてこれでいいのだろうか。
西条八十の「巴里の屋根の下」やシャンソンの「枯葉」で有名なパリの並木道。何と言ってもシャンゼリゼ通りのマロニエ並木だろう。このマロニエはトチの
仲間でセイヨウトチノキである。東京銀座のマロニエ通りにもトチノキと混植してあり、見ることができる。
木材の利用としては栃の木は少し変わったところがある。常識的には心材を使用するが、栃の木は辺材を利用する。これはトチノキに限っては、心材は収
縮が大きく狂いやすいからである。しかし辺材は、そのまま白木を利用するとやはり腐りやすい。そこで漆の利用がでてくるが、トチノキトよく合い塗りやすい
。いい漆の商品ができるが、現在は材が少なく入手に苦労しているらしい。
木材業界からすると、この木の産地としては岐阜のものが最高である。これは板にした場合にすばらしい杢目が得られるためや、辺材が多く採れることによ
るためだろう。銘木といえば、前彫り床柱にも利用されるが、これは一級品ではない。またバイオリンの裏板にも利用されるが、これもカエデの代用的なもの
である。
- 学名
- Aesculus turbinata
- 科
- トチノキ科
- 属
- トチノキ属
- 英名
- Japanese horse-chestnut、 Horse-Chestnut、Marronier
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