10 |
杖 |
藤蔓の杖 |
縞セルの背広に、麦稈帽、藤蔓の杖(ステッキ)をついて、やや前のめりにだらだらと坂を下りて行く。 |
10 |
フジ |
藤蔓の杖 |
縞セルの背広に、麦稈帽、藤蔓の杖をついて、やや前のめりにだらだらと坂を下りて行く。 |
13 |
庭樹 |
庭樹の繁り |
いや、庭樹の繁り、雨の点滴、花の開落などいう自然の状態さえ、 |
19 |
柴垣 |
小柴垣の中に |
賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 |
27 |
森 |
裏の森 |
あくる日は日曜日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。 |
27 |
ケヤキ |
欅の古樹 |
欅の古樹に降りかかる雨の脚(あし )、それが実に長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない |
27 |
古樹 |
欅の古樹 |
欅の古樹に降りかかる雨の脚(あし )、それが実に長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない |
38 |
森 |
酒井の森には |
矢来の酒井の森には烏すの声が喧(やかま)しく聞える。 |
39 |
サンゴジュ |
珊瑚樹の大きいのが |
大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。 |
39 |
サンゴジュ |
珊瑚樹 |
突如(いきなり)その珊瑚樹の蔭に身を躱(かく)して、その根本の地上に身を横えた。 |
39 |
マツ |
松の樹 |
大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。 |
39 |
ケヤキ |
古い欅の樹 |
大きい古い欅の樹と松の樹とが蔽い冠さって、左の隅に珊瑚樹の大きいのが繁っていた。 |
39 |
電信柱 |
電信柱 |
電信柱に突当って倒れそうにしたり、 |
39 |
根 |
根本の地上に |
突如(いきなり)その珊瑚樹の蔭に身を躱(かく)して、その根本の地上に身を横えた。 |
40 |
桃割 |
桃割に結って |
今の細君が大きい桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、 |
40 |
桃割 |
その桃割姿 |
その桃割姿を丸髷姿まにして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、 |
41 |
マツ |
お濠の松 |
ふと見ると、赤銅のような色をした光芒(ひかり)の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。 |
42 |
マツ |
松の木蔭 |
土手の上、松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。 |
42 |
木蔭 |
松の木蔭 |
土手の上、松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。 |
45 |
イチョウ |
鴨脚の大きい裁物板 |
前に鴨脚の大きい裁物板(たちものいた)が据えられて、彩絹の裁片や糸や鋏やが順序なく四面(あたり)に乱れている。 |
45 |
裁物板 |
鴨脚の大きい裁物板 |
前に鴨脚の大きい裁物板(たちものいた)が据えられて、彩絹の裁片や糸や鋏やが順序なく四面(あたり)に乱れている。 |
45 |
下駄 |
下駄の音が |
下駄の音がする度に、今度こそは! 今度こそは! と待渡ったが、 |
46 |
閾 |
閾の処に |
「大変遅くなって……」と言って、座敷と居間との間の閾(しきい)の処に来て、 |
46 |
後歯 |
軽い後歯の音 |
小きざみな、軽い後歯の音が静かな夜を遠く響いて来た。 |
46 |
格子 |
格子が開く |
果してその足音が家の入口の前に留って、がらがらと格子が開く。 |
50 |
ぶどう |
葡萄棚 |
隣家の葡萄棚 |
50 |
柳行李 |
柳行李 |
午頃(ひるごろ)に荷物が着いて、大きな支那鞄、柳行李、信玄袋、本箱、机、夜具、これを二階に運ぶのには中々骨が折れる。 |
50 |
柳行李 |
柳行李 |
押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗の蒲団夜具の一組を他の一方に入れようとした時、 |
50 |
大樹 |
大樹の繁茂が |
裏の酒井の墓塋(はか)の大樹の繁茂が心地よき空翠(みどり)をその一室に漲(みなぎ)らした。 |
54 |
森 |
森を鳴らして |
さびしい風が裏の森を鳴らして、空の色は深く碧く |
54 |
松茸 |
松茸が並べられた |
八百屋の店には松茸が並べられた。 |
54 |
キリ |
庭の桐の葉 |
垣の虫の声は露に衰えて、庭の桐の葉も脆(もろ )くも落ちた。 |
54 |
葉 |
庭の桐の葉 |
垣の虫の声は露に衰えて、庭の桐の葉も脆(もろ )くも落ちた。 |
55 |
森 |
月の森 |
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。 |
55 |
森 |
雨の森 |
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。 |
55 |
森 |
闇の森、 |
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。 |
73 |
落葉 |
落葉 |
垣根道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。 |
73 |
垣根 |
垣根道 |
垣根道には反かえった落葉ががさがさと転がって行く。 |
73 |
黄葉 |
銀杏樹も黄葉 |
裏の森の銀杏樹も黄葉(もみじ)して夕の空を美しく彩(いろど )った |
73 |
イチョウ |
銀杏樹も黄葉 |
裏の森の銀杏樹も黄葉(もみじ)して夕の空を美しく彩(いろど )った |
73 |
木枯 |
木枯の風 |
野は秋も暮れて木枯の風が立った |
73 |
森 |
裏の森 |
裏の森の銀杏樹も黄葉(もみじ)して夕の空を美しく彩(いろど )った。垣根道には反りかえった落葉ががさがさと転がって行く。 |
89 |
階梯 |
二階の階梯 |
二階の階梯をけたたましく踏鳴らして上って、芳子の打伏している机の傍に厳然として坐った。 |
103 |
行李 |
行李やら |
行李やら、支那鞄やらが足の踏み度も無い程に散らばっていて |
104 |
行李 |
行李や書籍の |
光線の暗い一室、行李や書籍の散逸せる中に、恋せる女の帰国の涙、 |
104 |
行李 |
行李 |
玄関に出した行李、支那鞄、信玄袋を車夫は運んで車に乗せた |
104 |
栗梅 |
栗梅の被布 |
芳子は栗梅の被布を着て、白いリボンを髪にさして、眼を泣腫していた。 |
109 |
古樹 |
古樹には潮の鳴るような |
裏の古樹には潮の鳴るような音が凄じく聞えた |
110 |
柳行李 |
大きな柳行李 |
大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡(から )げてあって、 |