トウヒ
解説
マツ科トウヒ属。常緑針葉樹。本州中央部の山地の1500m以上と北海道に隔離分布、過去には連続分布していた。モミ属のシラビソ、オオシラビソやツガ属のコメツガなどと混生する。また、北海道のものをエゾマツと呼び、トウヒはその変種である。最終氷期、それ以前の氷期に本土まで南下して本州の広い範囲に分布していたエゾマツが、氷期の終わりとともに本州中部の山岳地に取り残された群落の子孫である。当然、最終氷期には両者の中間点である東北地方にも広く分布していたが、現在は吾妻山より北の東北には分布しない。これは、トウヒがあまり大量の積雪には弱く、この地域の山岳が世界有数の多雪地域であるためと考えられている。また、倒木を苗床にして稚樹が育つ倒木更新によって生育する場合が多いため、1カ所に数本がかたまって自生している場合が多い。大台ヶ原では、日本では珍しいトウヒの純林があるが、鹿の食害のため危機に瀕している。高さ20-25メートル、直径50-60センチであるが、大きいものは40メートル、直径1メートルにもなる。
葉は線形・偏平で、枝にらせん状または蒲鉾状に多数密につき、長さは7-15ミリ程度である。球果は長さ3-6センチほどで、種子だけが飛び散って、まつぼっくりの形は崩れない。樹幹は直立し、枝は四方に水平に開出または下垂し、密な広円錐形の樹冠で、美しい樹形である。
樹皮は赤褐色ないし灰褐色で、薄い鱗片になってはげ落ちる。エゾマツは樹皮が黒褐色で縦裂し、亀甲状に割れ目が入り、薄片状にならない。腐植土に富んだ適潤地で、直射日光のあまり当たらない所に最もよく生育し、好適地では400年以上生きるものもある。陰樹であるが、耐陰性はそれほど強くない。用途としては、建材に使用される。
葉
神戸森林植物園 2000年4月30日
樹形
表皮
大阪市大植物園 2000年4月9日