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森林と文明 ― 森と木の思想
みえの資源 森と木をどう生かし、どう継承するか

1.はじめに

植物は光合成をすることによって太陽エネルギーを利用可能な形に変え、動物たちにエネルギーを供給しています。また、人間よりも長い寿命を持っている樹木は、地域の歴史を見守り続けてきました。私たちは、森や木を仰ぎ見ることにより、昔とのつながりを思い出すととも に、時代を生き抜いてきた森や木を眺めることにより、以前と変わっていないという安心感を受け取ります。
しかし、近年は地球温暖化に伴う気候変動により、森や木の生育環境も変化しています。自然環境資源である森と木をどう生かし、どう継承するか、三重県内で実施されている様々な取り組みを紹介します。

2.みえの森と木

美し国“みえ”と呼ばれていますが、「日本書紀」には、「可怜国(うましくに)」と記載されており、「美し」という言葉には、「満ち足りてここちよい」という意味があるそうです。
風光明媚で、海と山の幸に恵まれた“みえ”には、世界遺産として「熊野古道伊勢路」があります。国立公園は「伊勢志摩」「吉野熊野」の2つ、国定公園は「鈴鹿」「室生赤目青山」の2つ、県立自然公園は5つあります。県の木は神宮スギ、花はハナショウブ、鳥はシロチドリ、 獣はカモシカ、さかなは伊勢えびです。代表的な天然記念物[植物]はシデコブシ、オハツキイチョウ、鎌ヶ岳のブナ原始林、野登山のブナ林などがあります。
県内の巨樹、古木、名木などは、「みえの樹木百選」、三重県緑化推進協会の「三重の巨樹・古木」などで紹介されています。林野庁の「森の巨人たち百選」には2本が選ばれています。
日本全国の巨樹名木は中川木材産業の「巨樹名木探訪」で紹介されていますが、三重県については 129 本が記載されています。長寿の木としては、南方熊楠によって伐採をまぬがれた引作(ひきつくり)の大クスがあり推定樹齢は 1500 年です。

3.各地域での保全活動

県内各地で様々な森づくり活動などが行われています。みえ森づくりサポートセンターには 25 団体が登録されています。NPO 法人 大杉谷自然学校は、2017 年に生物多様性アクション大賞を受賞しました。「森林の風」は、2024 年に緑化推進運動功労者内閣総理大臣表彰を受賞しました。
国際的な活動としては、1980 年に大台ヶ原・大峯山・大杉谷がユネスコ・エコパークに認定され、2000 年に速水林業の森林が FSC 認証を日本国内で初めて取得しました。世界農業遺産の認定はありませんが、2016 年に尾鷲ヒノキ林業が日本農業遺産に認定されました。カーボンクレジット関係では、大台町が東海地区では最初に創出を開始し、2022 年には尾鷲市がゼロカーボンシティ宣言をして SINRA プロジェクト等を始めました。松阪市は森林所有者から管理委託を受けた森林も含めて 2024 年からクレジット販売を始めています。大台町では、苗木生産協議会が地域性の実生苗を生産し、林野庁と環境省は大台ヶ原・大杉谷森林再生応援団の活動を実施しています。七里御浜松林を守る協議会はクロマツを守り育て、鈴鹿川等源流の森林づくり協議会は、流域という視点で水生生物調査やドローンを使った森林調査等の保全活動に取り組んでいます。
なお、文化庁の重要文化的景観や日本森林学会の林業遺産には、三重県の森林は登録されていません。
森の役割と機能
森林の8つの機能

4.森の役割と機能

人類は“火”を使うことができ、昔は、木材を、灯り、煮炊き、暖房などに日常的に利用してきました。薪炭革命が起きるまでは、森はエネルギーの供給源として重要な役割を果たしていました。また、里山は、生活や農業などに必要な生物資源を供給し続けてくれる地域の財産であったとともに、野生動物の人里への侵入を少なくするバッファーゾーンの役割も果たしていました。
日本学術会議答申(2001)によれば、森林には、①生物多様性保全機能、②地球環境保全機能、③土砂災害防止機能/土壌保全機能、④水源涵養機能、⑤快適環境形成機能、⑥保健・レクリエーション機能、⑦文化機能、⑧物質生産機能の8機能があります。水を蓄え、土砂流出を防ぐ水土保全機能は、私たちの暮らしを支えてくれているとともに、安全と安心を与えてくれています。

5.地球温暖化と気候変動問題

美し国“みえ”の豊かな自然環境は、有史以来、先人たちの努力により脈々と守られてきました。伊勢神宮では 20 年周期で式年遷宮が行われてきましたが、そうした継続的な活動が、文化となり、伝統技術や自然保護活動を、維持・継承することにつながっていました。しかし、最近は、地球温暖化による気候変動の影響が自然にも現れてきており、災害に至ることもあり、今まで通りの方法では、自然を保全することは出来なくなりつつあります。
大気中の二酸化炭素濃度の観測値は、毎年上昇し続けており、頭打ちになる傾向がありません。IPCC 第 6 次評価報告書(2021)では「人間が温暖化をさせてきたことは疑う余地がない」と報告され、2023 年には国連のグテーレス事務総長が、地球沸騰化と表現しました。
現代文明が内包している問題点としては、①エネルギーや原料の化石資源への依存、②難分解性の強固な物質の製造と使用、③人工物を維持・管理する責任の放棄、④土地の制約からの逃避などをあげることができます。文明のあり方を見直し、持続可能な社会に切り替える必要があります。
森の役割と機能
森林の8つの機能
気候変動による影響としては、山火事、線状降水帯、台風の強大化、積雪量の変化などによる災害や被害が懸念されます。地球温暖化による影響としては、融雪期間の短縮、動物の分布域の移動、植生分布域の変化、病虫獣害の増加、生物多様性の低下などが懸念されます。

6.自然との接し方

自然と、どの様に向き合うべきなのか、アメリカでは 1908~1913 年にかけて、保存派と保全派との間で大論争が繰り広げられました。保存(preservation)派は人間の活動を規制して原生自然を守る立場であり、保全(conservation)派は人間の将来の消費のために天然資源を保護し、持続的に有効に活用しようとする立場です。近年は、気候変動に伴う自然災害や病虫害等が増加傾向にありますので、保全に切り替えないと森林や自然を守れなくなってきています。
異種の生物が行動的・生理的な結びつきをもち、一所に生活している状態は「共生」です。
人間が文明の成果を自然界に持ち込むことにより異種の生物と新しい結びつきを創造し、一所に生活をする状態は「共創」と呼ばれています。実生苗の場合は「共生」、挿し木苗の場合は「共創」になります。「共創」の場合は、人間は絶えず文明的な状態や条件を維持し続けなければなりません。挿し木苗の人工林では間伐が必要です。
森の役割と機能
森林の8つの機能

7.みえ林業総合支援機構の取り組み

みえ林業総合支援機構は、公益社団法人として、林業就業者の労働環境を改善し、林業労働力の安定確保、林業への新規就業を促進するとともに、総合的な林業人材・経営体の育成を支援することによって林業の安定的な発展、ならびに、山村地域の振興を目指しています。
しかし、地球温暖化による気候変動などの影響に加えて、少子高齢化、過疎化などにより、手入れ不足の人工林も増えてきており、課題が山積しています。こうした状況を踏まえて、令和の時代から森林経営管理制度が始まり、森林所有者から委託を受けた非経済林は市町村が中心となって管理することになりました。そのための予算として森林環境税が徴収され、市町村などには森林環境譲与税が配分されています。これからの時代は、市町村が管理することにな4る非経済林や環境林も対象とした森林管理も求められており、木材を生産する「林業」に加えて、自然環境を保全して管理する「森業」も必要です。さらには、森林資源を有効利用することによって、地域振興を図ると共に、化石燃料の使用を抑制することも重要な課題です。
森の役割と機能
森林の8つの機能
間伐材等から木質チップを製造し、木質バイオマス熱利用をする事例も増えつつあります。
三重県内では、ウッドピア松阪にあるウッドピア木質バイオマス利用協同組合等が木質チップを供給しています。辻製油は木質チップを燃やして発生させた蒸気を使って食用油を製造しているとともに、トマト栽培用ビニールハウスの暖房に利用しています。また、井村屋は、アズキを炊く工程や、肉まん、あんまんを蒸す工程で木質チップ由来の蒸気を使っています。
以上の事例が示すように、従来型の林業の知識や技術だけでなく、森業や地域創生に関する幅広い知識や技術も求められており、森林の現状や動向を理解して、森と木の恵みが次世代に継承できるように適切に対応できる総合的な判断力を持った人材が必要とされています。みえ林業総合支援機構は関係団体等と連携して、必要な林業人材・経営体の育成を支援しています。
森の役割と機能
森林の8つの機能

8.おわりに

美し国“みえ”の森と木は、定期的に手を入れ続けるという伝統と文化によって、守られ維持されてきました。しかし、地球温暖化による気候変動の影響、少子高齢化、過疎化などによる人手不足、「林業」と「森業」の両立など地域課題は山積しています。SDGs などのグローバルな視点による取り組みも必要です。J-クレジットや生物多様性保全活動では県内外の関係者との連携・協力も必要です。
まずは、地域の生物資源を活用した地産地消を進め、エネルギーや食材の自給率を高め、循環型地域社会のモデル地区となるような取り組みが必要と考えます。持続的循環型の美し国“みえ”が次世代型の地域創生モデルとして世界に向けて発信できれば、三重県の新たな観光・観風資源にもなります。
美し国の歴史を見守り続けてきた森や木には、これからも引き続き見守り続けてくださることをお願いすると共に、取り組みの成果を報告できるようにしていきたいと願っております。
このホームページは鳥取大学名誉教授 小笠原隆三氏のご好意で作成させていたたきました。図表、文章とも田中先生のご提供です。

田中和博 略歴

1953年 兵庫県に生まれる
1981年 名古屋大学大学院農学研究科
博士課程後期課程満期退学
京都先端科学大学バイオ環境学部元教授
京都府立大学名誉教授
農学博士
[著者連絡先]tanakazu-forest@outlook.jp

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