v11.0
- ID:
- 41968
- 年:
- 2018
- 月日:
- 0701
- 見出し:
- 隈研吾デザイン、職人の技を生かした「小屋のワ」は小さいけれど大きかった
- 新聞名:
- HOME'S PRESS(
- 元UR(アドレス):
- https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_00789/
- 写真:
- 【写真】
- 記事
-
小屋が象徴する3つの変化
お披露目会では隈氏が作成までの経緯、小屋に込められた思いを語った
お披露目会では隈氏が作成までの経緯、小屋に込められた思いを語った
小屋といえば当然だが、小さなものである。
2018年6月、神宮外苑の聖徳記念絵画館前でお披露目会が行われた。
岡山県岡山市に本社を置く植田板金店が作った小屋「小屋のワ」も、サイズでいえばとても小さい。
奥行き2,150mmに幅4,650mm、面積にして9.9m2、約6畳である。
だが、本体はごく限られた空間
ではあるものの、この小屋に込められた思いはとても大きい
「20世紀は超高層、巨大ショッピングセンターなど、環境を壊す大きな建築物の時代だった。
だが、21世紀はその反動、反省の上にある小さなものの時代。
その象徴のひとつが小屋」と語るのはデザインに携わった建築家隈研吾氏。
自身も子どもの頃、庭に小屋を作った経験があり、自分だけの空間の安心
できる雰囲気を覚えているという。
小屋が象徴しているのはそれだけではない。
大きなものから小さなものへという流れはまた、都市から地方へという動きや、組織としてがっちりと固められた人間関係から緩やかに個人が繋がる人間関係へという変化とも重なる。
隈氏はそうした変化の象徴として「小屋のワ」をデザインしたというのである
他と繋がる、調和する小屋
実際の小屋を見ていこう。
大きな特徴が3つある。
1つは本体の部屋部分と同じ広さのウッドデッキだ。
これは日本古来の半戸外空間、縁側を意識して作られたもので、空気、太陽が感じられる気持ちの良い空間だ。
これがあることで小屋の空間は倍になる。
部屋の外にもう一部屋、違う使い方ができる空間が
あることになるからだ
加えてこの縁側的空間を利用すれば、他の小屋と繋がることができる。
小屋を並べて、あるいは向かい合わせて置いた状況を想像していただければ良い。
ウッドデッキが繋がり、ひとつの空間となるのである。
その時のためにウッドデッキ上に設けられた半透明のポリカーボネイト製の庇は6段階に調整できる
ようになっており、それで小屋間の距離が調整できる。
複数棟の屋根をぴったりくっつければその下に一体感のある中庭が生まれるし、屋根を少し離せば小屋の前に廊下、その外側に共有の空間といった使い方になる。
使い方で距離が変わるのである。
「この小屋は繋げることを意図してデザインしました。
『小屋のワ』のワにはいろいろな意味が込められていますが、そのひとつは輪であり、和。
繋がる、調和するという意味です。
単体でも良いし、繋げても良く、繋がり方は自由に選べ、複雑にもシンプルにもできてフレキシブル。
小さくとも可能性があるのです」
小屋のウッドデッキに面した部分が全面窓という点にも注目したい。
木造の建築物は箱として強いものを作る必要があり、窓、ドアは小さくせざるを得ない。
だが、部屋と縁側を一体に感じる空間を作るためには太い柱を入れるわけにはいかない。
そこで使われているのが細い金属のブレース(対角に入れた補強
材)。
縁側という伝統的な空間を作るために最先端の技術が使われているのである
部屋とほぼ同じ広さの半戸外空間があり、その上には可動式の庇がある
部屋とほぼ同じ広さの半戸外空間があり、その上には可動式の庇がある
共同作業が板金の可能性を広げた
お披露目会では植田板金店の辰巳健吾氏がたがねを使って外壁の一部を作る作業を実演した。
薄い板に的確に模様が刻まれていく様子はさすが、職人技
お披露目会では植田板金店の辰巳健吾氏がたがねを使って外壁の一部を作る作業を実演した。
薄い板に的確に模様が刻まれていく様子はさすが、職人技
2つ目の特徴は内部、ウッドデッキに使われた植田板金店の地元、岡山産の木材だ。
内部は檜、ウッドデッキは杉となっており、小屋内に入った時はもちろん、ウッドデッキ上にいるだけでも良い香りがするほど。
高級旅館の檜風呂よりはるかに贅沢と隈氏。
地元材料を発信していくという意図である。
視線を遮
らないよう、室内には間接照明が仕込まれているが、これも檜をきれいに見せるための工夫だという。
そして3つ目は外壁に使われた板金職人の技を使った細工だ。
小屋を覆うガルバリウム鋼板には不思議な曲線が施されているのだが、これは建築家の方々にはお馴染みという応力図なるもの。
非常に大雑把に言うと構造物に外力が加わった時にそれに応ずる力がどう発生するかを表したものだそうで、隈氏
の事務所がこの小屋の応力を計算して描いた図を職人がたがね(金属や岩石を加工するための工具の一種)で叩いて表現した。
しかも、これが非常に難しかったという。
一般的な板金職人の仕事で作業が現しになることはほぼないし、曲線を描くこともない。
植田板金店の植田博幸氏は「こんなモノを作ってと言われて作ると、これができるならもっとこうしてと次々に課題のハードルが上がった。
途中でもう、いいんじゃないかと投げ出したくなることもあったほど。
でも、最終的には自分
たちが思っていた以上にカッコいいものになった」とやりとりを振り返った。
一方の隈研吾建築都市設計事務所の片桐和也氏は「頭の中にあるもやっとしたイメージを伝えるとすぐにモノが出てくる職人技、スピード感に驚いた」という。
これまで交わることの無かった二者が互いに知らない世界で手探りしながら共同作業したことが新たなモノを生んだとでも言えば良いだろうか。
特に板金の
可能性を開いたという意味で植田板金店が得たものは大きかったのではないかと思う
世界観、問題意識が小屋を大きくした
そもそも、同社が小屋を作り始めたのは2016年に雑誌で小屋特集を見たのがきっかけ。
今後、新築着工棟数が減少する建築板金業界では新たなビジネスを意識せざるを得ない。
今後10年で30%減少するという職人を育成する必要もあった。
また、屋根・外壁を中心とする業界のため、雨天時に作業ができ
ないのはハンディ
そこでこれらの問題にまとめて対処しようと雨の日に工場で若手職人育成のために始めたのが小屋作りだ。
ところが、作った小屋を展示会に出展したところ、非常に高い評価を受け、また、ニーズを感じた。
そこで2017年6月には地元岡山に日本最大の小屋展示場をオープンさせたという。
そんな中、植田板金店の中山陽平氏が隈氏がアウトドアメーカーsnow
peakと共に手がけたトレーラーハウス「住箱」を見かけ、隈氏にメールを出す。
新国立競技場に代表されるような大きな建築物の依頼が多い隈氏からすると驚くほど小さな建物の依頼である。
なんだ、これは?という関心から会ってみたら面白い人達だったと隈氏。
そこで一緒に小屋を作ることになったのだという
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