v11.0
- ID:
- 40296
- 年:
- 2017
- 月日:
- 1218
- 見出し:
- 木のペン 無二生むろくろ 平井木工挽物所(もっと関西)
- 新聞名:
- 日本経済新聞
- 元UR(アドレス):
- https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24759750Y7A211C1AA2P00/
- 写真:
- -
- 記事
-
ジーっと音を立て高速で回るろくろの先端に、ボールペンの部品となる木材が取り付けられている。
幅3ミリメートルの木の中心に一呼吸をしてドリルを差し込む。
木くずが飛び交いながら木が削れていき、ボールペンのペン先が通る穴ができあがる。
「わずかでもずれてしまうと貴重な材料が無駄になる。
中心
を見極めるために、毎回が緊張の一瞬だ」
ボールペンの首軸をろくろで回し、ペン先の穴を開ける
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ボールペンの首軸をろくろで回し、ペン先の穴を開ける。
平井木工挽物所(大阪市)はろくろを用いた伝統的な製法で木を削り万年筆やボールペンを製作する。
3日かけてできあがるのはわずか10本程度だ。
木目や色合いが異なり、完成する製品は世界に一品しかない。
作る様子を見たいと愛用者が足を運ぶ姿も。
平井守代表(70)の熟練した技術で一本一本
仕上げる。
使う木材は屋久杉やシタン、黒檀(こくたん)など貴重なものばかり。
鹿の角を使うこともある。
加工に用いるのは挽物(ひきもの)という工芸品の伝統製法で、ろくろに木材を取り付けて回転させ、刃を当てて削る。
おわんやコマをつくる際にも用いられるものだが、ペン先に穴を開けたりキャップと胴体の大きさを
合わせるなど相当に熟練した技術が必要となる。
角材を丸く棒の形に削り、長さ10センチメートル程度に切断する。
木を取り付けて足元のレバーを踏むとろくろが回り出す。
先端に「シャカ」と呼ばれる鉄の刃物を当て、木くずが飛び交いながら木が丸みを帯びていく。
両手の力加減を調整しながら、刃物を当てる角度をわずかにずらす。
棒状の木が十数秒
で、ペンの先端やキャップの先など思い描いた形に姿を変えていく。
ろくろに取り付ける軸や鉄の刃などは全て平井さんの手作りだ
平井さんは1962年、15歳の時に徳島県から大阪の親戚の町工場へやってきた。
そこでろくろと出会い、23歳で独立。
長年、大手メーカー向けに洋傘の柄や筆の部品などを作り続けた。
「下請け時代があったからこそ、今日の技術が身についた」
独自にペンの販売を始めたのは2002年で、修業を始めてから40年の月日がたっていた。
約1万円から6万円以上のものまであるが、世界に一つを求める愛好者の間でじわり人気が広がった。
屋久杉の万年筆を愛用する大阪経済大学の徳永光俊学長(64)は「木目が美しく木のぬくもりを感じる」と語る。
何本も購入した植田英樹さん(50)は「木目がどれも異なるので、友人にプレゼントすると喜んでくれる」と話す
「輸出入や伐採の規制で、いい木は少なくなっていく」と平井さん。
それでも「今後も勉強をしながら新たな木を探していく。
一本一本表情の異なる製品に出会うのが楽しみだ」と目を輝かせる。
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