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- ID:
- 37406
- 年:
- 2017
- 月日:
- 0127
- 見出し:
- 日本のギター国内シェア半分占める長野県、その生産現場
- 新聞名:
- ガジェット通信
- 元UR(アドレス):
- http://getnews.jp/archives/1610598
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- 【写真】
- 記事
-
昨年のNHK大河ドラマ『真田丸』の舞台にもなった長野県が、実は日本のギター産業の中心であることをご存じだろうか。
長野県内のエレキ・アコースティックギターの出荷額は26億8716万円(2012年・経済産業省「工業統計調査」)で全国1位。
2位の静岡(約9億円)を大きく引き離し、46.7%と半数近い国内シ
ェアを占めている。
中でも松本市は、フジゲンやモーリスといった、国内産エレキギターやアコースティックギターで名を馳せたメーカーが本社を置く。
ギター工房も多く、松本で生まれたギターを愛用するプロのアーティストも多い
「フォークブームの1970年代に、アリスの谷村新司さんや堀内孝雄さん、かまやつひろしさんらが使ってくださったことが、広く認知されるきっかけになりました」(モーリスギターを販売するモリダイラ楽器の鈴木剛氏)
「モーリス持てば、スーパースターも夢じゃない」のCMで知られるモーリス楽器は、国内産アコースティックギターのパイオニアだ。
現在でもハンドメイドにこだわり、限られた職人が作るオーダーメイドギターは、高品質でありながら良心的な価格から、ファンの支持も高い
「職人が作るギターは月に2~3本ほど。
価格は40万円前後で、購入層は40代からシニアまで幅広くいらっしゃいます」(鈴木氏)
同社の製品の中でも特に高い評価を受けているのが、「マスタールシアー」の称号を持つ森中巧氏の作品だ。
デザインはもちろん全ての部品を自分で作り出して、組み立て・仕上げまで行なう。
作品には細部にわたるまで、職人としての心配りが張り巡らされている。
「見た目が派手ならいいというわけではありません。
音と弾きやすさ、トータルバランスの取れたものが良いギターだと思っています。
アコースティックギターは一定のファンがいますので、需要は常にあります。
現在もエレキではなく、アコースティックギターを主流としてこだわりを持って作っています」(森中氏)
◆家具作りからギター作りへ
日本で最初にギター熱が高まったのはベンチャーズやビートルズが来日した1960年代のことだ。
1980年代にはバンドブームを迎え人気が爆発。
その後、低迷期を迎えるが、最近はアニメなどがきっかけで、若い世代を中心に再びギター熱が高まり始めている。
長野・松本は今も昔も、そうしたブームを支えてきた。
周囲を山々に囲まれた長野県は、湿度が低く良質な木材が生産されることから、家具職人が古くから多数存在した。
そうして培った木材加工技術を応用して楽器作りがスタート。
特にエレキギターブームが到来した1960年代には、ギター作りを始める会社
が勃興する。
県内でも著しい発展を遂げたのが、元々音楽が盛んな土地柄だった松本市だ。
松本は1946年、ヴァイオリニストの鈴木鎮一氏が、音楽を通じた心の教育を行なう「スズキ・メソード」を創設した地でもあり、1992年から毎年夏に行なわれてきた音楽祭「サイトウ・キネン・フェスティバル松本(現在はセイジ・オザ
ワ松本フェスティバル)」でも知られている。
そんな松本にあるトップメーカーのひとつがフジゲンだ。
1960年5月に創立した同社は、1983年にはエレキギターの月産1万4000本と、当時では世界一の生産量を記録。
その加工技術からOEM(他社ブランドで売られる製品を受託し生産する)でも世界的に名を馳せ、フェンダージャパンなどの海外有名メーカ
ーが発売するギターを手がけていたこともある。
フジゲン国内営業部の今福三郎氏が語る。
「当社の強みは開発力です。
例えば厚さ17ミリというネックのグリップがあるのですが、これは量産型の中では世界一薄い。
メタル系の速弾きをする人が弾きやすいモデルです。
しかし、単に薄ければいいという話ではありません。
薄すぎるとねじれやそりに繋がりますからね。
加工だけでなく、木の扱いを知って
いるかどうかにかかっているのです」
ちなみにこの高い技術は、ギター以外の分野においても評価されている。
現在では高級オーディオ機器の木目調部分や、大手自動車メーカーのウッドパネルも製作。
ギターの塗装部分が鏡のように映る「鏡面塗装」という技術が、高級自動車などのパネル部分に応用されている。
ただもちろん、フジゲンが主
軸とするのはあくまでギター製作だ
「車やオーディオ機器はあくまで部品であり、フジゲンというブランドで出すのはギター。
そのスタンスは今も昔も変わっていません」(今福氏)
そのフジゲンから2002年に独立した杉本眞氏は、松本に自分がデザイン・製作を担当する『Sugiギター』を販売する会社を立ち上げた。
「独立のきっかけは、将来ビンテージと呼ばれるギターを作りたいという思いからでした。
ビンテージと呼ばれるには、オリジナルのシェイプ(形)じゃないといけない。
だから弊社では原則、シェイプは既製品もオーダーメイドも変わりません。
変えると音が変わってしまいますから」(杉本氏)
同社は特定のアーティストと契約せず、自分たちのギター作りを行なっている。
そのこだわりから生まれるギターはプロにも評判で、例えば矢沢永吉は写真集『FACE』の中でSugiギターを手に持った写真をいくつも使っている。
「自分たちの納得いくものを作って、それをプロのアーティストにも演奏していただく。
そのスタンスを貫いています」(杉本氏)
松本のギターには職人の矜持と、音楽への思いが詰まっていた。
■取材・文/白石義行 ■撮影/渡辺利博
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