v11.0
- ID:
- 47871
- 年:
- 2010
- 月日:
- 0927
- 見出し:
- 尾瀬から始まる低炭素社会への道
- 新聞名:
- 日本経済新聞
- 元UR(アドレス):
- http://www.nikkei.com/tech/ssbiz/article/g=96958A9C93819696E0E6E291958DE0E6E2EBE0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;p=9694E3EAE3E0E0E2E2EBE0E4E2EB
- 写真:
- 【写真】
- 記事
-
淡い緑の植物で覆われた広大な沼地の中を燧ケ岳に向かって真っすぐに延びる木道。
その両脇のあちこちにニッコウキスゲの黄色の花が群生する。
立ち止まって沼をのぞき込むと水面を様々な虫が忙しく動き回り、水中、泥中にもオタマジャクシやゲンゴロウが顔をみせる。
尾瀬の短い夏は生命の躍動期だ
。
自然が忠実に守られた沼沢地としてラムサール条約にも登録された尾瀬。
国立公園であり、特別天然記念物にも指定されているこの沼沢地全体の4割、そのうち特別保護区の7割を1企業が所有していると聞けば意外感があるだろう。
持っているのは東京電力だ
もともと東電の前身の電力会社が尾瀬の土地と水利権を取得、東電に引き継がれた。
高度成長期にはダム建設計画もあったが、発電の中心が水力から火力発電に移り、さらに原子力発電も登場したことによって、尾瀬はダムの水底に沈むことなく、今日にまで生き延びた。
東電は発電所の計画がなくなり、
水利権を放棄した後も尾瀬を持ち続けた。
尾瀬には毎夏、多数のハイカーが訪れ、放っておけば人が沼地を歩き回り、ゴミや排せつ物で自然は破壊される。
それを防ぐため、木道が設置され、トイレや休憩所もつくられた。
東電が敷設した木道は20キロに及び、板には1枚ずつ東電のマークとともに設置され
た年が刻印されている。
10年ごとに取り換えるためだ。
尾瀬に入る小中学生や高齢者などのグループを案内するガイドも東電のグループ会社の専門社員が務める。
公益性の高い企業とはいえ、その負担は小さくないはずだ。
尾瀬の自然保護は東電にとってCSR(企業の社会的責任)の意味がもちろん大き
いが、低炭素社会の実現に向けた意義も小さくない。
東電の持つ尾瀬戸倉地域の森林は1万8000ヘクタールに及び、ブナ、カラマツなどの森林が吸収する二酸化炭素量は年間7万2000トンに達するからだ。
これは3万6000戸の家庭向けの発電で排出される二酸化炭素の量に匹敵する。
量としては多くはな
いが、尾瀬を守ることがイメージだけではなく、現実の温暖化対策になっていることを示している。
この森林は2009年8月に日本林業経営者協会の「森林のCO2吸収・生物多様性認定(フォレストック)」に認められ、10年2月には国際的な森林認証制度のFSCも取得した。
森林保護が一定水準を満たしていることの証しだが、専門機関からは「間伐(枝の一部を落とし、日光が地面まで及ぶようにする)の
遅れ」などを指摘されている。
そうした点を改善し、尾瀬が日本の森林のモデルになれば、日本の森林が現状よりもよい形で維持され、より大きな二酸化炭素の吸収源になるはずだ
別の側面の機能もある。
尾瀬を舞台にした小中学生向けの自然学校の運営だ。
自然の実態、保護などを尾瀬などのフィールドを使って教える試みだ。
子供たちが本当の自然に触れ、その摂理を知ることが、二酸化炭素排出削減に気を配る大人を形成する。
子供たちへの自然教育こそ時間はかかるが、
最も確かな低炭素社会への道となる
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