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ID : 13515
公開日 : 2009年 10月 9日
タイトル
巨木の森と生きる
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新聞名
ナショナルジオグラフィック
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元URL.
http://eco.nikkei.co.jp/special/nationalgeographic/article.aspx?id=MMECf1000008102009&page=1
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元urltop:
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写真:
複数の写真が掲載されていました】
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高さ100メートルにもなる世界有数の巨木、セコイア。その森を歩けば、人と森林の新たな関係が見えてくる。
 木を切るべきか、切らざるべきか―。
 そんな論争を越えた、新たな森づくりとはどんなものか。未来の森の姿を求めて2900キロの道のりを歩き始めた男がいる。
 彼の名は、J・マイケル・フェイ。今から10年ほど前、アフリカに残された手つかずの森林地帯3200キロを徒歩で横断する「アフリカ徒歩横断」を敢行した人物だ。その模様はナショナルジオグラフィック2000年10月号、 2001年3月号、同年8月号でお伝えしたから、覚えている読者もいるかもしれない。
 米国の環境保護団体「野生生物保護協会」の自然保護活動家で、ナショナル ジオグラフィックの協会付き研究者でもあるフェイは、30年間アフリカの森林保全に尽力してきた。50歳をゆうに超えた今、彼が何よりも大きな関心を抱いているのが、米国西海岸にだけ生育するスギ科の木、セコイア だ。レッドウッドとも呼ばれ、樹高100メートル以上にもなる世界有数の巨樹である。
 フェイがこの木に興味をもったのは、アフリカ徒歩横断を終えて何年か後のことだ。カリフォルニア州の州立公園を訪れたとき、彼は輪切りにして展示されていたセコイアの幹に目を留めた。直径1.8メートルの輪切りは 垂直に立ててあり、年輪に西暦と出来事を記したラベルが張ってある。中心部の近くには、「1492年 コロンブスの新大陸到達」とあった。
 「端から8センチくらいの場所には、『1849年 ゴールドラッシュ』と書かれていた」とフェイは話す。「それを見て気づいたんだ。われわれは年輪の最後の数センチに当たるわずかな歳月の間に、2000年もの歴史をもつ森林を壊滅寸前まで追いやってしまったのだと ね」 世界の巨木を研究する森林学者スティーブ・シレット(中央)らが、セコイアに登り、山火事でできた大きな洞(うろ)を調査する。この木は2度の山火事に耐えて生き延びてきた。写真=マイケル・ニコルズ(c)National Geographic  世界屈指の巨木がそびえる西海岸の森。その破壊の歴史と森林利用の現状を自分の目で確かめようと、フェイは2007年秋に全長2900キロの徒歩縦断を敢行することにした。カリフォルニア州中部の海岸地帯ビッグ サーから、世界遺産のレッドウッド国立公園を経て、オレゴン州との州境を越える辺りまで、セコイアの森が残る山々を歩く。そのなかで、木材生産をできる限り確保しながら、森林が生態系や地域社会にもたらす恩恵を最 大限に生かす方法がないか、じっくり探ってみようと考えたのだ。
 セコイアの森でそれが可能なら、短期的な利益のために伐採されている世界のあらゆる森林も、その方法で保全できるはずだ。フェイは、アフリカ徒歩横断のときと同様、11カ月に及ぶ踏査の期間中、写真を撮り、記 録を残し、森林や渓流、そこにすむ生き物の現状について、詳細なデータをとった。
 調査のパートナーを務めたのは、リンジー・ホルム。セコイアが育つカリフォルニア州北部で生まれ育ち、独学で自然について学んだ女性だ。フェイとホルムは、森を歩きながらセコイアと縁の深い人々とも話をした。
伐採業者、森林管理の専門家、生物学者、環境保護活動家、カフェのオーナー、木材会社の重役など、セコイアの森を生活の糧とする人々である。
 二人が調査を行った年は、セコイアの森を歩いて考えるにはうってつけの年だった。
 折しも、それまで強引に伐採を進め、20年以上も活動家や行政当局ともめてきた、悪名高い木材会社パシフィック・ランバー社が倒産し、買い手を探すことになった。ニシアメリカフクロウの亜種(学名Strix occidentalis caurina)、小さな海鳥マダラウミスズメ、渓流で産卵するギンザケといったセコイアの森の代表的な生き物たちは、生息数が減るばかりで、絶滅が危ぶまれていた。地域の経済に目を向けてみると、住宅バブルがはじけ た結果、セコイアの森では製材所の閉鎖が相次いでいた。さらに、この年は山火事被害が深刻で、観光客の足が遠のいているという現実もあった。
 その一方で、今までとは違った森林利用がこの地域に根づきつつあった。環境保護団体や森林管理の専門家だけでなく、一部の木材会社や地域の住民も、セコイアの森が再生に向けて歴史的な転換点に差し掛かって いることに気づいていた。
 「木を切るべきか、切らざるべきか」という、何十年も続く論争を越えて、人間にも野生生物にも、そしてひょっとすると地球にも恩恵をもたらす、新しいかたちの森林管理が定着するかもしれない?調査が進むにつれ、フ ェイの思いは確信へと変わっていった。穏やかだが、揺るぎない信念を秘めた口調で、彼は言う。
 「シリコンチップで世界に革命をもたらしたカリフォルニア州は、森づくりでも世界に革命をもたらせるはずだ」■セコイアの驚異的な生命力  フェイとホルムは、森林地帯の南端から出発した。二人が歩いたのは、1850年以降少なくとも1回は伐採された林で、多くは3回も伐採を経ている。低い若木が立ち並ぶ地帯が延々と続く。その若木の“海”に浮かぶ島の ように、所々に比較的高い木々がそびえる二次林があるというのが、典型的な風景だ。
 5月のさわやかな日、全行程の4分の3近く進んだところで、フェイとホルムはフンボルト・レッドウッド州立公園の南端に到達した。
 この公園内には、面積約4000ヘクタールに及ぶ、世界最大のセコイアの原生林がある。特に、川沿いの平坦な一帯は、肥沃な土壌、豊富な水、海から流れてくる霧と、セコイアの生育に最適な条件に恵まれ、きわめて 背の高い木々を育んできた。樹高106メートル(350フィート)以上のセコイアはこれまでに180本確認されているが、そのうちの130本はこの公園内に生育している。
 二人はエメラルド色の水をたたえた川を歩いて渡り、対岸の斜面を登って、わずかに光が差し込む林に入った。そこには、これまで目にしたことがないような荘厳な風景が広がっていた。高さ100メートルを超える巨木 が何本も、月をめざすロケットのように、天に向かって堂々とそびえていたのである。その幹は、山火事で焼けて黒ずんでいる。分厚い樹皮が所々裂けて、幹がねじれた木もあれば、人間が20人くらい入れそうな巨大な 洞のある木もあった。
 林床のあちこちに、5メートルはあろうかという折れた梢が横たわり、クローバーに似たソレルやシダ植物に半ば埋もれていた。こうした大きな梢は、風で折れて樹冠から落下してきたものだ。このときも森の上のほうでは 強風が吹き荒れ、ヒューヒューという高い音や、うなりのような低い音が響き渡っていた。セコイアの森が、米国映画『ジュラシック・パーク』の第2作のロケ地となったのもうなずける。今にも巨木の後ろから、恐竜が顔をの ぞかせそうだった。
 セコイアは森林管理の専門家すらも驚くような力を秘めている。樹皮と心材にポリフェノールの一種タンニンが豊富に含まれているため、腐敗の原因となる菌類や昆虫がつきにくい。また、繊維質の樹皮には樹脂があま り含まれていないので、比較的大きな成木は燃えにくく、山火事によく耐える。
 数ある特徴のなかでも、セコイアの驚異的な生命力を象徴するのは、樹皮のすぐ下の形成層と呼ばれる組織が日にさらされると、どこからでも芽が出ることだろう。梢や大枝が折れたり、伐採で幹が切られると、その傷 口から萌芽し、新しい枝がすくすく育つ。森を歩いていると、大きな切り株の根元の周りに、“妖精の輪”と呼ばれる次世代の若木が何本も環状に育っているのを目にする。これらの若木はすべて親木のクローンで、何千 年も前の祖先のDNAをそっくり受け継いでいる。
 セコイアの球果は意外に小さく、オリーブの実くらいの大きさで、種子の発芽率は低い。そのため、伐採が行われるようになってからは、切り株からの萌芽が、生き残りに大きな役割を果たしてきた。
 セコイアはもう一つ、専門家をうならせる生き残り戦略をもつ。日照量が少ない環境によく耐え、たくましい萌芽能力をもつこの木は、高齢の木々の陰で何十年間も成長を遅らせ、ほぼ休眠状態で待機できるのだ。高い 木が倒れるか伐採されて、林冠が開け、日差しが降り注ぐと、休んでいた低い木は伸び始める。「休眠解除」と呼ばれる現象である。
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