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ID : 12017
公開日 : 2009年 6月 8日
タイトル
築80年の木製建具に驚く(最初から考え直す
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新聞名
東洋経済オンライン
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元URL.
http://www.toyokeizai.net/life/column/detail/AC/34c011b0d1023b007ebd8496064dd071/
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元urltop:
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写真:
 
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錆びない、といえば、アルミ素材。
 これまた、たしかに錆びないし、風雨にも狂わないし、構造的には軽く優れた素材であることは間違いないのだが、ひとたびここに「時の味」という物差しを当てて考えるときには、どうもアルミは味が出ない。
 味が出ない以上、古くなるにしたがって汚くなるので、どうしてもこれは腐敗素材になってしまう、という結果になる。
 この辺が、この腐敗素材と発酵素材の区別の、皮肉なる現実で、なんでも錆びない腐らないから良い素材だと言い切れないところが面白いのだ。
究極の発酵素材は生きている樹木かもしれない。これは、千葉県銚子市の外れの農村に見るみごとな生け垣の道。こうなるまでには長い時間と膨大な手間がかかっている。
 昭和の初めころ、つまり、関東大震災からの復興期に建てられた夥しい建築物は、いまほとんど姿を消そうとしているのであるが、その震災復興期には、もちろんアルミサッシなどは存在しなかった。
 そこで、多くの震災復興期建築は、藤森さんのいわゆる看板建築的風姿をもち、その素材は、木材とモルタル、そして場合によっては銅版の外壁や鉄の建具を配するという具合になっている。
 なにしろ窓枠などは、常々風雨に曝される結果、鉄サッシだと、比較的頻繁に塗装を更新することが必要で、それでも次第に接合部が錆びて欠落したり、動きが悪くなって「開かずの扉」になったり、という不具合が避け られない。そこで、ポテンシャルとしては発酵素材であるにもかかわらず、現実としては腐敗素材化して、結局後事の修補工事の際にアルミサッシにとって代わられるという結果を招き、いまではほとんどがアルミとなって 、建築としてのオリジナルな味わいを著しく失ってしまっているのであった。
 では、木材の建具はどうか。
 これはひとえに、その建具を造った職人の腕前と、家全体の工事の質に左右される。
 東京の一等地、有栖川記念公園に隣ったところにあったY氏邸は、戦前にごくごく念入りに建てられた高級住宅であった(いまは、とり壊されて存在しない)が、その家がとり壊される直前、私は頼まれてその内外を詳細な 写真に撮影して遺すという仕事をしたことがある。
そのとき、すでに築後80年ほども経過していたというのに、見事に造形された繊細な木製建具は、それこそ大げさでなく、小指1本で、すーっと音もなく開き、髪1本の隙間も残さずピタリと閉まる、のであった。
 なるほど、戦前の名匠が念入りに造った建て枠・建具というものは、この高温多湿、なおかつ年中地震や台風などで痛めつけられる風土のなかでさえ、これほどの性能を保持するのかと、非常に感銘を受けたことがあ る。
 こういう木製の建具や躯体は、もちろん歴然たる発酵素材で、安手のラワン材や、ろくに乾燥もしていないような生の木材を大量生産的に機械加工したものでは、とうていこうはいくまい。
 つまり、発酵素材であるためには、それなりのコストをかけなくてはならない、と、このあたりまえのことが確認されるということである。
 では、私の嫌いなガラスはどうだろう。
 ガラスはなかなか難しい素材なので、ガラス、というマテリアル自体は、中世以来のステンドグラスなどはもちろん、アーツ&クラフツのウイリアム・モリスの工房だってステンドグラスから業を起こしたくらいで、これは れっきとした発酵素材である。
 ところが、問題は、ガラスはガラスだけでは建築素材には使えないということである。ガラスは、石・鉄・木材などの構造材と組み合わせ、その構造的強度に依拠しつつ始めて建築に役立て得るという、根本的弱点をも っている。
 そこで問題になるのは、ガラスというものと、木材や鉄材などを接合する技術で、昔は、パテという貝殻の粉末を樹脂で練ったようなものを使ったりしたが、現在はおそらくシリコン系の素材を用いて接着していることと 思われる。
 すると、日本のように、夏冬の温度差が著しく、なおかつ乾燥と湿潤の交代が目まぐるしい風土のなかでは、たとえば鉄とガラスでは、温度による伸縮率が相違するから、伸びたり縮んだりを繰り返す結果、やがてこの 接合が劣化し崩壊してくることが避けられない。
 したがって、竣工当初はいいけれど、たかだか数年のうちに、接着部のヒビなどが発生して雨漏りがする、などということになる。これをどうするかが大問題である。
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