ID : 10349
公開日 : 2009年 2月 3日
タイトル
今週の本棚:森谷正規・評 『森林と人間--ある都市近郊林の物語』
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/enta/book/news/20090201ddm015070004000c.html
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元urltop:
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写真:
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素直に自然に従う「再生」の実践
北海道大学でイワナを研究していた若い研究者が、意を決して苫小牧地方演習林の林長を志願した。複雑な自然現象を体系的に把握する場をつくるという壮大な「フィールド・サイエンス計画」を創(つく)り、自ら始め
たいと考えたからだ。
だが赴任して演習林を歩いて、人工造林で荒れている状況を見て、この惨めな森を立て直さねばとの激しい思いにかられた。また、ゴールデン・ウィークに数多くの市民や子どもたちが無断で潜り込んできて喜々として
遊んでいる情景を見て、林長としてきわめて重要な役割があると気づいた。
そして、大学の研究者としては異例の大仕事を成し遂げた。日本の林業、林学の歴史とも言える木材資源を得るための林種転換事業をすっぱりと止(や)めて、森林再生に全力を注いで、市民に広く開放して共に楽し
める森にした。二〇年あまりのその強固な意志に基づいた大いなる努力と成果を、いまは名誉教授の石城さんは淡々と語る。
演習林としては小さい二七一五ヘクタール(東京ドーム五八一個分)だが、森林は水源林、エゾマツ復元、原生保存林などに分けて再生を図り、林道と川を整備し、池をつくる計画を立てた。その詳細が示されているが
、感嘆するのは実施のやりかただ。森の将来を考えて残す木と伐(き)る木を選んで行う「択伐」に際して、一律の基準は定めず林長と職員が現場で論議して、一本、一本、伐る木を決めた。苫小牧では伐木選定のマニュ
アルを作らず、林長まで現場に行ってガヤガヤ議論していると笑われたが、意に介さなかった。やがて適切な環境の中で若木の自生が進んで、森は整然と伸び始めた。
川の周辺に八つの池を掘ったが、業者に任せることはせず、小さな池を試験的につくってみて、一つまた一つと様子を見ながら毎年ほぼ一つ、すべて職員の作業で完成させた。一二〇〇平方メートルの池の直接経費は
三二万三〇〇〇円で、こんな安い公共事業はないと職員は胸を張った。
川には丸太を並べて飛びわたる橋、丸木橋、曲がった木での太鼓橋などを架けたが、どれも職員が工夫した手作りだ。樹木園に休憩小屋と東屋(あずまや)を建てたが、事務掛長がログハウスの勉強をして設計し、職
員総がかりで丸太で造った。林長の熱情によって燃えた職員たちが、大いに意気込んで、さまざまな工夫を楽しみながら働いてきた情景が目に浮かぶ。
林学の出ではない素人の林長だから再生ができたとも言える。石城さんは林業、林学を厳しく批判する。それは明治時代に欧州から輸入したものであり、ナラやブナなど落葉広葉樹を伐採して、育成効率も木材の利用
効率も高い針葉樹に林種転換する人工造林が主体であった。だが偏西風地帯にあって自然が温順である欧州と季節風地帯で荒々しい自然の日本とは風土が大きく違うのであり、予想しなかった気象害と生物害が多発し
て、人工造林は荒れた。
その反省から石城さんは、自然を深く観察して、それに素直に従う姿勢を持ち続けた。これこそがいま荒れていく環境をなんとか回復し保全していく基本姿勢であるだろう。
苫小牧の市民や子どもたちは、森と川と池で、散策、探鳥などを楽しみながら、森林資料館で森の理解を深めている。なお、当初の目的であった「フィールド・サイエンス」の場づくりも実現して、林冠観測塔というユニー
クな設備のもとで多様な研究が行われている。
専門研究を大きく超える研究者の見事な生きざまである。
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