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ID : 9300
公開日 : 2008年 11月 8日
タイトル
『森の力--育む、癒す、地域をつくる』
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/enta/book/news/20081109ddm015070011000c.html
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元urltop:
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写真:
 
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五感がバランスよく刺激される場  森をなんとかしよう、と志ざす人は少なくない。四手井綱英が“里山”という魅力的な概念を作ってから、森と日本人の関係に思いをいたす人はますます増えている。
 浜田久美子さんもその一人で、精神科のカウンセラーを経て森に目ざめ、森をテーマとする著述業に転じたのだという。
 森の力。いい題の本だ。5章目が「森の恵みを生かすビジネスを--森林バイオマスの可能性」に当てられている。バイオマスとは、生物由来のエネルギーのことで、森の木をエネルギー源として活用しようという動き は、全国的に盛り上っている。昔だと薪として燃やしたが、今は、間伐材をはじめとする森から伐(き)り出した大小さまざまな木を細かく砕いてカリントウのように固め(ペレットという)、新型ストーブで燃やす。ような動き が盛り上っているのだが、私は悲観的だ。
 先日、自分の山を持つ岐阜の製材所で聞いたが、ここ数年、薪ストーブ用の需要が大都市で急増し、やれナラの太割りしてくれ、香りがいいから山桜はないか、などなど昔では考えられないような要求に宅急便でせっ せと応えている。利は大きいそうだ。
 著者の志とはずれるかもしれないが、森の恵みを生かすビジネスとしては、ペレットではなく、ナラの太割りや山桜の方ではないか。
 7章、8章は、地域産の木材を使う建築家たちの姿が登場する。地域の山から伐り出し、地域の製材所で挽(ひ)き、地域の大工さんが使う。現在、世界でこんな幸せな状態が、昔にくらべれば縮小したとはいえまだ続い ているのは日本だけ。だいいち、21世紀の現在、木材を建築の柱や梁(はり)に自由に使えるのは、日本、北米、北欧の三地域だけ。三地域以外では、人肌にやさしい貴重な木材を、柱や梁に使うような狼藉(ろうぜき) は許されず、家具用がもっぱら。
 山から、伐って挽いて使う。他国から見れば夢のようなこの幸せな三拍子は、実用的なビジネスというより、文化的、芸術的な営みへとしだいに変ってゆくのではないか、と私は見ている。
 著者が語る森の力のうち、鮮度がありかつ明るい気持ちで読めたのは、1章、2章の教育施設としての森の話しだった。森を、学校や教室として考える。60年代にデンマークで始り、現在は日本でも試みられはじめた そうだが、森の教育効果など考えたこともなかった。
 冒険心が増すとか気持ちが落ちつくとか、そんなことではなく、コミュニケーション能力の向上がいちじるしいらしい。
 「森では、人間の五感が個別にも、総合的にも刺激される。そのベースは自然のもつ圧倒的な素材・機会の多様さだ。これにはどんな刺激的なおもちゃ、ゲームを駆使してもかなわない質と量がある。しかも、森は刺激 に満ちているがどれかが突出することなく、マイルドである。だからバランスよくすべての感覚を刺激してくれる。そんなふうに五感を刺激し、かつ、何かが突出することのない場で、喜怒哀楽すべての感情をいいも悪 いもなくありのままに出せること。さらに、適度な距離で受け止めてくれる大人がいること」  こうした状態が元になって、子供は、自分の気持ちと他人の気持ちの両方をしだいに推し量るようになる。
 日本は、町や人里と森の距離が近い。山地70%、平地30%という火山列島の地形がそうさせるわけだが、幼稚園、保育園から大学まで、森を学校として考える方向はあって欲しい。
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