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ID : 8299
公開日 : 2008年 7月17日
タイトル
木の振動板を使ったイヤーヘッドホン
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新聞名
nikkei Bpnet
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元URL.
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/abc/forefront/080717_eyephone1/
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元urltop:
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写真:
複数の写真が掲載されていました】
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「原音探求」のスピリット、20年以上かけた技術の蓄積をいかす 携帯型のデジタルオーディオプレーヤーが普及し、音楽の聴き方が大きく変わった。お気に入りの“1枚”ではなく、数多くの楽曲を気軽に持ち出せ 、いつでもどこでも、好きな時に好きな音楽を楽しめるのだ。これに伴い、音質にこだわる人は1万円以上もする高級ヘッドホンを買い求めるようになっている。
 その高級ヘッドホン市場で、品切れ状態になるなど人気を集めているのが、世界で初めて木の振動板を採用したインナーイヤーヘッドホン「HP- FX500」。このヘッドホンの開発には、ビクターの20年以上にわたる研究成果がいかされている。開発を担当した、ビクターのモバイルAV事業グループ AVCアクセサリーカテゴリー 技術部 第1設計グループの主席技師、伊藤誠さんに話を聞いた。
── 今回のインナーイヤーヘッドホン開発のきっかけを教えてください。
ビクターのモバイルAV事業グループ AVCアクセサリーカテゴリー 技術部 第1設計グループの主席技師、伊藤誠さん 伊藤 偶然なんですが、企画サイドと技術サイドの両方がいい音を追求したインナーイヤーヘッドホンを求めていたんです。企画サイドからすれば、デジタルオーディオプレーヤーの普及による音楽の聴き方の変化やお 客様の拡がりに対応する必要があった。アウトドアで気軽に音楽を聴くためには、大きめのヘッドホンよりも、手軽に持ち運べるインナーイヤーヘッドホンのほうが受け入れられやすいと考えました。小さくていい音。それ が企画サイドの求めていたものでした。
── 技術サイドとしては、どういった理由でいい音のインナーイヤーヘッドホンを求めていたのですか。
伊藤 技術者がよりいいものを追求するのは当たり前の欲求です。スタジオやライブハウスで演奏される生の楽器そのものの音をどうやって再現するかを常日頃から考えていますから。もともと、ビクターのエンジニア のスピリットの中には「原音探求」という言葉が叩き込まれているんです。もし、そのスピリット通りに原音をできるだけ忠実に再生できれば、CDに比べて圧縮率が高くて音が悪いと言われるデジタルオーディオプレーヤー のデジタル音源でも、十分にいい音で聞くことができるんじゃないかといった仮説がありました。原音に近い、いい音を再現するために、どのような工夫をされたのですか。
独自の薄膜加工技術により、“木”の振動板をドーム型に加工している。周辺は通常のプラスチック素材を使っている 伊藤 カギは木にありました。時代の流れによって音源や楽器のデジタル化が進みましたが、それらが再現しようとしている音は生の楽器が奏でる音。テクノロジーが進化しても目指す音は今も変わりません。その生の楽 器は何で音を出しているか、響かせているかと考えると、多くの場合は木です。木が音を出す素材として優れているのは理論的にも分かっていましたし、それ以上に特別な魅力があります。それで、木を使ってみてはど うかという話になりました。
── どの部分に木を使ったのですか。
伊藤 まずは振動板です。良い音を出せるかどうかの一番大きなファクターを占める部分になります。一般的にはプラスチック素材が使われるのですが、この部分の素材を決める時に、重要な二つの要素があります。一 つは伝搬速度。これは音が伝わる速さを意味します。伝搬速度が大きいほど音の伝わりが速くなり、スピード感と広がりが生まれてリアルな音に近づきます。
もう一つは内部損失。これは適度な振動吸収性、つまり余分な響きを抑えることを意味します。この余分な響きは音の雑味となりますので、それを吸収することで素直な音に近づきます。
理想は伝搬速度も内部損失も大きいものがいいんです。しかし、一般的な振動板は伝搬速度が大きくなると内部損失は逆に小さくなるといった物性があります。その中で、伝搬速度と内部損失のバランスが最もとれてい る素材が木でした。── それは実験の結果から分かったものなのですか。
伊藤 実は、優れた音響特性を持つ木を振動板に採用した“ウッドコーンスピーカー”がビクターのオーディオ部門で開発されていて、2003年には“ウッドコーンスピーカー”搭載のシステムコンポ「EX- A1」も発売されています。この技術開発が今回大いに役に立ちました。木の振動板は20年以上前から研究されていて、やっと商品化にこぎ着けたのです。ビクターにはその20年以上もの歳月をかけた技術の蓄積があっ た。それで、振動板には木が最も適しているということも分かっていました。もちろん、木を使う難しさも含めてですが。湿気が多すぎてもダメ。乾燥しすぎてもダメ。デリケートな素材なんです。
最初はどれもまともな音ではありませんでした ── 木を振動板にする技術はあったわけですね。それでは、開発も比較的スムーズにいったのでは。
世界で初めて“木”の振動板を採用した密閉型インナーイヤーヘッドホン「HP-FX500」。木の振動板だけでなく、“ウッドハウジング”を採用し、美しい響きと音の自然な広がりを忠実に再現する 伊藤 確かに、20年以上の蓄積があったからこそ、今回のインナーイヤーヘッドホンが生まれたと言えます。ただ、スピーカーとインナーイヤーヘッドホンでは、サイズがまったく違うので苦労しました。最初は、スピー カーを応用して大型のヘッドホンタイプから小さいユニットまで複数のタイプを作ったのですが、正直、すべてまともな音ではありませんでした。ただその中にも、プラスチック素材と比べて高い内部損失などが見られた り、明らかにこれまでの振動板では出なかった音が出たりと、もしかするといけるかもと思わせる結果もでていました。その一瞬の音を信じて、研究を進めたのです。
── 音にならなかった理由は? 伊藤 まず、木の振動板だけで音を出そうとしてみたのですが、どうしても上下振幅させるエッジ部が必要だった。そこで、通常のプラスチック素材の振動板を利用し、中央に木を積層させる手法をとりました。しかし、10 ミクロン程度の薄さのプラスチック振動板に木の素材を積層させるのですから、木をかなり薄くしなくてはいけません。最初は髪の毛よりも厚い180ミクロンくらいの厚さだったのですが、これだと音が重いんです。リニア な音が出ない。木の部分が重すぎて土台のプラスチックの振動板がうまく振動していないのが原因でした。
じゃあ、薄く削ればいいと思うかもしれませんが、この薄膜加工が最初の難関でした。ウッドコーンスピーカーの開発で、とりあえず180ミクロンくらいまでは薄膜加工ができていたんです。しかし、インナーイヤーヘッドホ ンで商品化するためには、最低でも100ミクロン以下でなくてはならない。更なる薄膜化を試みましたが厚さのバラつきが大きかったり穴が開いたりと、これだとロスが多すぎて生産効率が悪い。工業製品としては、もっ と安定して生産できなくてはいけません。このハードルを乗り越えたのが、日本の伝統工芸に使われる工法でした。その工法を応用して試作を繰り返し、最終的には約80ミクロンの薄さを実現しました。髪の毛より薄く木 を削り出すことに成功したんです。まさに匠の技でした。このインナーイヤーヘッドホンは開発に2年かかったのですが、薄膜化に半年から1年間費やしました。ドーム型にプレス成形、木の材質にもこだわる ── 難関を乗り切った後はとんとん拍子で開発が進んだのですか。
伊藤 とんでもない。薄くはなったが所詮は天然素材の木ですので、1個1個のクオリティーにバラつきが出るんです。それをそのままプラスチックの振動板に積層するわけにはいかないので、ある工法を使って圧縮し、 それをドーム型にプレス成形することにしました。金型の作成や成形は大変でしたが、これによってバラつきもなく、耐湿性も高く、より薄い35ミクロンのウッドドーム振動板が誕生しました。
次は、どの木を使うかにこだわりました。樺、桐、楓、ほかにもいろいろありますが、木によってキャラクターが違うんですよ。ギターを弾く人はよく分かると思いますが、ボディー材、ボディーに貼り合わせているトップ材、 ネック、ネックに貼り合わせる指板など、これらに使われている木の素材で音のキャラクターが決まってきます。その微妙な違いでプレーヤーは楽器を選ぶ訳です。素材の違いは音に表れるんですよ。
素材に関してはウッドコーンスピーカーを開発する段階でかなり研究され、そもそも削れない木や薄くできない木は分かっていましたから、我々が試作したのは10種類弱。もし一からやっていたら、とても2年の開発期間 じゃできませんでしたね。
── 「HP- FX500」は、振動板だけでなく筐体部も“木”にこだわった。一般にインナーイヤーヘッドホンの筐体には、プラスチックが使用される。しかし、音の響きや質感に妥協をしたくなかったのだ。そのこだわりはさらに高音質を 生み出すことになるが、実現までのハードルもいっそう高くなった。──
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