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ID : 3449
公開日 : 2007年 4月 9日
タイトル
「古代中国の文明観」に学ぶこと
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新聞名
Tech On!
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元URL.
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070409/130351/?ST=nano
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元urltop:
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写真:
 
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2007年2月19日付の当コラム「イノベーションとは何か」で,資本主義経済における「イノベーション・差異化→模倣…」の永久運動は,結果として高度な「技術文明」をもたらす一方で,自然を商品化することで 地球環境問題に直面していることから,その永久運動の方向を変える必要が出てきている,と述べた。そしてその糸口として,「アジアをはじめとする新興国をこの永久運動を続けるための新天地と見る一方で,西洋と は違う文化であるということを見直すことで,その方向を少しでも変えられる可能性にも注目してもよいのかもしれない」と書いたところ,以下のようなコメントを頂いた(以前のコラム)。 ■西洋文明との違いを求めるならば墨子・老子の思想・発想にヒントを求めるのはいかがでしょうか? 岩波新書の「古代中国の文明観―儒家・墨家・道家の論争」で既に春秋戦国時代に文明と環境破壊に思想家達が踏 み込んでいることを初めて知りました。墨子・老子の思想には環境を中心とした精神的且つ輪廻的な新しい価値観となる可能性があるのでは?と思いました。よろしければご一読を。 (2007/02/20) 古代人も現代人も考えることは同じ?  そこでさっそく,コメントにある『古代中国の文明観』(浅野裕一著,岩波新書)を読ませていただいた。まず驚いたのは,何千年もの昔に,現代世界にも通じるような思索が繰り広げられていたことである。逆に言うと,ど んなに文明が発展しても人間が考えることに大して変わりはないということだろうか,と複雑な思いもした。  その人類共通の考え方とは,高度文明社会の中で「勝ち組」になろうとする志向と,自然の中で人間らしく生きたいという志向という二つの側面を人間が持っていることだ。時代は変わり,環境が変わっても,この二つの どちらにどの程度の重きを置くかで様々な考え方が生まれているのではないだろうか。だとしたら,諸子百家と言われる様々な文明観が登場し,激烈な論争を繰り広げた事実に学ぶことで,現代を考えるヒントが得られ る。 古代から始まっていた森林破壊と砂漠化  この本は,のっけから「古代文明はその巨大な都市文明の発展と引き換えに,環境破壊,特に森林の破壊と砂漠化を引き起こしていた」といった内容から始まる。  紀元前1600年ごろの殷(いん)の時代には,黄河流域は鬱蒼(うっそう)とした森林が広がり,ゾウやサイなど様々な動物が数多く生息していたという。しかし,都市建設や墳墓,青銅器の製造などのために森林は伐採さ れ,材木や燃料として盛んに使われた。森林は減少し,動物も減っていった。その後,周の時代を経て,春秋・戦国時代を迎えて,軍備増強のためにさらに森林伐採に拍車がかかり,黄河流域は乾燥地帯へと変化してい った。そして,黄河流域の砂漠化とそこから舞い上がる黄砂は,近隣諸国を巻き込む深刻な問題として,現代につながっている。  古代文明における環境破壊は黄河文明に限ったことではない。1万年前のメソポタミア文明でも,ギリシア文明でも森林が破壊された。日本国際文化研究センターの安田善憲氏によると,パンや肉を食する畑作牧畜民 は,家畜を放牧することによって木々の若芽を食べつくし,水を汚染して,森林と共に水源,海まで破壊してしまったとする(これについて書いた安田氏のコラム)。  文明の発展による便利な生活と森林破壊という二つの状況に直面して,人間はどのように生きていったらよいのか,古代の人々は悩み,思索を深めた。この本では,儒家,墨家,道家の三つの思想団体が,文明と自然 と人間の関係をどう考えたのかを明らかにしている。 古代でも現代でも「差異化」の欲求は同じ?  この3グループは,おのおの特徴的な思考パターンを持っていた。それらは,筆者なりに単純化して言うと「現状肯定派」「現状修正派」「現状否定派」である。  この三つの違いがどこから来るのかを考えると,結局は「人生観」の違いのようである。儒家は文明社会の礼的秩序を最優先したが,そのために統治階層と一般大衆の経済格差を容認した。統治階層が贅沢な生活を することで秩序は保たれ,文明の高度な発展が達成できると儒家は考えた。  このことは,より豪華な生活をすることが「勝ち組」であるという人生観を生む。他人より多くの収入を得てより高価なモノを買える人間が立派な人間であるという価値観である。こうした状況が進むと,モノ自体が欲しい というより,他人と差異化されたモノを所有したいという欲望を生む。以前のコラムでも書いたように,差異化されたモノを購入した人間を見たほかの人間が摸倣することによって差異化は解消して,モノは売れなくなる。
企業は再び差異化されたモノをつくり,消費者の差異化の欲求を満たす…という永久運動が起こる。つまり,儒家の考え方は,こうした永久運動にとって都合が良い,またはベースとなる考え方である。実際,『古代中国の 文明観』の著者である浅野氏は,儒家の考え方は現代の資本主義社会にも形を変えて受け継がれている,と見る。  もちろん,古代であっても現代であっても,永久運動に必要なものは,自然を源とする無限の資源とエネルギーであることは同じである。このために冒頭で見たような森林破壊が古代でも引き起こされたわけだが,儒 家はそれに対して「自然界が人類に富を供給する仕組みは,もともと人類全体の生活を充分に支えられるようにできている」(本書p.76)という楽観論の立場をとる。 墨家の高邁な理念と自滅
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