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ID : 3290
公開日 : 2007年 3月29日
タイトル
グラス持つ指揮者 原酒の個性見極め 香りと味響かせる
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新聞名
読売新聞
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元URL.
http://osaka.yomiuri.co.jp/shitei/te70327a.htm
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元urltop:
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写真:
 
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歳月の流れを封じ込めた琥珀(こはく)色の原酒が甘く、芳純な香りを放つ。
 千利休が茶室を構えた名水の里、大阪府島本町山崎にあるサントリー山崎蒸溜(じょうりゅう)所のブレンダー室。チーフブレンダーの輿水(こしみず)精一(57)はグラスを一つ、また一つと鼻先に近づけて香味を嗅(か )ぎ分け、さらに原酒を口に含んで舌の先で転がす。「ちょっと香りが硬い」「厚みが足りない」。ほのかに異なる個性を見極め、独特の言い回しで評価をつける。
 そんなテースティング(利き酒)を毎日、時には300回も重ねて、約100万樽(たる)の原酒それぞれの熟成具合を確かめ、癖を覚える。それをどう調合すればどんなウイスキーができるか、既製の銘柄の香りと味をど う守るかを模索し、決める。
 原酒は本来、無色。5年、10年と樽で寝かせるうちに木の成分が溶け出し、香りと味、色が移っていく。
 そのままだと単調だったり、癖が強すぎたりするものも「ごく少量を他の原酒と混ぜ合わせるだけで風味に奥行きが増す。使い方によって、短所も長所になる」と言う。個性が奏でるハーモニー。ブレンダーが、指揮者に 例えられる所以(ゆえん)でもある。
「大局的視野」教えられ 鼻と舌を鍛え続ける 後進もじっくりと熟成 気温や湿度、風通し……。樽の置き場所がわずかでも違うと、原酒はまったく異なる香りと味になる。それを輿水さん(左)らは鼻と舌で見極めていく(大阪府島本町で) 輿水は山梨大学工学部の発酵生産学科を卒業。入 社18年後の1991年、ブレンダー室へ異動した。
 香りや味は数値にできないため、鼻と舌が頼りだが、その微妙な違いをつかむ感覚は教えられるものではない。当時チーフブレンダーだった稲富孝一(71)も多くは語らず、部下はそのテースティングを見て、原酒が一 つ一つどんな表現で評価されるのかに耳をそばだて、後で自分でもグラスを手に確かめた。数をこなして、経験を積むしかなかった。
 「早朝も休日も、ブレンダー室で黙々とグラスに向かっていた」と、そのころの輿水を稲富は振り返る。
 数年たち、輿水は新商品の開発を託された。会社からの課題は「和食に合うもの」。ウイスキーの刺激が日本料理の繊細さを損なわないようにするにはどうするか、試行錯誤を重ねた末、試作品をつくった。
 だが、稲富は口にするや「納まりが悪い」と、はねつけた。
 素材となる個々の原酒にこだわり過ぎたためか、確かに全体としてのまとまりを欠く味わいだった。
 「大切なのは、大局的に見ることだ」。稲富が折に触れて言っていたことを思い起こした。
 そうしてできたのが、98年発売の「膳」だった。初年度に40万ケース(480万本)が売れ、ウイスキーの新製品としては、異例のヒット。自信が芽生えた。
 稲富の後任に就き、翌2000年に責任者として初の商品「座」を出した。が、今度は振るわなかった。納期に追われながら発売した製品。必ずしも、本心から納得のいく出来ではなかった。そんな状態のまま、製品を送り 出した自分を悔いた。
 「世界に通用する品質を」と稲富が繰り返していたのをかみ締めた。
テースティングをする佐治敬三さん(左)と鳥井信治郎さん(サントリー提供) 輿水らは、製品の最終チェックを副社長で「マスターブレンダー」の鳥井信吾(54)に仰ぐ。どんな商品を出すか、輿水らが練り上げた香りと 味でいいのか、などの判断を担う、ウイスキーづくりのトップだ。
 その鳥井がタキシード姿で、輿水とともに壇上に立ち、満面に笑みを浮かべていた。ロンドンで04年9月23日に開かれた酒類品評会「第9回インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)」の表彰式。同社の「響3 0年」が約30か国の数百品の中から、日本のウイスキーで初の最高賞「トロフィー」に輝いた。
 30年以上、熟成させた原酒による高級品。仕込まれたのは、マスターブレンダーが、前任で2代目の佐治敬三(1919~99)だった頃(ころ)だ。
 「日本でウイスキーをつくり始めて80年。それが世界に認められて、大変うれしい」。鳥井は先人たちへの思いを受賞コメントに込めた。
 初代マスターブレンダーは、鳥井の祖父でサントリー創業者の信治郎(1879~1962)だった。
 日本のウイスキーの“祖”。当初に売り出し、当たったワインの利益をつぎ込んで山崎蒸溜所を開いた。後に「ニッカウヰスキー」を起こした竹鶴政孝(1894~1979)を工場長にして29年、初の本格国産ウイスキー を製造。かつて奉公先の薬酒問屋で学んだ調合技術や「大阪の鼻」と呼ばれたテースティングの能力で、その後も次々にヒット作を生んだ。「舶来品を超える国産品をつくるんや」と執念を燃やした。
 佐治はその二男。父はブレンドの極意を何も教えてくれず「おやじのブレンドのレシピを取り寄せたりして見よう見まねで覚えた」という。信治郎の右腕と呼ばれたブレンダーの大西為雄(1912~2001)や初代チーフブ レンダーだった佐藤乾(83)とも、やりとりを重ねた。
 61年に「2代目」と社長に就任。高度成長にも乗り、国内外で日本のウイスキーの地位を高めた。
 鳥井信吾は佐治の甥(おい)。山崎蒸溜所の次長を務めた30代のころ、佐藤に学ぶなどして鼻と舌を鍛え、02年に「3代目」に就いた。「ウイスキー観、世界観がはっきりしていて判断がぶれない。本質を見る力はやは りすごい」。輿水はウイスキーづくりの“血脈”を鳥井に見る。
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