奈良県吉野郡十津川村を流れる甘野川は、かつて狩り川がよく行われた。
昭和16年ごろ、それまで小さい狩り川ならば何度も経験してきた私は ここで初めて大狩り川を体験した。
川のなかにたくさんの材木を放り込むこと一遇間、雨天の日もあったが 毎日、材木を流しながら川下に向かって進んでいく。
地元の人たちは慣れた もので、一本丸太に乗ってすいすいと川下に向かうが、私のように乗れない 者は山を越えて遠回りしなくてはならない。
熟練すれば熟練するほど仕事が 楽になる、このときつくづくとこう感じた。
日が暮れると仮宿に泊まり翌日はまた材木を流すこの旅はけっこう楽しいものである。
さて、われわれが材木と流している間に目的地に先回りした先発隊が、川いっ ばいに材木を三脚に組む。
これを三機(さんき)といい、この上に石の重りをのせて固定する。
こうして流れくる材木を横にしてもたせかけ、ひと並べするとつぎに岸に向かって先を向け、引っ張り寄せる。
そのうちわれわれ 後続の者が着き、みんな合わせての陸揚げ作業が始まる。