木馬(きんま)について説明しよう。
木馬曳きは、あらゆる搬出手法の 代表であった。
が、近年、架線やトラ ック、集材機などの普及によって姿を消し、現在では見ることも少なくなった。
木馬に用いる材木は、特別な場合を除き樫とバベ(姥目樫 うばめがし)の二種類である。
バベは樫より堅く 木馬材としては最適だが、生長が遅くて用いるまでに年数がかかる。
しかも直材のとれるものが少ない。
そのためほとんど樫を利用した。
寒いところでは白樺を代用する こともあった。
ふつう、大きさは長さ3メートル、幅15センチ。
厚みの下部が 4センチ、上部が3センチである。
牛木馬の場合、長さ、幅は同じだ が、厚さが6センチ、4センチと少し厚くなっている。
ほぼこのような大きさに木挽き職が挽き割り、図のように組み立てる。
木馬は専用の木馬道を必要とする。
木馬道には肋道と縦道があり、前者は勾配のない 道を、後者は急勾配をいう。
また土道と桟橋に分けることもある。
土道は1メートルほどの木(番木)を横に並べて半埋めにする。
縦道のところでは杉など堅くない木を地面いっばいに埋め込む。
践橋はさらに梯子(はしご)式と敷き詰め式に分かれ、 前者は 40~45センチ間隔で番木を横に釘づけする。
二本そろえて釘どめするのが理想的で ある。
敷き詰め式はすきまのないよう番木を並べて釘どめする。
おもに縦道に使う。
土道、敷き詰め式の中間的なものとして片竿架け橋がある。
一方が土道、他方が桟橋の 様式で、山側が掘りやすい場合などに用いる。
縦道の場合、材木を積んだ大きな荷物を人力で支えながら少しずつ下った。
肋道では満身の力で引っ張る。
油筆で番木に油を塗りながら進んでいく。
その苦労は並みたいていの ものではなかった。
木馬曳きの盛んなころは、林業のなかでもっとも金儲けがょかった。
というのは、雨天 は危険すぎて仕事ができず、また力持ちで足元が素軽(すがる)い、機転のきくなどいろいろな条件を兼ね備えた者しか務まらなかったからである。