伝統構法と建築確認
・毎日新聞 2008/9/22
耐震偽装事件を受けた07年6月の改正建築基準法の施工により、日本の伝統的な技術を用いた木造住宅の新築や移築が難しくなっている。土壁などが健康や環境に優しいと見直されるなか、建築家などは危機感を募らせ、国産材の利用を促進したい国土交通省も対応を検討している。現在日本の木造住宅で一般的なのは2×4工法に代表される、壁や床といった固い「面」で建物を支える工法。これに対し、柱や梁といった「軸」を交差させた木組みで支えるのがもともとの日本家屋のやり方。中でも木を組む際に金物や「筋交」と呼ばれる対角線上の補強材を使わずに、木組みと粘り気のある土に水と砂とワラを混ぜて下地のうえに塗り固めた土壁で地震などの振動を吸収する工法を「伝統構法」と呼ぶことが多い。07年の建築基準法改正は、専門知識を持った構造計算適合判定員による点検制度(ピアチェック)の導入など建築確認審査の厳格化が柱。改正の結果、それまでは構造計算で安全性が証明できれば建設できた伝統構法にもピアチェックが必要になった。ところが各地で独自に発達した伝統構法は、木材の質や木組みの方法が千差万別で構造解析が難しいことなどから、それまで3週間程度だった建築確認に35~70日を要するようになった。加えて伝統構法の構造会席を行える機関が少ないことからたらい回しにあうことも多く、費用も15~20万程度かかり、金銭的、時間的に施主の負担が大きくなり、伝統構法の家作りは現実的ではなくなった。「伝統構法の家は木を組み際に金物を用いないため、さびなどの劣化の影響を受けない」と建築家の佐藤仁さん。建築基準法改正以前に佐藤さんが手がけた住宅が、大阪府東部の住宅街にある。長野県木曽の木材を使った家作りのこだわり、伝統的な方法による日本の木の家を目指して佐藤さんに設計を依頼した。ひのきや杉、けやきなど15種類ほどの木材を使った。吹き抜けの居間の上部には太い梁が何本も組まれている。「木と土壁の家は通気性もよく夏場も快適。思い入れのある家だから子供たちに引き継いでほしい」と語る。「欧米から入ってきた固い建物と異なり、伝統構法はしなやかな構造体を作ることで、粘り強く地震でも倒壊しにくい建物を作る。法改正によって、熟練した職人による日本の家作りが難しくなっているのは問題だ」と佐藤さん。国交省は、伝統的な構法による木造住宅の年間着工戸数を、法改正前は100戸とみていたが、改正により大幅に減る見込み。同省は現在、安全性を検証するための実験や大規模地震時の木造住宅の被害調査などを重ね、業界団体などと意見交換も進めており、3年をめどに評価基準を設定し、伝統構法に伴う負担を軽減したい考えだ。