植林は命を植えるもの
・日本経済新聞 2008/6/5
奈良県との県境に近い、和歌山県田辺市の西ン谷。今となっては荒れ放題の土地だが、かつては炭の生産や林業で栄えた場所でもある。「この西ン谷を立派な山、森を残したい。」西ン谷の林業や炭の生産に従事していた宇江氏はこう語る。宇江氏と西ン谷との出会いは、1950年代、宇江市が和歌山の高校を卒業し、西ン谷の植林に携わったことから始まる。6年をかけて、約150ヘクタールの山にスギ・ヒノキを植林したという。また、宇江氏は仕事の先輩から「植林は命を植えるもの。」といわれ、それから、親しみをもち、声をかけ、まるで身内のような親しみをもち育てたという。また、宇江氏の祖父・父共に西ン谷で炭焼きをしており、宇江氏自身も一緒に炭を焼いていた時期もあり、主にアカガシなどの備長炭を生産していた。しかし、1960年代半ばの植林の終了と備長炭の生産の減少で、谷から人は姿を消し、西ン谷は荒れ放題となった。山には、山鳥やイノシシを取り、川にででは、アナゴ、ウナギ取る生活を送っていた宇江氏。今でも、町での生活をせず、山の生活を営み、野菜作りや果樹に励んでいる。「山の持ち主が山を手入れし立派な材を出せるまでに回復してほしい。」と願っており、「命を植える植林」を行った宇江氏ならではの言葉である。