生きるための違法伐採
・読売新聞 2006/8/1
インドネシアでは森林破壊が進み、熱帯雨林はもう地方にしか存在しないが、インドネシア領カリマンタン(ボルネオ島)を流れるカプアス川の上流部には豊かな熱帯雨林が残っている。カルプス川は、違法材運搬の大動脈であり、重点捜査地域である。昨年、違法伐採の切り札として、全国10州に特別森林警備隊が設置された。しかし警備隊による摘発は進んでいない。カプアス川周辺の部族の中には、好戦的な部族もあり、武装したグループの摘発には危険も伴う。昨年、カプアス川上流のベトゥン・カリフン国立公園で捜査中の森林警備隊が襲われ四輪駆動車3台が奪われた。また公園事務局には放火するなどという脅迫もあった。今年に入り無許可の木材を運んだ4人組の摘発に成功したが、材木の所有者は姿を隠したままである。違法伐採グループは縦割り行政の壁に阻まれ、警備隊がすぐに動けないことを知っており、森林警備隊と軍や警察が連携しなければ摘発は成功しないと隊員の1人は語った。カプアス川下流の製材所に丸太を持ち込むのは、ほとんど上流部の貧しい農民である。住民たちの中には、伐採地では1日1人10万ルピアも稼げたが、今はゴム畑で家族全員が働いて1日20万ルピア、日本円にして約2500円がやっとであると、摘発を残念がるものもおり、国立公園近くに住む住民の中には、違法伐採グループの再来を待ち望んでいるものもいる。違法伐採が行われるようになった背景には、1998年スハルト政権崩壊後に地方分権化が進み、地方政治が伐採権を乱発し森林伐採がこれまで手つかずであった地域にまで及び、人々による盗伐も誘発された事にある。国際林業研究センターがボルネオ島の687世帯を対象に伐採による収入のある世帯を調べたところ、スハルト時代には1パーセントであったが、政権崩壊後は94パーセントに急増した。木材1立方メートル当たり約4ドルの現金収入があり、村人達は貧しさから違法伐採に引き寄せられている。