新たな「共存の道」探し
・朝日新聞 2004/11/13
雪を残したままブナが芽吹き、森冬の装いの森に青々とした葉など、山の様子は春からおかしかった。台風の影響はあったものの順調だった里の実りと対照的に、山のブナやミズナラの結実は悪く、小動物に餌を奪われた熊が里に下りて人を襲う事件が同時多発的に起きている。過去にも山の実りの悪い年はあったはずだが動物は山を下りなかった。その最大の要因が「里山の崩壊」と動物や森林の専門家は考える。里山とは農耕に伴って里の周囲に出来た雑木林等のこと、人は古くから薪や用材、肥料等をここから得てきた。それが巧まずして人の住む「里」と熊が縄張る「深山」を仕切る境になった。里山を緩衝地帯に人と熊は相互不可侵の「契約」を交わしていたのだ。定期的に人手を加えなければこの「半自然」は深山に戻るが、戦後の農業と農村の生活様式の近代化は、里山を無用にし熊と人との距離を近づけた。長年にわたり有効に機能してきた「契約」を一方的に破棄したのは人の側であり、新たな共存の形を探る責任を有するのも人の方だろう。事故防止と保護を両立させるために許された時間はそれほど長くはない。