木の命 宿したままで
・産経新聞 2005/3/7
「明日は立派なヒノキになろう」と言う意味からつけられたヒノキ科の常緑高木「あすなろ」。その材質の面白さに魅かれ、あすなろで創作民芸品を作る 神谷久仁彦さん生まれは輪島市の農家である、小学の頃からご飯や風呂焚きに使っていたのが「あすなろ」だったという。子供の頃からの仕事だったというから縁は深い。もこもこした葉っぱの形が「うろこ状」で面白く、緑の葉っぱの裏地が白く、美しいコントラストを見せる。中学、高校と輪島の人と自然と人情とを俳句に詠み続け、卒業間近になって「俳句を詠むような気持ちで『あすなろ』が持っている木の命を自分なりの作品にして表現していこう」と決心した。26歳の春金沢に出た。借りた家の裏庭で、ナタで木を割り、年輪を表情として生かしながら小刀で愛嬌たっぷりな作品を彫る。円空仏のような荒々しくも素朴な「仏」も刻む。自然にゆがんだ木の股をそのまま生かした像も作った。紙の上に、葉っぱや茶褐色の薄い樹皮を張り合わせ質感あふれる作品も描いた。昭和41年にあすなろが県木に指定されたことで作品が売れだし、46年に工房と店を開き、48年には作品「フクロウ」が石川県観光連盟推奨となった。その店の陳列の中の5分の1は「売る気のないもの」つまり非売品。木は伐られて一度死ぬ。だが、それからは年輪に刻まれた年月だけ再び生きる。だから創作民芸品といえども、出来るだけ素材を生かし「なるべく彫らない、色付けしない、人為的なことをしない」と心がけている。